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自称勇者 第二十三部 第一章

「颯真はずっとこんな事をしていたわけ? 」


「こうやらないと倒せないから」


「でも、あの人は人間でしょ? 」


「身体は魔物だから」


 倉吉先輩と颯真の話がかみ合わない。


 まあ、実戦でせざるを得なかった事をしてきたものと、そうでない平和な世界で生きていたものの差か。


 残虐すぎると颯真を倉吉先輩は非難していた。


「でも、これなら奇麗に食べてくれるんだ。ほら、染みも残らないだろう? 」


 などと颯真が空気を読めない発言をした。


 確かに小鬼は血の一滴も残さないように舐めとって、あれほどの巨体をしていた剣聖アウロスと言うか魔王とのキメラは美味しく完食されていた。


 それで倉吉先輩がさらに激怒した。


 ふふふふふ、良し良し。


 恋人など颯真にはいらんのだ。


 喪女の私からすると二人が言い合いして、ちょっと深刻になっているのが凄く微笑ましい。


「いや、お前、そういう所はどうかと思うぞ? 」


 魔法使いの爺さんが私の心を読んで突っ込んできた。


「いや、幼馴染の恋人などいらん。某漫画誌みたいに絶対に幼馴染の恋人が勝つとか、作者ですらこっちの女の子の方が良いと思っても読者がずっと待っていた幼馴染の立場がってんで、怒られて諦めるとかどうよ」


「いや、何の話だ? 」


「幼馴染がいない我々からすると腹が立つのだ」


「それは同意だな。親が転勤族は友達関係に入り込めたら、すぐに転勤だからな」


 などと大翔兄が論評する。


 これは転勤族の子供に生まれないと分からない話だろう。


 特に転勤の関係で転校して来ると、出来上がった友人関係に放り込まれるような形になるから、好きな人をを作るよりも、まずは溶け込む方に必死になるから恋愛関係とかまだまだ先の話である。


「呑気だな」


「止めてあげたら? 」


「いや、俺はさっきなんで戦わないって叩かれまくったし……」


 優斗と一真に言われたけど、大翔兄は真顔でそれを断った。


「それにしても、なるほどな。あれほどの巨体があっという間に食べられてしまった。あんな風に食べやすい大きさにチタタブしてくれるなら、喜んでたくさんの小鬼達もついてくるし、タルタルステーキとかはプロレスラーがケチャップをつけてニンニクをバラまいて最高のスタミナ食として食べるくらいだからな。颯真は小鬼達にとっては無くてはならない餌の元なのだろうな」


「ちょっとおおお! 」


 などと大翔兄の分析を聞いて、倉吉先輩が吐きそうな顔をした。


 ついでに、優斗と一真も同じような顔をしていた。


「だがな。あの大きな魚に張り付いて残り餌をあさるコバンザメが、いまやあろう事かブリとかの養殖の網の下で横たわって、網から落ちて来た残り餌を食べて丸々と太って海底に横たわっているくらいだからな。安定して美味しい餌場があればコバンザメですら、本来の生態を捨ててしまうのだから」


「いや、何の話だ? 」


 魔法使いの爺さんが呆れて、大翔兄に突っ込んだ。


 だが、その話は私も知っている。


 網の下にいれば上から餌が降ってくるのだ。


 コバンザメはその網の下の海底で丸々として生きている。


 安定して旨い飯が手に入るのなら、本来生まれついた生態なんてどうでもいいのだ。


 働かざるもの食うべからずなど嘘である。


「いや、お前の考え方もどうかと思うがな」


 魔法使いの爺さんが相変わらず、心を読んで突っ込んできた。


「まあ、でも、これで、あちらの女神の軍隊が勝てば終わりだな」


「いくらなんでも、主力の魔族の魔王がここにいて、主力の魔王の軍も一部連れてきてるんだ。勝てないと言う事は無かろう」


 そう大翔兄がほっとした顔で話したので、私も思っていた事を答えた。


 突然に巻き込まれた戦いがやっと終わるのだ。


 とりあえず、あの女神との問題は残るのだが。


 などと思っていたら、廃城の方の森からバラバラでこないだ出かけて行ったピカピカの鎧を着ていた連中が、何があったって感じのボロボロになってバラバラにこちらに向かってくる。


「勝ったのかな? 」


「……それにしちゃあ。なんかまとまりがあると言うより、バラバラでボロボロでこっちに向かってくるんだが……」


「お前の大人になった女神を考えた推定だと、敵の最大の問題は颯真に任せたんだよな」


「そのはずだ。そもそも、魔物も主力だとして、魔王がいないのに戦っても難しいと思うのだが……」

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