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6.それはしまっておこう

彼を初めて見たのは、ある日のバイト終わりだった。


「お疲れ様です!」


 私はいつもの通り、オーナーに挨拶をしてをカフェを出た。今日は朝から昼過ぎまでの勤務であった。スマホを確認するとまだ14時。夜ご飯まではまだまだ時間がある。この後何しよう。何も決まっていない暇な時間というのは私は好きだ。私の心が弾むように、まかないとしてもらったドリンクが歩く揺れで波打っているのを感じる。そんなことを考えていると、一人の男の子が目に映った。少しうつむきながら歩いていて、「なにもない」といった顔をしていた。楽しくもない、悲しくもない、ただ「なにもない」その表現だけが適している。気づいた時には体が彼に向かっていた。


「あ、あの!良かったら、こ、これ、飲んでください」


 まかないのものではあるが、自分のドリンクを彼に渡した。すると彼は、表情を変えないまま私も見た。途端に恥ずかしくなった。


 何してんだろ私。余計なことしちゃったかな。


 「急に渡しちゃってごめんなさい!」


 私はそのまま彼から離れた。



 そんな後悔をしてしばらく引きずっていると、彼はカフェにやってきた。この前とは違う顔。緊張している顔。と思ったら笑っている顔。噛んで恥ずかしそうにしている顔。その様子を見ているとあの時の自分の行動は間違っていなかったのかなと少し自信が持てた。


 そして、そんな彼に一瞬にして興味を持った。どんな人なんだろう。


*******************************************


 私は宇多津琉瑠夏、高校2年生で勉強もそこそこ、空いた時間はカフェでアルバイトをしている。友人はそんな多くなくて、積極的に話しかけれる…タイプではないかな。でも、最近話せる人が増えた。クラスは違うけれど同じ学年の2人。1人は琴平唯愛ちゃん。ふわふわした雰囲気のハーフツインが特徴的で、誰とでも楽しく話しているとっても優しい子。お昼も良く誘ってくれて、数日間でとても仲良くなったと思ってる。もう一人は、綾瀬圭太くん。あの日、出会った子。学校では表情豊かな人で唯愛ちゃんとも仲良く話してる。あの日、あんな表情をしていたことを忘れるくらい。

 彼は日々にどんなことを思っているのだろう。どんな思いで接してくれているのだろう。悪い印象ではない…はずなんだけど。簡単に触れたらいけない気もするから、私の中にそれはしまっておこう。


「るーかちん!おっひさー!」


「わっ!」


 突然、後ろから女の子が飛びついてきた。


「その声は美月ちゃんかーびっくりさせないでね」


「ごめんごめんー!たまたま見かけてさー」


 飛びついてきた子は屋島美月やしまみづき。私の幼馴染だ。小さい頃から仲が良く、小中と同じ学校に通い、高校も一緒だ。2年生ではクラスが離れてしまったが、変わらず関係は続いている。そして、私のよき理解者でもある。


「最近、るかちんと一緒に入れなくてごめんねー!部活も忙しっくてさー」


「私は大丈夫だよ、美月も大丈夫?無理はしないでね」


「うぅ、、るかちん優しい!好き!ハグ!」


「はいはい、美月わかったからー」


 私にハグする美月。人の多い廊下であるため、人の視線が気になる…変なこと思われてないよね?恥ずかしさが許容範囲を超えたため、美月をなだめながら解放を試みる。素直に気持ちを言葉で行動で示してくれるところがこの子の良さだけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。


「そういえば、最近違うクラスの子とご飯食べてるってきいたよ?」


 さすが美月。そのことまで知ってるんだ。初めて2人食べた時教室なぜかざわついてたし、それが伝わったのかなーとか思ったり。


「うん、Cクラスの子たちと時々食べてるかな」


「やっぱりそうだったんだ!るかちんの友達増えてうちもうれしい!その中に男の子もいるらしいねー?ねー?」


 私をからかう笑顔をしながら聞いてくる美月。美月はこういう話に敏感なのは昔からのことだ。


「…それは…そうだけど」


 少し濁した返答をした。それでも美月は変わらず興味津々といった表情だった。


「その子はなんて名前なの?」


「あや…せ…くん」


 ダメだ。さっきまで彼のことを考えていたせいで名前を出すことも緊張してしまう。


「へぇ~?もしかして、るかちん」


 美月は私の近づいて、耳元で囁く。




「その子のこと、気になってる?」





 自分の体温が急激に高まるのを感じる。この気持ちはどうあがいても自分で処理はできない。顔に出てしまう。


「み、美月!」


「へへっ、ちょっとからかっただけ!また一緒にお昼しようね!カフェにもお邪魔する!」


 そう言うと彼女はBクラスに足早に帰って行った。


 この高まった体温はしばらくそのままだった。

 



 




 


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