5.美少女と美少女と俺
「改めて琉瑠夏っていいます。よろしくお願いします、綾瀬さん」
「あ、うん、よろしくね、宇多津さん」
「ちょっと圭太、もうちょっとシャキッと挨拶できないの?」
お昼休み、天使、ゆるふわ女(仮)、おまだれ陰キャ男という謎の3人が集合していた。しかもここは、天使が所属する2年Aクラス。俺とゆるふわ女が属する2年Cクラスではないのだ。周囲の人々はこの状況に戸惑いを隠せない様子だった。そりゃそうだろう。学年一の美少女の圧倒的存在感はもちろん、このゆるふわ女もかなり可愛いと人気で男子生徒からはモテているらしい。可愛いのは分かるが、秘められた性格が明らかになればそのモテ度はどうなることやら。俺が告発していないことに感謝の意を示してほしい。そして上級美少女に囲まれているのが、この俺である。死にたいよおおおおおお。絶対なんでおまえそこにいんの?って思われてるってえええええ。そんな状況でシャキッとできるほどの主人公気質もってないから俺ぇぇぇぇ(泣)。
そもそも、この集まりは俺が無理矢理押しかけて作ったというわけではない。天使こと宇多津さんと運命的再会(主観)を果たした後、「これも何かの縁なので一度ゆっくりお話しませんか?」と神の祝福に値する提案を行ってくれたからだ。軽率で単純である俺はその提案に歓喜し、4時間目までの授業もルンルンにこなしていたわけだが…この状況は嬉しくもメンタルが消耗するものであった。どうしよう…おまえは天使に近づくな!出禁だ!って靴箱に紙入れられてたら…2日間学校休もうかな…2日だけかい。
「私は琴平唯愛っていいます!仲良くしてね!琉瑠夏ちゃんだから、るるって呼んでもいい?」
「るる…嬉しいです!私も仲良くしたいです。よろしくお願いします、唯愛ちゃん」
うわーなにこの可愛い女の子同士の平和すぎて尊い会話。この2人がただ会話するだけの映画化があったら俺絶対見に行くけど。来場特典とかあったら毎週通って会話内容覚えるんだけど!?てか、唯愛のよそ行きってこんな感じなんだな。俺にも同じ感じで接してくれたらいいのに。今頃ゆるふわ対応されても怖いだけか、アッハッハァー!
やべっ、そんなこと考えてたら心を見透かした隣の女からグーパンとんでくるよ!先に構えとかなければ、、、あれ、今日はこないぞ!ふぅ!ラッキー!神様センキューソウマッチ!
ピコピコ
突然俺のスマホの通知が届く。
あれかなーまた知らない公式アカウントからかなー。友達いないと公式ばかりからメッセージ来るんだよな。一応確認するか。
ポケットの中からスマホを取り出し、机の下に隠して見る。
唯愛「おぼえとけよ」
人生はそう甘くないらしいですわ。この女、天使と仲良く話しながら手元のスマホノールックでメッセージ送ってきやがった。メッセ打ちの達人かよ。
「綾瀬くん、大丈夫?なんか顔青白いよ?」
心配そうにこちらを見つめる天使。ああ、なんて可愛さだ。こんなの世界中の人々が見たら争いなんてなくなるんじゃないか。俺をこの悪魔女から救ってください…とは言えず
「だ、大丈夫だよ…宇多津さん…ありがとう」
天使に心配事をかけては罰が当たると思い、真面目な返答をした。
「るる、聞いてよぉ。さっき、この男が私にひどいことしてぇ」
「え?」
突然悲しい顔をし始める唯愛さん。
いやいや俺何もしてないんだけど。ちょっとだけ、心の中で悪口をいっただけで…あ。
脳内をよぎる「おぼえとけよ」の文字。俺は全てを察した。
「綾瀬くん、そうなの?」
「いや、えっ、ちがうって、まじ」
「ひどいよぉ、ぐずっ、ぐすっ」
時にすでに遅し。「え、琴平さん泣いてんじゃん。あの男ひど」「うわぁ、女の子泣かせるとかないわぁ」「あとであいつしめようぜ」などなど、教室中から声が発されていた。うん、俺もう終わったね。青春、グッバイ。
唯愛はウソ泣きしている顔を手のひらで隠していたが、俺の角度だけから見えるように勝ち誇った顔をしていた。一生のトラウマとなった。
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「あっ、もうすぐお昼休み終わっちゃうね」
なんとか宇多津さんの誤解のみ解けた後、3人で他愛のない会話を楽しんでいた。宇多津さんは自分でお弁当つくってきてるんだねーとか、ちゃっかり唯愛がおかずを一口もらってたし。羨ましすぎるだろおい。いや、俺が食べたらきっと天使過剰摂取で命を落としてしまうだろう。その分、唯愛さんには味わってもらわなければ。
「また一緒に食べたいねー!もっとるるといたかったー」
「私もだよ唯愛ちゃん!」
たった45分の昼休憩であったが宇多津さんと唯愛の距離は大きく縮まっていた。宇多津さんは積極的に距離を縮めるタイプではなく、どちらかというと受け身タイプなのは見ていて分かる。となると考えられるのは、唯愛の高い社交性である。本当に器用なやつだよなーまじ尊敬するわそこは。そこだけね。
「それならまた誘っちゃうね!連絡先交換してもいい?」
「うん!もちろんだよ」
はぁーこんなにナチュラルに連絡先聞けるもんかね。その術を俺にご教授いただければ幸いなのですがね…俺だったら「れ、連絡先、し、知りたいな(ニチャア)」ってなって先生に連行されちゃう事態になるよ。言葉遣いはまだしも、爽やかな笑顔作るために鏡で練習はしとこう。なにそれ拷問?
「ほら、圭太も交換しないと」
「え?」
その連絡先交換の輪に俺入ってたんかい。てっきり自分は対象外だと思ってたぜ。てか、俺みたいなやつがいいのか…交換して…
「交換しないの?(ここで交換しないならおまえはチキンで惨めすぎるわよ)」
「喜んでさせていただたいです!!!!!!!」
すげぇ隠された裏の言葉が分かることなんてあるんだな。でも天使とお近づきになれるせっかくのチャンスだし、このビックウェーブに乗るしかないな!サンキュー唯愛さん!
そして唯愛の後に、俺と宇多津さんは連絡先の交換をした。
「はい!無事に登録できました」
「こっちもオッケー!これからよろしく」
「こちらこそ、綾瀬くん」
まさかこんなに早く宇多津さんと交流できるなんて思ってもいなかった。昨日は会えるだけで十分だと思っていた。そして連絡先を交換したことで話す時が増え、これからいっそう宇多津さんのことを知る機会があるだろう。それは、宇多津さんにも言えることであり、俺を知ってもらえる機会も増える。こんなに幸せなことはない。でも、知ってもらおうと欲張ったらダメだと胸に刻む。それはなぜかは自分にもわからない。ダメな気だけはするのだ。
「その…綾瀬くんは今日楽しかった?」
変わらない笑顔で尋ねる宇多津さん。今日はどちらかというと唯愛と話すのが多かったからな。こんな自分を気にかけてくれて嬉しい。本当に気配りが上手な子だ。
「うん、すごく」
「えへへ、良かった」
俺は天使に救われている。今日もあの時も。