自称勇者 第十七部 第五章
「何があるの? 」
私が単刀直入に住職である志人兄に聞いた。
こういう時は志人兄には直球で聞くに限る。
何しろ、生真面目なんで正論的に押せば押すほど生真面目に受けて仕方なく喋ってくれると言うところがある。
「えええと……」
住職の志人兄が目を反らした。
「父さんと母さんもいるし、たくさん信徒さんも今は集まって、ここで生活しているから、皆の安全にも関わるし。そもそも、その雰囲気だと問題が終わったわけではないよね」
大翔兄が目を反らした住職の志人兄に聞いた。
「え? 」
「封じてあるのでは? 」
一真と一真の父の副住職が同時にその言葉で驚く。
「あ、ああ……」
「封じ切ってないよね」
「なんか残ってる」
動揺している住職の志人兄に畳み込むように私と大翔兄が続けた。
「封じていたら変な気配はしないはずだけど」
よりにもよって颯真まで参加してきた。
これで流石に黙っているのは無理かと言う顔で一気に息を吐きだすと住職の志人兄が深いため息をついた。
「本堂の地下に洞窟があるんだ」
「洞窟は一応、奥の院みたいな扱いで軍荼利夜叉明王を祀っているのだが……」
そして、一真と一真の父の副住職も、それならば言わないとと言う感じで話しだしてきた。
一真のヤンキーみたいな容姿に比べて、実は生真面目だったりするところも意外と志人兄の性格のままなのかもしれない。
などと考えていると、魔法使いの爺さんが私を見ていた。
そのこちらの考えにフォーカスして読んでくる性格を何とかしてほしいのだが。
「好きでそうなるんじゃないがな」
魔法使いの爺さんがそう吐き捨てた。
まるで私が悪いみたいではないか。
そう私と魔法使いの爺さんがちょっと睨みあっている間に観念したのか住職の志人兄が話し始めた。
「悪いものがいると言うよりは、やばい場所があると言う事だ。寺では僧侶しか行けない奥の院扱いで<別宮>とか呼んでいるが、その本来の名が<神隠しの洞窟>と言う」
住職の志人兄がそう答えた。
「あああ? 」
大翔兄が私と同じことを考えたようだ。
「つまり、颯真たちが行っていた異世界への出入り口があると言う事か? 」
私がそう突っ込んだ。
「ま、まあ……そうだ……」
「えええ? 」
「はああ? 」
住職の志人兄が的確に私が突っ込んだので、動揺したように皆が呻く。
一真と一真の父の副住職も詳しく知らなかったようで、あからさまに動揺していた。
「知らなんだ」
優斗は一真の幼馴染な為に、余計にその事実に驚いていた。
「つまり、夢枕に立ったと言うのは、その洞窟を使って女神が接触してきたって事なのかな? 」
私がそう聞くと、しぶしぶと住職の志人兄が頷く。
何の事は無い、あの糞女神、大した力を持って無いのではと不安になる。
自分の力で転移させてたのではなく、この洞窟を使用して颯真とか連れてったのかもしれない。
何しろ、颯真も魔法使いの爺さんの大豆生田外郎も実はここの出身である。
女神の加護とやらも、それぞれが眠っているクルトルバの力を発現させているだけなのではと?
しょぼい。
しょぼすぎる。
あの糞女神……まさか、本当に私じゃあるまいな。
凄く不安だ。
こういう、実はしょうもない事をやっているのに、それを大げさに大仰にやって見せるとか、まるで私じゃないか……。
私はそういうしょうも無いのが結構得意だ。
だからこそ、聖女なんてクラスが私に来たのかと思ってしまった。
こういう霊感が凄いとかは現実は詐欺や話術で誤魔化せるからな。
例えば、スピリチュアルリーディングとかするので相手に先に受付の前で相談事とか子細な事を書かせて、それが霊能者役に渡らないようにして相談者を先に霊能者に会わせる形にして、それを相談者に霊能者役が見てないはずなのに書いたことを霊能者役に言わせて相談者を驚かせると言う詐欺があるそうだが、実は中身だけ内緒で霊能者役に伝わるようにしてあるだけである。
それとは別で、貴方の家の庭に木がありますか? とか聞いて、あればそれをおどろおどろしく「それは危ない木ですね」とか騒いだりしてひっかけるわけだ。
そうでなければ、「それは良かった。あったら大変な事になっていますよ」とか何もなかったように続けて終わらせるのだ。
相手は相談者の家を知っているはずが無いから、木がある場合は、この人は本物だと勘違いするわけだ。
別に話術で質問にどう答えようが凄い事を言ってるように見せかけているだけなのだが、私は人間関係で、そういうハッタリとかしてきたので余計にそう思っていしまっていた……。
そういや、]昔に転校したばかりの時に、クラスメイトの鈴木さんとか佐藤さんとかにいろいろやったなぁ……。
などと思っていたら、今までに見たことが無い表情で私を魔法使いの爺さんが見ていた。
つい、懐かしくなって、自分の過去のいくつかのエピソードを思い出したばかりに、魔法使いの爺さんに読まれてしまったようだ。
「いやいや、あくまでパッとした私の感想だぞ? 」
「感想と言うか事実の羅列に見えるが」
「まあ、子供だからな。そういう時期はあるものだ」
そう転校生のプロフェッショナルとしては、そうやって相手に実は凄い奴と思わせるのは重要なポイントでもあるのだ。
虐めとかは、ブリがイワシの群れから離れたものから狙うように、誰とも馴染めずポツンといる奴にする。
仲間が多い奴にいじめを仕掛けたばかりに反撃されたら、自分が虐めの対象になるからやらないものだ。
それで転校生はそういう虐めの的になりやすい。
だからこそ、自分を大きく見せると言う事は大事だったりする。
まあ、この市に来たときは、転校時のテストの成績が良かったせいで、逆に目立ちすぎてもいけないと地味になるように振舞っていたが……。
などと、私は自分の人生をさらに振り返り、言い訳のような事を思っていた。
「お前、一体、どんな人生をしてるんだよ」
苦々し気に魔法使いの爺さんに言われる。
たしかに余計な事をしてしまってたかも。
私が嵌めた鈴木さん、騙した佐藤さんごめんなさい。
だが、仕方ないでは無いか。
弱者の戦術だし。
畜生、そもそも勝手に女性の私の心を読むなよっ!
誰でも秘めたるものがあるのだ!




