八話
夜が明けた頃、日の出によって差し込む太陽の光を肌で感じるとハカネとアクアは目を覚ます。寝ぼけた頭を起こすために海側の国で買った、赤く染まった小さな果実の漬物を食べて水を飲む。酸っぱい味が目を覚ましてくれる。
目が覚め切ると、目の前に広がっている現実をいい加減受け入れることにした。昨晩自分達を襲ってきたコボルトの死体の山。よくもまぁ、こんな場所で自分たちは寝ていたものだと思いつつも、魔法を使いながら一山に纏めるとそのまま火を放ち、骨すら残さない高温で焼き切った。念のため匂いが広がらないよう火力を上げるために起こしている風を流用し、上へと臭いを吹き飛ばした。
死体を片付け終えると、寝ている二人を叩き起こす。寝ぼけている零と武具のメンテナンスを初めたテスタロッサを他所に、昨晩作りかけた夕飯をそのまま使って簡単な朝食を作りあげ、一緒に硬いパンを出した。
「あの、何故私にも食事が用意されているのでせようか。確かに、私は食べ物からエネルギー確保をできるようになっていますが、内部に半永久エネルギー生成機構を備えているので別に飲み食いしなくても大丈夫なんですが」
「一人何も飲み食いしていないほうが感じ悪いでしょうが!!黙っておばさんが作った朝食を食べなさい!!」
テスタロッサは自分の分を育ち盛りである零に渡そうとするも、それをハカネは良しとせず腕を掴み抑え込んでいる。しかし、そんな事を言っているハカネの分が四人の中で一番少なく取り分けられていた。
朝から揉めている二人を他所に、アクアと零は自分達の分を食べ終わらせると、そそくさと片付けをして、移動の準備を始めた。零も一度寝たおかげで大分回復しており、アクアの指示通りに動いていた。ただ、一晩で回復しきれたのは、実際に自分の手で生き物を殺めることをしなかったことが大きいだろう。眼の前でコボルトが惨殺され、血肉が地に落ちる音を聞き、落ちた顔と目が合うなど、十分に精神的なダメージを与えるようなものを見て聞いてしまったがそれを紛らわせるように、本能が理解を拒むように逃げ道を見つけてそれにすがった、故に早期の回復ができたのだろう。俗に言う現実逃避だ。
「にしても、餓鬼、精神的に大丈夫か?」
「え?」
「昨日結構きつい物を見ただろ」
「え?カードバトルでハカネさんがいつものようにちょっとグロテスクな魔法を使ったのでは」
「・・・そうか」
不幸中の幸いと呼べるのだろうか、ハカネがカードバトルで使う魔法のカード達の魔法の演出はグロテスクなものが多い。特に「大魔法の準備」で魔法使いをトラッシュに送る際の演出、それはトラッシュに送った魔法使いを生贄として様々な形で処刑している。そうした演出が多い故に、昨日の出来事がカードバトルの一部として、作り物を見たとして頭は解釈していた。
(深掘りするのは、よくないな。精神が拒んでいるのだからな)
「アクアさん準備終わりました、で、あの二人はどうするんですか?」
「放っておけ、居なくなってと気がつけばすぐに追いかけてくる」
アクアは今も朝食に全く手を付けずに揉めている二人をあっさりと見捨て、自分の荷物だけを背負い、零は異世界へ来るときに背負っていたバッグを背負い旅路についた。
「あれ?二人は」
「あ、あいつ!!」
アクアと零が歩き出して十数分、置いて行かれた二人はアクア達が居なくなっていることに気がついた。すぐに持っていた食べかけの朝食を腹減と流し込むと、広げられているものを片付け、自分のバッグを手に取って走り出した。戦いに身をおいていることもあり、普通の人達よりも鍛えられている体と、戦うための機体であっという間に先に向かっていた二人へと追いついた。そんな二人を呆れた表情をしたアクアに迎えられた。
「お前ら、昨日はあんなんだったが、案外似た者同士じゃないのか?」
「それはない」
「性格が違うからない」
「そこは、息合わないんですね」
現状この二人が揉めている原因になっていることに自覚がない零にアクアはため息を漏らしつつ、袖の中から一枚の取り出し、皆に見えるように広げた。
「俺らはこれからあの山を超えて、魔導帝国フェリリニアを目指す。途中、いくつかの村やら集落によって、水や食料、周辺の情報収集を行う。異論は?」
「「「ない」」」
ハカネとアクアにとっては元々の旅路、零はこの世界で頼れるのは彼女らしか居らず一緒に付いて行く選択肢しかない。テスタロッサはとりあえずこの国から出ることができれば良いため異論を出す理由もない。しかし、この道を選んだことによって、これから色んな出会いが起きることになるなどとは、この場にいる誰しもが予想しなかった。
チリ~ン
突然鳴り響いた鈴の音。その音に気が付いたテスタロッサは周囲を見渡す。しかし、周囲には自分達以外の姿は見えない。
「どうした?」
「いえ、今鈴の音が聞こえたような気がして」
「鈴?聞こえたか?」
「ううん」
どうやら鈴の音が聞こえていたのはテスタロッサだけだった。聞き間違えだったのだろうか、テスタロッサはそう思い、一度だけ聞こえた鈴の音のことは忘れた。
移動を初めて早数日、遠くに見えていた山も確実に近づきつつはあるものの、まだ麓は見えない。そんな中、迂回するのが難しい森の中を突き抜けることになった。
森の中は膝以上の高さまで伸びた草に太陽の光を遮るほどの鬱蒼と茂った木々が生えている。とてもではないが、この森の中を突き抜けようとは思えないのだが、当たり前のようにハカネとアクアは体の関節の可動域を広げるためにストレッチをしていた。
「あの、どうして森を迂回しないんですか?」
「迂回したら倍近く日数がかかる」
「突き抜けたほうが時間かかりません?」
「木々を蹴って跳べば関係ない」
「あ、はい」
迂回をすれば倍近くの日数がかかってしまう、しかし、四人中三人が森の中であろうと、なんなら火の中、水の中であろうが所構わず突き抜けることができる。更にいざとなれば零のことを背負いながら突き抜けることもできてしまう。そんな面々であるゆえ、森の中を突き抜けて進むことが決定した。
鬱蒼とした森の中ということもあり、地面はとても悪く、思うように歩くことができない、走ることなどもってのほかである。しかし、アクア達は身軽に飛び跳ねながら木々を蹴り、森の中を移動していく。流石に零に同じ動きをさせることはできないため、一番身体能力の高いテスタロッサが背負い、顔に小石、枝木、蔓などがぶつかっても大丈夫なようにアクアから顔を保護するためのものを受け取り、顔を守りながら連れてもらっていた。
(どうして、ヘルメットとかじゃなくて、能面なんだろう)
アクアが出したお面は小面と呼ばれる若い女性を象ったお面、ホラーゲームなどで一番出てくるようなお面であった。なぜこんなものが異世界にあり、アクアが適当に取り出したものがこれだったのかと疑問に思いながらも、振り落とされないようテスタロッサに確りしがみついていた。
しばらく森の中を移動していると、突然ハカネは跳び跳ねるのを止めて地に足を付けた。それに続くようにアクアとテスタロッサも地に足を付けた。
「どうした?」
「なにか、ありました?」
アクアとテスタロッサも地に足を付けた理由に検討がつかない。そのため、周囲の警戒を始める。しかし、ハカネは何も言わずに周囲の草を毟り取ると目の前に持ってきて眺めた。
「……生気が薄い」
「何?」
「「??」」
ハカネが言っている意味が分からずにいる二人を他所に、アクアもまた周辺の草木を調べ始める。テスタロッサたちも同じようになにかおかしな点があるのかと思い、同様に草木を手に取り調べ始める。
「……えっと?」
「わかりませんね」
一体何を見てそんな言葉が出てきたのか、錬金術の知識を持っているアクアでもハカネが持っている眼で見られてしまっては答えをすぐには出せない。それでも、アクアは別の観点から見て気がついた。
「枯れてるな、しかもかなりな量」
生きているものはいずれ死にゆく定め、植物は時間が経てば勝手に枯れていく。故に枯れている植物が存在していることには自体はおかしい話ではない。しかし、森の中、自然の循環で枯れた植物はそう長く存在していられない。そして、アクアが見つけた場所は局所的に枯れていて未だに分解されていなかった。
「このあたりの植物は強いのが多いし、簡単には枯れないけど、弱いやつはほとんど枯れてる。木々もなんだか弱ってる感じがする」
「これが平常か、異常なのかは分からないが」
「長居はよくなさそう、この地点を急いで抜けるよ」
「了解」
ハカネの感がこの場所は良くないと感じ取り、急いでこの場所を駆け抜けることにした。その結果、夜通しで移動することになってしまったが、その御蔭で森の近くに存在している日いさな集落が遠目ながらも確認することができる場所までに辿り着くことができた。しかし、まだ日が登るまでには時間がある。こんな時間に訪問するのは迷惑であると非常識二名と機械人一名、異世界人一名の計四名はわかっているため、日が昇ってから向かうことにした。
少しの間でも仮眠をし、夜が明けて日が出始めた頃にいつものように叩き起こされる。朝食を済ませて集落へと向かい始めた。しかし、集落に向かう途中、この世界の出身ではない零でもわかる違和感に気がついた。
「ねぇ、農民の朝は早いっていうよね?」
「そうですね。場所によっては日の出よりも早くから作業を始めるとかなんとか」
「だが、この距離でも田畑が見えているにも関わらず人の姿が見えない」
「それどころか、あの畑荒らされてません?」
「「「「…………」」」」
通常ではありえない状態、それは絶対にこの集落で最近何かしらの問題が起きたことは明白であった。厄介事を避けたいアクア、零、テスタロッサは目の前の集落から反れた道を通ろうとしたいが、ハカネは零とアクアの首根っこを掴み引きずりだすと我が道を突き進み始めた。
集落の周囲には獣が入ってこないようにするための獣避けと柵で覆われていたのだろうか、今となってはその役割を果たす理由もなくなり、残骸としてその場に散らばっていた。ハカネ達は残骸を超えて、集落の中へと入っていく。
「これは、酷いな」
田畑は酷く踏み荒らされており、もう一度田畑として使えるようにするには土作りからやり直さなければいけない。そして、家の方へと目をやれば家と呼べる形を保っているのは殆無く、形を保っているものも家の向かい側が見える状態だった。
「状況から察するに、三日も経ってないな。植物が折れた箇所の劣化もまだこれだけだ」
「三日、ってなると僕達がまだ森の中にいたくらいですね」
少し到着が早ければ、この集落がこうなってしまう原因に立ち会ってしまっていたかもしれない、自分たちの身が危険にさらされなかったという意味では、とても運が良かったと言える。
「これじゃあ、情報収集なんてやってる場合じゃないね」
「え、この状況でも情報収集するつもりだったんですか?」
ハカネの斜め上な言葉にテスタロッサは思わずツッコミを入れる。そんな二人を無視してアクアの先導の元、零は一緒に生存者がいないか捜索にあたった。
「にゃ~~、誰かいるのかにゃ~~!!助けてくれなのにゃ~!!」
誰かの声、そして助けを求める声が聞こえてきた。これには、アクアとテスタロサも反応して、声が聞こえてきた方へと走りだした。声が聞こえて来た場所は建物が倒壊しており、瓦礫が山積みとなっている。
「にゃ~はここにゃ~、もう三日はここから出られてないのにゃ~!!」
声が聞こえてきているため、ここであるのは間違いないのだが、瓦礫が多すぎる。こんな場面に遭遇したことがない零はどかし方も分からず、小学六先生の零とそう体格が変わらないアクアでは瓦礫を運び出すのは難しく、ハカネは見るからに筋肉がない、頼みの綱であるテスタロッサは。
「とりあえずこれをどかさないと!!」
瓦礫を片手で、まるで山積みになった洗濯物からお目当ての物を見つけるために、関係ないものを放り投げるかのごとく退かし始めたため、二次被害を起こさないようにするためにもやめさせた。
「でも、これどうやって退かします」
「にゃ~はあと六ヶ月くらいこの状態でも平気にゃけど、早く助けてくれるとうれしいにゃ」
瓦礫の中に空洞があり、その中にいるのか、助けを求めている割には冗談を言える余裕はあるようで、そこまで焦らずに作戦を考えることにした。
「アクアさん、魔法でどうにかなりませんか?」
「え?私の魔法大半がぶっ飛ばす系だよ?」
「次の選択肢は?」
カードバトルの時でも同様、ハカネが扱う魔法はかなり大掛かりなものであり、攻撃的な物が多い、カードになっていない魔法でもカードを介さずに発動させることができる。その場合はそれなりに威力が落ちてしまうものの、攻撃的な魔法であることには変わりなく、人の救助に支えある代物ではない。
「アクアさんは?」
「錬金術で処理しようにも、瓦礫の構成がわからんと難しい。結局爆破することになる」
物騒なやり方しかできないのかと零は心のなかで思いながらも、現実問題、四人だけでどうにかできる方法は、今挙げられた以外の方法は何もなかった。
「流石に瓦礫を爆破するのは」
「にゃ~はそれでも構わないのにゃ~」
「中の人もこう言って、え?」
「よし、爆破するわよ!!」
中の人が爆破許可を出してしまい、ハカネがノリノリで準備を始めてしまった。出会って日が浅い零とテスタロッサでも碌な事にならないのが目に見えている。二人は全力でハカネを止めにかかろうとしているにも関わらず、ハカネはノリノリで行動を止めることはなく、瓦礫を中心として大きな魔法陣が地面に描かれた。
「いやぁ、抑制の陣をかなり描いて威力は抑えたけど、ぶっちゃけ、私もどうなるのか本当にわからない!!けど、やっちゃう!!」
「ちょっとまってくださぁい!?」
「流石にそれはまずいですよ!!」
最早我関せずのアクアはヘルメットと防塵ゴーグルにマスクを二人に投げ渡すと、竹筒の水筒を取り出して水を飲んでいる。一方ハカネは纏わりつく二人を振り払い、杖をくるくると器用に回してから真上に投げ、落ちてきたところを掴み取り、杖底で魔法陣を力強く叩き付けた。魔法陣と杖が繋がり、魔力が魔法陣に流し込まれ起動する。流された魔力たちは魔法陣によって形を変えていき、大きな光の球体が作り出されていく。そして、球体は少しずつ小さく圧縮されていき、高密度な魔力の塊へとなっていく。初めの大きな球体から掌の上に乗るほどの小さな大きさになったところで、それは遂に臨界を迎えてしまった。直後、抑え込まれていた魔力が爆発を起こし辺り一帯を巻き込んで吹き飛ばした。当然、爆発の中心にあった瓦礫は綺麗に吹き飛ばされており、近くにいたテスタロッサと零は吹き飛ばされていた。一方魔法を発動した当の本人は何事もなく、被っていた防止が吹き飛ばされないように手を添えていた。
「あれぇ?想定よりの威力が大きい、抑制が弱かったのかな」
ハカネは自分が使った魔法の反省をはじめ、当初の目的である瓦礫に埋もれていた人のことはすっかり忘れている。あれだけの爆風を受けたあとにツッコミを入れるだけの気力は残らされておらず、あの爆風でお亡くなりになっていないことを祈りながら捜索を始めようとするが、その人はすぐに見つかった。
「いやぁ、助かったのにゃ」
猫が喋っている、猫耳少女やら獣人とかそうではなく、本当に猫が喋っている。
「でも、これはシュレじゃなかったら死んでたにゃよ」
怪我一つなく、当たり前のように手を舐めるシュレ。異世界であるためもはや何でもありだと思っている零でも、あれだけの爆破をもろに受けて、当たり前のように無傷で毛づくろいを始めたことには理解が追いつかない。
「テスタロッサさん、アクアさん、この世界の猫って喋るんですか?」
「喋る猫は初めて見る」
「そういう個体もいるが、あれを受けて完全に無傷なのは初めて見る」
アクアでも非常識と言える生き物に、この場にいる皆が不思議に思っている。しかし、シュレはそれが当たり前のように体を伸ばし始める。
「助けてもらったお礼をしなきゃいけないにゃ、にゃーにできることだけならなんでも言ってくれにゃ」
不思議な生き物ではあるものの、情報収集ができるのならば、やっておこうとなり、しばらくシュレはハカネとアクアによって質問攻めにあっていた。
「OK、ルート修正はこれで十分ね。少し食料が心もとないけど、近くに温泉街?ってのがあるみたいだし、そこで補充しましょう」
「金が足りるかは分からないがな」
本来の目的は達成したため、これ以上この場所に留まる理由もなくなり、シュレもこの集落で何が起きていたのかはわかっておらず、結局分からずじまいであるが、自分達が関わる道理もない、ハカネが首を突っ込みたそうにしているが、食料の関係で仕方なく断念した。
「それじゃあ、私達は出発するから、あなたも気をつけるのよ」
「わかったのにゃ、そっちも元気でしているのにゃよ」
シュレに別れを告げ、何事もなく集落をあとにしようとした瞬間、零はハカネによって押し飛ばされ、近くにいたシュレは蹴飛ばされて遠くに蹴り飛ばされた。突然のことにハカネ以外驚きをするが、ハカネが取った行動の意味は直後に聞こえてきた音によってすぐに理解した。
「敵襲だ!!」
零が押し飛ばされなければ、どこからか飛んできた斧によって頭をかち割られていただろう。そのことを遅れて理解した零の顔は真っ青になっており、血の気が引いているのは誰の目でも明らかになっている。
投げられて地面に突き刺さる斧は突然カタカタと揺れだし、ひとりでに飛んでいき一人の少女の手に納まった。
「・・・」
「初めて見る顔ね、何かとやらかしてきた私達だから襲撃される理由に心当たりはたくさんあるけど、あなたに襲撃される理由は思いつかないんだけど」
ハカネの問いかけに対し、少女は無言のまま笑い地面を蹴った。
「テスタロッサ!!」
「はい!!」
アクアの声と同時にテスタロッサは零を担ぎ上げ、その場から離れた。相手は明らかにカードを使った戦いではなく、手に握る斧と鉈、その二つを使った戦闘を得意としているように見えた。そんな相手に零を戦わせるのは危険と判断し、自分たちよりも後ろに下げさせた。その間にも少女は接近し、一番前にいたハカネへ襲いかかった。
「あんた、人間?」
「・・・・!?」
ハカネの問いかけに少女はなにか驚きつつも、斧を振るう。そしてハカネはそれを自身の杖で受け止めるが、少女の細い腕からは考えられない力で勢いを受け止めきれず、ハカネはそのまま森の中に弾き飛ばされてしまった。
「オイ!!ハカネお前がいなくなったら俺が戦う羽目じゃねぇかぁ!!」
アクアはすぐに袖から道具を取り出そうとするも、それをさせまいと少女が投げた鉈により、アクアは防御を取らざるを得なくなり道具を取り出すのを中断する。しかし、その僅かな隙を少女は刈り取った。
「うお!?重!!」
アクアの錬成陣をあっさりと破壊し、そのままハカネとは反対方向に吹き飛ばした。そして、少女は残されたテスタロッサと零の方へと顔を向けた。
「やるしか、ないかぁ」
テスタロッサは抱えていた零を下ろし、剣を引き抜く。
「危ないから下がってて、君は私が守るから」
互いに武器を打ち合い、火花を散らせる、剣と斧、小回りの良さは剣の方が勝るものの、一撃一撃の重さは斧に軍配が上がる。何より、使い手の身体能力が大きな要素となっているのだが、機械であるテスタロッサ相手に目に前にいる少女は遅れを取るどころか、逆にテスタロッサを押していた。
「・・・」
少女は何も喋らない。けれど、目的を果たすためになら一切手を引かないことわかる。その不気味さに、若干引きつつもリボルバーを引き抜き、少女の腕を狙って引き金を引いた。
「!!」
鳴り響いた銃声、撃ち出された弾丸は確かに少女の腕に着弾した。けれど、弾丸は少女の肉を抉ることなく、少女の皮膚で止まっていた。
「嘘!!」
弾丸が弾かれてありもしない方向に飛んでいく跳弾というものは確かに存在する。しかし、それは熊の頭の骨や鉄骨などとても硬い場所に特定の角度から着弾する事によって発生するもの、柔らかい人間の肉相手では跳弾はほぼ確実に発生しないと言えるのにも関わらず、跳ねるどころかそのまま銃弾が貫通することなく受け止めたなど、理解できるわけがなかった。そして、理解ができずに動きが止まる、近接戦をしている中で動揺による体の硬直、相手からすれば隙だらけの絶好の瞬間、それを見逃す訳はなく、テスタロッサもまた少女が振るった斧の直撃を受けてしまい吹き飛ばされる、はずだった。
「戦略発動!!「武装換装」で「鉄壁武装テスタロッサ」を!!」
零の手により、テスタロッサの武装が防御特化の武装へと代わり、全身を分厚い装甲が覆い、少女が振るった斧の攻撃を受け止めきった。持っていた武器は消え、代わりに全身を覆い隠せる大きな盾を持っている。
「零、助かった」
姿勢を立て直し、攻撃をしようとするも盾以外の武器を持っていなかった。
「ちょっと!?零どういうこと!?私の武器は!!」
「え、いや」
テスタロッサは攻撃に使える武器が完全になくなっていることに思わず声を上げる、零も一瞬なぜそうなったのか分からなかったが、すぐにその答えに気がつく。
「「鉄壁武装テスタロッサ」は高いパワーのかわりに攻撃ができないんです!!だから」
「はぁ!!防御しかできないってこと!?じゃあ、早く戻すか、別の武装を」
困惑して思うように連携できていない二人に対し、少女は顎に手を当て少し考えると、懐から見慣れたカードの束を取り出した。
「へぇ、そっちからその土台に来てくれるのね」
「僕としてはこっちのほうがありがたいです」
少女もまた、カードバトルという土台で戦ってくれるようだ。純粋にカードの力を使われるのが厄介だから、自分もカードの力を使うからなのか、対等に戦いたいから7日、それの真意はわからない。けれど、零たちにはとても都合がいい。
「手番は向こうからよ」
「はい」