自称勇者 第二十二部 第十二章
剣聖アウロスが私を盾にしようと向かってきた。
そう来るのか。
剣技としての膂力は颯真もカタストロフィさんもそれなりに素晴らしいものがあるが、俊敏さの方は、先ほど倉吉先輩を奪われそうになったように、巨体だが剣聖アウロスの方がやや優れているようだ。
まさか、私を盾にしようとするとは……。
真面目な話、完全にそれは私の想像から抜け落ちていた。
颯真の一番大事な人を盾にして、颯真をいたぶるのは読んでいたが、この神の姿をしている私を狙ってくるとは思わなかった。
姿が、あんまり強そうに見えないからかな?
ただ、ちょっと真面目な話で悪手だと思うぞ。
大翔兄は主人公みたいにたとえ負けると分かっていても男なら戦うべき時があるとか言うのは全くない。
黙ってやられるタイプでは無いが、それは最後の最後の手段で自分の能力はここぞと言う場所まで温存するタイプだ。
基本は相手が隙を見せた時に初めて動くのだ。
ここで一撃を与えたら勝てると見たら動くと見て良い。
私は予想してなかったが、大翔兄はそれを予想していたようだ。
いつの間にか大翔兄が剣聖アウロスの側面に回る。
恐らく大翔兄は全然戦おうとして無いので、剣聖アウロスからはあまり強くないと思われていたのだろう。
とにかく、私を盾にして何とか生き延びねばと思って動いたようだ。
大翔兄の師匠の爺さん先生は伝統派の空手とともに古流もかなり精通していた。
その古流の暗器として必殺の力を持つ万力鎖。
30センチほどの鉄の鎖で左右に分銅がついており、ポケットに入る程度のものだが、熟練者が持つと最も優れた柔軟な攻撃力を持つと言われている。
それを徹底的に習っていた大翔兄は、一瞬にして万力鎖を鞭のように振り下ろす。
忍者の必殺の道具としても呼び名があり、そちらの名前は微塵と言う。
頭蓋骨の唯一弱いコメカミを狙って、短いながら鞭のように振ってそれを破壊するのだ。
そうやって、コメカミから頭蓋骨を微塵に砕くから微塵と呼ばれているのだが、それで一瞬にして剣聖アウロスのコメカミを粉砕した。
それも、大翔兄は相手に無敵の再生力があるのを知っているので、鞭を連打するようにコメカミを延々と執拗に破壊し続けている。
再生力が凄くても、脳を破壊され続ければ動けなくなる。
それを大翔兄はやって剣聖アウロスの動きを止めて見せた。
その事は追ってきている颯真も倉吉先輩のカタストロフィさんも見逃すような連中ではない。
渾身の颯真の上段袈裟斬りの一撃が深々と剣聖アウロスのキメラの心臓まで両断した。
カタストロフィさんは渾身の力で剣を持つ左右の手首を皮一枚になるように斬り落とす。
無力化するのを考えていたみたいだ。
だが、颯真は違った。
「いぇぇぇぃっ! 」
珍しい颯真の雄たけびとともに、颯真の袈裟斬りはそれだけで終わらず、首を斬り落とすと、連続の凄まじい連撃で徹底的に剣聖アウロスをミンチにしていた。
「チタタプ」
大翔兄の何気ない一言で吐きそうになった。
魔王がどんな姿なのか知らんが、今は剣聖アウロスの姿をしていたのだ。
人間のミンチなんて見たくないわぁぁ!
それに、小鬼達が大喜びで集まった。
「タルタルステーキにして小鬼が食べやすくしたわけか」
「いや、そういう事言うなよっ! 」
実戦慣れしている魔法使いの爺さんもドン引きして吐き気を催すくらいの風景だ。
横で優斗と一真が吐いていた。
私も吐きそうだ。
「なんで、ゲロ展開に……」
私が呻く。
「いや、魔物の上位になると、すぐに復活するんだ。それを小鬼が食べると復活しないから、少しでも早く食べれるようにだな……」
ようやく、連続のチタタブを辞めて一息ついた颯真がこちらに真顔で話す。
それで、魔物が颯真を見ると悲鳴を上げて逃げてたんだ!
魔物を片っ端から追っかけ続けて倒してたからじゃないんだ!
ひぇぇぇぇ!
何という真実!
そして、生き残った魔物達もその光景を見て悲鳴を上げて逃げた。
これじゃあ、魔物も逃げてもしょうがないよな。
「さあ、今度は俺との決着だ! って! 糞っ! これは本体じゃないのか? 」
倉吉先輩のカタストロフィさんが叫んだ。
どうやら、覚醒させた事で底にいた本体の残り香のようなカタストロフィさんは、そこで、その力を使い果たしたようだ。
「ちっ! 本体は向こうか! 仕方ない! 待ってるぞ! 」
などと最後に颯真に叫ぶと、倉吉先輩に戻ったらしい。
それで倉吉先輩が気を失って倒れそうになるのを颯真がさっと支えた。
まあ、二人の関係は幼馴染だけじゃないなぁ。
ちっ!
喪女の私からするとうらやましい。
「なんだよ。皇弟はやっぱりカタストロフィさんを連れてきていたんだ」
「あれも颯真と戦いたがっていたからな」
大翔兄の言葉に魔法使いの爺さんが呟いた。
「あちこちに狙われてんだな」
「そりゃ、一応、こちらの世界だと人類最強とか、歴史上最強とか言われているからな。武に生きるものならやりたいだろう」
「そうか? 」
「お前が変わってるだけだと思うが……」
大翔兄の変わらぬ武道家と思えない、その姿に魔法使いの爺さんが呻く。
「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 」
全てを切り裂く感じで倉吉先輩が悲鳴を上げた。
「自分を取り戻した途端にチタタブのタルタルステーキとそれを頬張る小鬼達を見たらそうなるわな」
「いや、お前のその言い方も引くわ! 」
「俺らだってゲーゲー吐いてんのに! 」
などと私の言葉を優斗と一真が非難した。
でも、これでやっと最悪の剣聖アウロスと魔王のキメラは倒した。
やっと終わったなと思った。




