自称勇者 第二十一部 第五章
「もう少しリヤカーが進んでから、自分が颯真だって言ってくれればいいのに」
一真が愚痴る。
冒険者達が集まってきたおかげで参加希望の連中がリヤカーを押してくれていたのだ。
だが、リヤカーの旗を見て、颯真がいるのを理解した途端に一斉に逃げた。
「あんなに怖がられているのか? 」
優斗も苦笑していた。
「いや、どちらかというと冒険者というのはリスクに対して敏感だからな。あの年齢で生きているだけで、リスクに対して敏感でヤバいと思ったら逃げるのをやってた連中だろうな。やばいと思ったら、自分だけ逃げるくらいの奴でないと長生きできない。一部の異常に強いやつとか特異な奴でない限りわな」
魔法使いの爺さんが冒険者あるあるの話をしだす。
「生き延びるのが、まず第一だからな。そうでないと生きてけないよ」
颯真が笑った。
「いや、お前は強いんだろ」
「一番強い奴が言う話じゃないと思うが」
優斗と一真が突っ込んだ。
それに関しては悪いけど、私も同意見だ。
「別にヤバいと思ったときは逃げてるんだがな。それでしばらくしてから、背後から追い続けて相手を殺すと言うのが俺のやり方だから。あの糞アウロスですら、そこまでいつこくやらないから、それで引かれたんだと思う。基本的にこの世界の奴らは出会いがしらの戦いばかりだし狙い続ける奴はいない」
颯真が苦笑した。
「つまり、この世界との文化の違いもあるって事か」
「そう言う事だと思うが」
大翔兄の疑問に颯真が頷いた。
「まあ、元寇でモンゴル軍が今まであらゆる場所で相手をビビらせてきた、捕虜を船から吊るして盾みたいにして威嚇するのも、笑ってその人質を射殺されて、相手の敵将の首を斬って槍でさして相手に見せつけるってのも、逆にわれらの大将の首を取り戻せって本気で死ぬ気で攻撃してきたりって文化の違いでビビりまくったらしいから。そういうのあるかもね」
私がふと思い出して呟いた。
常識が違うと全然違うから。
ちなみに使者は敵中に話し合いに行く勇者扱いで、モンゴルでは凄く尊敬されるが、逆に使者を殺すと、その部族はギャクサツして良いとかあるのに、モンゴルの使者が来るたびに殺し続けたのが鎌倉幕府で、途中から幕府の降伏勧告の使者が和平の使者に変わってるのに関係なしに斬り続けたもので、むこうの使者が倭国に行きたくないって騒いで処刑されたりとか、まあ文化の違いの怖さだろう。
「それは文化じゃないんじゃないのでは? 」
「いや、まあヤバい奴と戦いたくないってのは世界共通だろう」
「……それを言ったら、貴方は本当にその誰かと戦って大丈夫なの? 」
倉吉先輩が心配そうに颯真に聞いた。
「ああ、大丈夫だ」
颯真が苦笑した。
「まあ、剣聖アウロスよりヤバいから」
「いや、それは言うべきなのかな? 」
「ちょっと、空気読めよ」
などと一真と優斗が私に突っ込んだ。
まあ、本気で颯真だってわかった途端にあれだけいた一緒に行くって言う冒険者が一斉にいなくなったしな。
まあ、剣聖アウロスと戦うってのもあるのだろうが、彼らの怯えた目は颯真に注がれていたので、そのあたりは倉吉先輩には言えんな。
「意外と優しいのだな」
「そら、全部颯真に任せるのに当たり前だろ」
心をまたしても読んできた魔法使いの爺さんに私が突っ込んだ。
私は戦う気など微塵もない。
「まあ、あれに勝てそうなのが颯真しかいないから、しゃーないよな」
大翔兄もぶっちゃける。
「いや、貴方達、神の血筋なんじゃないの? 」
倉吉先輩がちょっと怒ったように私と大翔兄を睨む。
もう、颯真が大事って恋心を隠さなくなってきた。
「神の血筋とか言うなら、多分、全員そうだろ」
「ああ、あり得るな」
大翔兄がそういうので、私も納得した。
「いや、クオの血混ざりは颯真と魔法使いの爺さんだけでは? 」
「そうだぞ、俺達は単なるクルトルバの混ざりで……」
一真と優斗がそう反論した。
「いや、あそこまで女神がはめ込んでやるんだから、クオの血混ざりだと思うぞ。一応、適当に選ばれたように見えて、そう選ばれると見てやっていると思う」
「多分な」
私と同意見らしくて大翔兄も頷いた。
「そんな馬鹿な」
「あり得ない」
「女神は日葵と同じだぞ? 」
などと優斗と一真が喚いたが大翔兄のその言葉で黙った。
いや、解せぬ。
それはおかしいだろ。
「どちらかってーと、死体が無いから、ゾンビ化使えないな。戦場から死体をテレポートして拾ってくるか? 」
大翔兄が鬼みたいな事を言い出した。
「兄妹だよな」
「血のつながりを感じるわ」
などとそれでさらに優斗と一真が頷いた。
ますます解せない。
そんな馬鹿なことを皆で言いながら、王城の城壁の門から出た。
門番は連絡が来ているらしくて、頑張ってくださいとか熱く語っていた。
私達について来るとか言わねぇんだな。
碌なもんじゃねぇ。
まあ、私も同じ立場なら、同じことするが……。
「全く相変わらずじゃの? 」
とか言いながら、リヤカーを押してふーふー汗を流して、魔法使いの爺さんが私の心を読んで突っ込んできた。
「いや、それは良いから、テレポートしろよ」
「王城出たら、出来るんだろ? 」
汗をかきながら、私と大翔兄が突っ込んだ。
「ああ、そうじゃったな」
など馬鹿な事を魔法使いの爺さんが言う。
「テレポートしないと、こんなもの丘まで押してられないだろ」
「単純に最初から馬を借りたら良かったんじゃね? 王城の中でも……。
私が厳しく魔法使いの爺さんを詰めると優斗が街道を指さして呟いた。
そこには王城に向かう馬車がいた。
「早く言えや! 」
「勢いで押してきちゃったよ」
などと私と大翔兄が騒ぐ。
結局、どこまで行ってもグタグダは変わらなかった。




