3.天使降臨
私、琴平唯愛はなぜか、綾瀬圭太がカフェに入ろうとしている姿を遠くから見守っている。てか、客観的に見たら私不審者みたいじゃん…めんどいから帰ろうかな。
どうしても決戦の場の近くまでついてきてほしいとあいつに頼まれ、仕方ないからついて行ってやった。まったく、その子と途中で遭遇しちゃったり、見られたらどうするつもりだったのよ。というか一緒に歩いてる時もビクビクし過ぎて本当に生きて帰ってこれるのかって感じだし…でも、あいつが頑張ろうとしてるんだからちょっとくらい応援してやんなきゃ、、入るのを見届けたらすぐ帰
「俺だってできるうううううう!俺だって入れるんだああああああ」
突如聞こえた叫び声。道行く人が全員声の主の方へ振り向く。しかし、私には聞き覚えのある声だった。そう、あいつである。
「あ、あのやろう、、」
私はあいつがいる場所に一目散に走った。
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「い、痛いって唯愛さん!!!ぼうりょくはんたい!殴る方も痛いんだよ」
「うるさいうるさい!しかも最後の絶対あんたが言うセリフじゃないでしょ!」
入店をする前に気合いを入れすぎたあまり叫んでしまった俺は、全力疾走で向かってきた唯愛に回収され、説教を受けていた。なんで店の前で恥ずかしがらず叫ぶことができるのか、周りの人がびっくりする上に不審者に見られてカフェ出禁になったらどうするんだ、知り合いにもなれないぞおまえ、と。ごもっともである。
「わかった、わかったから。次はクールかつ冷静を装って普通に入るから」
「装う時点でできないやつだから」
おい、唯愛さんよ、さらっと一番ひどいことを言うんじゃないよ。ほら、俺は一応これから大勝負に出ようとしている人だよ。これ以上繊細な心を傷つけないで…
「ほら、自分の醜い姿を反省したならさっさと行きなさいよね」
腕を組み、そっぽを向く唯愛。その顔は何かを我慢しているように見える。ちょっと可愛いかも。でもきっと言いたいことあるんじゃないのって聞いたら俺の悪口言われるんだろうな絶対そうだよそれしか思いつかないまである。ので、スルーしておこう。
「はいよ、ついてきてくれてありがとな。こっからは頑張るわ」
「別に…」
そう言うと唯愛は去っていった。
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緊張を隠しながらゆっくりと入り口のドアを開く。と同時にやっぱり日陰者が来る雰囲気じゃないなと思う。今までおしゃれな空間に馴染んでこなかった人間からすると、ここは別世界のようだ。店内には数人お客さんがおり、それぞれの時間を楽しんでいた。入り口のすぐそばに設けられたカウンター席に座ってメニューを見る。ほお、、全然わからんとりあえずコーヒーと季節のケーキでいいかな。紅茶にしても種類まったくわかんないし、イメージ湧かないし…こういう時に知らないメニューに挑戦できる人っているのか。いやいやいやいや、今一番重要なのはあの子と出会うことだ目的を忘れるなよ俺!
「いらっしゃいませ」
「あっ」
いた。腰あたりにまで伸びた白い髪、青く透き通った瞳、お姫様のような、彼女。俺が一目ぼれしてしまった子。
「あの、ご注文は…?」
「えっ、あっ、すみません。コーヒーとケーキのセットでお願いします」
「かしこまりました。しばらくお待ちくださいね」
ずっと目を奪われていた。顔見るだけで思考が働かないことってあるんだな。オーダー聞いてる時も優しい笑顔でこっち見てくれて。いや、お客様全員にそうしてるだろうけどさ。彼女を見るだけで心がすっと浄化されるような気がした。
カフェに入る躊躇なども忘れてしまったほど、彼女のことでいっぱいだった。
すぐに届いたコーヒーとケーキは浮ついた気持ちのせいで味が分からなかった。
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「お客様、この間お会いしましたよね?」
緊張ながらも食べ終え、会計をしていると彼女はそう尋ねた。うう、眩しすぎるぜ、、直視できないなんだこの女神は、吸収されちまうぞ…しかも俺のこと覚えてくれてるなんて、、、、、すき、、
「あ、バレちゃいました?あの時はありがとうございました。ドリンク美味しかったです」
気持ち悪い頭の中の思考がバレないように、シンプルかつユーモアのある返事をした。なんだ俺、やればできるじゃん!今なら何でもできるんじゃない!?…無理です。
「お元気そうで良かったです。またいらしてくださいね、待ってます」
「うっ、もちろんです」
やばいやばいやばいやばい尊すぎてダメージ受けたみたいな声出ちゃったじゃないか可愛いすぎんだろこんちくしょおおお待ってますって、、もちろんいくよおおおおおおおおおおおお。
もはや何気ない一言でも人格が変貌しそうなくらい圭太は強い充実感を得ていた。よし、あとはクールに帰るだけだ。
「それじゃ、またきまちゅ」
あ、終わった。変なところ噛んだ。しかも「ちゅ」ってなんかキモイ発音しちゃった。帰ったら遺書でも書こう。尊死しましたって。
「ふふっ、ありがとうございました」
彼女は微笑み、俺を見送ってくれた。
またすぐに会えるといいな、でも今はこれで十分だ。圭太はそう思い帰路についた。
いつもの夕暮れが少し特別に感じた。