自称勇者 第十九部 第二章
「何だか、お久しぶりですね」
門番の男がそう魔法使いの爺さんに聞いた。
「え? アルバートでは無いか。お主は城内の警備の隊長とやらに出世したのでは無かったか? 」
ちょっと魔法使いの爺さんがそう驚いた。
「いやいや、今はその警備の仕事として来ております。女神に仇なす暴行魔がこの城に向かっていると御神託がありまして」
などとアルバートと呼ばれた警備の隊長とやらがじろじろと大翔兄を見た。
女神に仇なす暴行魔っておいぃぃぃ!
その手があったかっ!
大翔兄が一瞬だがしまったって顔をした。
女神が国家権力を使って復讐とか……。
いやいや、ちっさ!
何という小さい行為だ。
あまりの小ささに驚くより親近感がわく。
やばいな。
マジでうちの兄妹と関係あるわ。
「まあ、待って欲しい。我々は女神が行っている事に巻き込まれてこちらに来たのだ」
そう大翔兄が一瞬の動揺を抑えて、魔法使いの爺さんと颯真を見た。
この二人の仲間だと言いたいらしい。
「らしいですな。そう言う話は女神の神託でございました」
「神託であったのぉぉぉぉ? 」
大翔兄が叫ぶ。
何という警備隊長のアルバートの爽やかなくらいの正直さ。
お前だけは逃がさないって感じで続く。
やるなぁ。
「貴方まで戻ってくると思いませんでしたよ。勇者ジェノサイダー」
などと警備隊長のアルバートが颯真を微笑んでみた。
「いや、俺はそう名乗ったことは無いけど」
颯真がむっとして言い返す。
やはり、そのままはっきりと言われると腹が立つらしい。
「アルバート。わしはお前の父とは親友づきあいをしていたから言うが、昔から一言多いのは良くないと言われていただろう。こんな恐ろしい奴にそれをやるのはどうかと思うぞ? 」
魔法使いの爺さんがちょっと呆れたように話す。
「いや、それも女神の御神託でご指名だったんです。私も命がけですから」
などとアルバートが握っていた手を開いて見せて、手にべったりと汗がついているのが分かる。
「お前の家は緊張すると手に汗をかくタイプだったからな」
などと魔法使いの爺さんが呻く。
そこで気が付いた。
やられた。
あの糞女神、いちいち鮮やかすぎる。
暴行罪を狙っているわけだ。
颯真や大翔兄を怒らせて殴らせる。
罪が重いのだろうな、こちらが殴ったりしたら。
警備隊長のアルバートの瞳に命がけの炎が見える。
さぁ、殴ってみろ。
俺が殴られたら、確保だ。
そういう覚悟がひしひしと感じる。
だが、相手が悪かった。
颯真はこの世界でも容赦が無いようだ。
「あ! 」
倉吉先輩が小さな悲鳴を上げた。
まさかのスピードで颯真が警備隊長のアルバートの胸倉を掴もうとしたのを掴む前に大翔兄が抑えた。
手のツボを押さえながら関節技も使用して颯真の腕を捻りこむ。
見事なものだ。
やはり、この世界は剣技は習うが、この手の捕まえたりするための関節技とかはあまり使わない為に、徒手術に関しては意外と無知なのだろう。
「待つんだ。これはわざと怒らせて、暴行したと逮捕したいのだ。胸倉を掴んだだけでは暴行罪にならないと日本のヤンキーとか思っているが、実は暴行罪は成立する。おそらくは女神もそう言う法律をこの世界で作っているはず」
「ふふふ、なるほど。大した慧眼だ。確かにそういう法律はある」
魔法使いの爺さんが微笑んだ。
「と言う事で一番怒りそうなのを煽って俺達を捕まえようとするのは無駄だ。恐らくはそれで逮捕されるかの形で報復して、女神は俺達を解放して貸しを作ろうとしている。そうだろう? 」
大翔兄が警備隊長のアルバートに聞いたらちょっと迷ったが頷いた。
「いや、別に関係なしに暴れるから良いけど」
颯真が淡々と話す。
ビビりまくる警備隊長と警備のおっさん達。
「いや、暴れたら駄目なんじゃないの? 」
「俺がマジで暴れたら止めれる奴なんて、この城にはいない」
颯真がさらに淡々と話す。
おやおや、暴れん坊さんですね。
これはいけない。
脳筋だったの忘れていたよ。
皆が顔を見合わせる。
颯真の顔が平然としていて、逆にマジっぽい。
やばいな、本気で暴れても良いって思ってるよ。
私や大翔兄や颯真や一真と魔法使いの爺さんだけでなく、警備隊長のアルバートと警備の人まで顔を見合わせている所が深刻さが分かる。
全員が真剣だ。
やべぇなって顔していた。
「参ったな。まあ落ち着いてくれ。とりあえず、その女神を仇なす暴行魔とやらが我々だとは限らないだろ」
などと颯真の止めていた手を放しながら大翔兄がオーバーアクションで警備隊長のアルバートに話しかけた。
そうしたら、焦った顔で巻いてある紙を拡げだした。
その紙には絵が描いてある。
「女神に言われた聖女アイリスがお書きになられたそうです」
「大翔兄だ! 」
「上手っ! 」
なんてこった絵も描けるんだ。
参ったな、誤魔化せない。
「だから、もう抗うのは仕方なかろう。」
そう颯真が淡々と話す。
余計に怖い。
「ちょっと、それじゃあ、あの人たちを脅しているじゃない」
倉吉先輩がそう突っ込んだ。
「いや、いつもの事だから」
いつもの事なんだ!
全員の口がそう同じように動いたように見えた。
そう言えば女神の影響のせいか、この世界の奴等の言葉は日本語でやんの。
「逮捕はしませんので、女神様の御神殿にお連れしますから」
それで目が飛び出るような顔をした警備隊長のアルバートが懇願するように答えた。




