六話
更新遅れてすみません。夏コミ楽しかったです。
鳥の囀りが聞え、水の流れる音が聞えてくる森の中に一人の少女が居た。今少女が着ている格好は、自然が溢れる森の中にととどまらず、街中でも異質と言えるほど服はボロボロに破れ汚れている。そして、手には両手でなければ持てないであろう大きく、重たい一本の斧が握られており、地面と木々にぶつかる音が響いている。それだけでも不気味であるにも関わらず、少女は斧を片手で握りながら軽々と木々を足場として跳び回っている。
「……」
一見すれば、自然豊かに溢れて、動物も植物たちがのびのびしている、極普通な森に見える。しかし、少女には全く違う森の姿が見えていた。
ギリィ、そう音を立てながら思わず歯ぎしりをしてしまう少女。一度足を止め、高ぶる感情を落ち着かせるために、少しの間息を止めてから大きく吸い込む。呼吸を落ち着かせてから、感情を落ち着かせる。
「……」
落ち着きを取り戻すと、目の前にドンとそびえ立つ一本の大木が目につく。見た所、樹齢二百年はくだらないであろう大木である。普通ならば神秘性などを感じるところだが、今の少女にそんな感覚は持ち合わせていない、上を見上げて周囲を見渡すと、自分の考えが間違いではないことを確信する。持っていた斧を後ろへと回し、柄を両手で握り、姿勢を低くして構える。
「……フゥ」
体中の空気を吐き出し、ある程度空気を体の中へと入れると、一気に斧を振るい、大木を一刀両断した。切られた箇所より上の方は斧の衝撃により斜めへとなり、倒れ始めた。これだけの大木が倒れれば周囲への被害は甚大になる。少女は素早く跳び、斧で大木を瞬く間に細かくしていった。
「……」(笑顔
鬱憤を晴らすのも含めて武器を振るい、破壊を出来たため自身に溜まっていた物を晴らせたことが出来たため、心が軽くなった少女は自身が切った大木の切株を見た。
「……ッチ」
普通ならば幹の中はみっしり詰まっている筈である。多少虫や鳥によって食われて少しばかり消えてしまっていることはあっても、それでも木の大部分は残っている。しかし、目の前の切株はスカスカであった。そして、木をこの状態にできるので思い当たるのは1つしかない。木が生命活動を維持できなくなり枯れ始めた時、よってこの大木は枯れ始めていたことを表していた。
「……」(困
これだけなら、自然の流れによって枯れた、そう判断することができる。しかし、同様の事例が複数あれば話が変わる。少女は素早く近くにある木を切り倒す。
「……」
切った感触が弱い。他の木々たちも大木同様スカスカになっており枯れていた。枝先を見れば葉が付いていない箇所が多く、大部分が枯れていたことが見て取れる。
木々が枯れている、それを確認するとその場で数回跳んでから、再び木々を足場として森の中を縦横無尽跳び回る。そんな状態で跳び続けると、跳ぶのを止めて息を殺し、気配を消して自分以上に異質と言える存在を見始めた。
俗に機械と呼ばれる絡繰り達、そんなものが何故こんな森に居るのか不思議に思いながらも、何時でも戦えるよう斧を握る手の力が強くなる。
自分達が見られていることに気づかない機械達は作業を続けている。何やら細長い物の先端から霧状になった液体が噴出され、周囲の植物目掛けて散布されている。それが一体何なのか、何の意味のある行動なのかは少女にはわからない。ただ、機械達が行っていることはこの森に対してよい物ではなく、むしろ悪いことである。それを本能的に悟り、隙を見て破壊を行えるよう構えつつ、見つからないよう少しづつ動き、何をしているのかがわかるのを待とうとした。しかし、動き続ける機械達相手に隠れ続けるのは難しかった。遂に少女はセンサーに引っかかってしまい、存在を認められてしまった。
『異常を確認。確認作業に移行』
機械はやっていた作業を中断し、出ていた細長いものは収納され、かわりに銃身が出現した。機械は異常を確認した場所を中心とし、互いに離れた状態で、少しずつ少女の方へと近づいてくる。
このままでは戦闘は避けられない。少女は一度大きく息を吐き出し吸い込むと、斧を握る手に力を込め、飛び出した。
ガン、大きく鳴り響く金属同士がぶつかり合う音、斧によって機械は真っ二つにたたき切られ、断面の配線からはバチバチと音を立てている。
『敵性存在確認、戦闘開始』
機械は少女の存在を認識すると、一斉に射撃を始める。しかし、少女に銃弾は届くことなく、一瞬にして機械の後ろに回り、斧を振り下ろす。機械は一振りで破壊され、また一体無力化されていた。
「……」
少女は決して喋らず、持っていた斧を機械めがけて投げる。当然機械は撃ち落とそうとしたり、避けようとしたりする。しかし、斧に銃弾が当たっても一切軌道は変わらず、避けるには距離と時間が圧倒的に足りない。また一体、機械は破壊された。そして、斧を持たないまま、また別の機械へと距離を詰める。無手であるにも関わらず、手を振り上げる、それに合わせて機械に突き刺さっていた斧は独りでに動き出し、少女の手に収まり、振り下ろされた。
銃弾の雨であったにも関わらず、少女の体には傷一つついていなかった。きれいな肌に髪、それに釣り合わないボロボロな服を纏う少女は不敵に笑うだけだった。
「これが、こうだから、このときはこうして」
零がテスタロッサに自身のデッキの回し方を教えている様子を横目に、ハカネもまた自身のデッキを少しばかし改修していた。
「ねぇ、アクア」
笑っている声ではない、落ち着いた低い声で二人には聞こえないよう小さな声で話しかけた。
「何だ」
アクアも、ハカネがふざけた調子でないことに気がつくと、二人には悟られないよう小さな声で返す。
「ちょっと出来すぎな気がしない?」
「出来過ぎ?一体何が?」
「テスタロッサが脱走し、零が誘拐されて森の中に放置される、そして旅している私達二人、この四人が合わせたかのように森の中で遭遇した、少し出来すぎだとは思わない?」
「ただの偶然じゃ、ないのか?」
偶然である可能性は否定しきれない。しかし、ハカネには引っかかるものがあるようで、首を横に振った。
「この件に関わっているのが、私達だけそれならば偶然で済ましたかもしれないけど、零と私達は今わかっている情報だけでも違うでしょ」
「・・・・なにか共通点でもあるのか?」
「零は異世界からの誘拐、手段はともかくこの世界に連れてこられた上で、この世界で戦うのに必要であろうデッキを置いていった。それに対して、私達は」
答えを溜めるハカネ、それによりアクアは自分たちがあの森を目指す事になった理由を思い出そうとするが、先にハカネがその答えを言った。
「フードを被った女、その女が私達にこの森に対しての情報をくれたでしょ?「そこのおばさんがた、魔女なら少し興味深い話があるんですけど」って言ってきてね」
「そんな事があったな。この森に面白いものがあるそう言ってきたが、あからさまに怪しい相手だったが、お前が面白そうなのを理由にその話に乗って森へ向かったからな」
「実際、こうして面白いことに当てたから美味しいけど、明らかにおかしい登場人物が二人、いるよね」
「だな」
零を異世界へと誘拐してきた犯人、そしてハカネとアクアをこの森に誘導した謎の女。手段はともかくとして、もし、この二人がテスタロッサの脱走を知った上で、協力して互いにこの場所に来るように誘導したとすれば、この偶然を説明することは可能だった。
「だた、仮にこの偶然が仕込まれたものだとして、俺らを出会わせる意味は何だ?利点がわからない、ましてや異世界出身の者を巻き込む理由も、ましてやその二人が繋がっていない可能性すらある」
「そこなのよねぇ」
零はこの世界のことを知らない、聞けば平和ボケしている国で戦いとは無縁な世界。娯楽としてカードゲームがあるため、カードを使った戦いへの適応は早かったものの、それ以外は絶望的である。そんな彼を、わざわざ異世界から誘拐するだけの利点を現状の情報だけで導き出すのは無理だった。
「ただ、考えらることはある」
「へぇ?なに?」
「多分餓鬼とテスタロッサ、今でこそあれだが、二人だけで会わせたら餓鬼は死んでたろうな」
「あー、確かに」