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五話

 顔の真横に剣が突き出されている。突然のことに理解か追いつかない零はそのまま両手を真上にあげ、涙目になりながら震えている。ハカネとアクアもこの状況でテスタロッサが攻撃を仕掛けると思っておらず、反応が遅れてしまった。

「私の質問に答えなさい?」

 感情が乗ってない、低い声のまま刃を首に当ててきた。

「はいぃ!!」

 ハカネとアクアは自分の武器を構え、いつでも動けるように構える。当然そのことにはテスタロッサも気がついており、さっさと要件を済ますことにした。

「あのカード、あれは一体どういう事?それに、あの言いよう、他にもテスタロッサの名を持つカードがあるってことよね?」

「テスタロッサシリーズ共通効果のようで、このモンスターがいる限り僕はフィールドに他のモンスターを召喚できず、元々いた他のモンスターはすべて破壊されるんです」

 シリーズ、それは共通のテーマを持ち何種類もカードが存在するものに対して使われる言葉。二種類だけでもシリーズと言えなくはないだろうが、あの場面でシリーズという言葉を選んだあたり、まだ他にもテスタロッサの名を冠するカードがあるそう思えた。

「は、はい。なんかありました!!」

 叫びながらもテスタロッサの質問に答える。

「どうして、私でも知らないカードをあなたが持って「はい、大人しくしようね!!」」

 テスタロッサが感情的になった瞬間、周囲の認識が甘くなる。それを見逃すことなく魔翼からドロップキックを決める。意識外の攻撃をまともに受けてしまい、体制を立て直すのに遅れが出る、そこに待機していたアクアが縄をすかさず回し拘束を始める。当然暴れるテスタロッサだが、ハカネの魔法により拘束され、瞬く間に完全に身動きを取れない状態にされた。

「えっと、あったあった」

 袖から何やら看板を取り出すと、そこにスラスラと文字を書いていきそれをテスタロッサの首から下げた。

『私は興奮して他人に危害を加えようとしました』

 イラストでしか見ないような反省のさせかたに思わず声を漏らす。しかし、ハカネはなぜかこれがやれたことにすごく満足していた。

「さて、落ち着いたところで。テスタロッサはなんであんなになったのかしら?テスタロッサのカード、それが一体どうかしたのかしら?」

 零は困りつつも、デッキからテスタロッサの名を含むカードを取り出した。

「結構あるわね」

 [戦姫テスタロッサ][鉄壁武装テスタロッサ][制圧武装テスタロッサ][狙撃武装テスタロッサ][迎撃武装テスタロッサ][疾風武装テスタロッサ][重武装テスタロッサ][支援武装テスタロッサ][強襲武装テスタロッサ][砲撃武装テスタロッサ]各一枚十種類のカードが並べられた。

「……これ、全部テスタロッサね」

 それぞれが異なる名称を持ちつつも、共通して[テスタロッサ]の名を含んでいる。そして、描かれている絵柄もテスタロッサ彼女である。更に異なる点として、描かれているテスタロッサが身に纏う武装が異なる。

 実際のカードゲームでも同じキャラクターでありつつも、絵柄、名称、効果が異なるカードは複数存在している。そうしたものは、背景ストーリーで時間が進みキャラクターの成長を表したり、状況の変化を表したりしている。これらのカードの存在を知っている零にとって、こうした異なるカードが複数存在していることは不思議に思わない。しかし、描かれている本人、テスタロッサにとっては違うようだ。

「全部効果が違うのね。共通効果として他のカードが召喚できなくて、フィールドの[テスタロッサ]カードと入れ替えられると」

「お前も、何種類か持っているだろうが。しかし、こうも種類が多いのは珍しいな」

 さらっとハカネの名を持つカードが他にも存在することがアクアの口から告げられたが、今はそのことには触れず、[戦姫テスタロッサ]以外の九枚のカード、それを身動きが取れなくなっているテスタロッサに見せた。

「あなたが気にしてたのはこれのことでしょ?」

「ええ、どうしてそんなカードがあるの?」

「どうって、[戦姫テスタロッサ]と同じくなんじゃないの」

 これがオリジナルカードであることはハカネの目利きによって告げられた。そのため[戦姫テスタロッサ]と同じこのデッキを持たせたものが持っていた結論に至るのではないかと思っていたが、テスタロッサが告げた答えは予想外のものだった。

「私は、そんな武装を知らない!!」

「「「へ??」」」

 オリジナルカード、それは力があるものや事象がカードとなり力封じ込められた物。事象や種族そのものがカードになっているのであれば、知らないうちにオリジナルのカードが増えていてもおかしくはない。しかし、今回問題のカードは明らかにテスタロッサ、元になる相手は一人である。それなのに、元になった人物の知らない姿がオリジナルカードとして存在している。その事実をこの場にいる全員の頭に?が浮かんだ。

「ハカネ、お前は幾つか派生を持っているがどうだ」

「いや、流石に全部その段階になってから、いつの間にかサイドデッキに紛れてた。だから、一度もその姿になる前からカードが存在していたことは……ないわね」

「こっちもだ」

 本来ならばありえないといえるオリジナルカードの出現。念の為今のテスタロッサにカードの力を使わずに、絵柄に描かれている武装を扱うことができるかと聞くも、その答えは「できない」の一言だった。

「……謎なことは多いけど、零確認のために聞くけど、本当にこのカードたちを知らないのね?」

「はい、いつの間にか持たされていたデッキにこれが」

 案の定、このカードたちの出自を零は知らない。存在自体が謎なカードに思わず警戒をしてしまうが、ハカネはそのカードたちと零が持つ残りのカードも取り、それをテスタロッサの前においた。

「どちらにせよ、あなたが描かれていて、力が封じ込まれているオリジナル。一度あなたの手に渡しておきましょう」

 袖の中からナイフを取り出し、テスタロッサを縛っていた縄を切りながら解き、首から下げていた物も回収し、自身の帽子の中に放り込んだ。

「とりあえず、あなたのバトルの腕が見たいし、勝負してみましょうか」

 ハカネはサイドデッキを取りだし、数枚カードを入れ替えると、間を取り構えた。テスタロッサも、零からデッキを受け取り構え、零とアクアは邪魔にならないようにその場を離れる。

「「レリーズ、フィールドセット」」

 お互いに初期手札のカードを五枚引き、先攻はテスタロッサに譲られた。ハカネがサイドデッキとメインデッキでなんのカードを入れ替えたのかは分からないが、基本は同じはずであり、防御札を切られなければリーサルまで持ち込むことが可能なのは先の勝負でわかっている。だからこそ、テスタロッサにも十分な勝機があるように思えたのだが、結果は零にとって予想外のものだった。

「……ライブラリィアウト」

「デッキアウトって、これは珍しい」

 勝負はライフが零になったことによる敗北ではなく、テスタロッサがカードを引くことができなくなったことによる敗北。世の中には相手のデッキを零にして勝つデッキ破壊構築も存在し、あるTCGでは公式がデッキ破壊を推奨するカードを出すほどの戦術だ。しかし、ハカネのデッキはそうしたデッキ破壊ではなく、相手のライフを零にして勝つデッキ。それなのに、デッキアウトが起きた、その理由はあまりにも単純なものだ。

「セルフデッキデスでデッキアウトって珍しいですよ」

 先の勝負で零も自らのデッキを破壊し、手札を補充していた。しかし、あれはこれ以上自分のターンが回ってこない、実質ラストターンであるがために、詰めるのに必要な[バトルキャンセル]を発動するために必要なコストのカードさえ残っていればよかった。そのため、事前に必要なカードをデッキから引き抜き、残されたデッキをコストとして扱い、デッキを破壊した。

 それに対し、テスタロッサは序盤からデッキのカードをコストとするカードを使っていき、水からデッキを破壊していた。必要なカードを確実に手札に加えることなく、時に必要なカードがコストとしてデッキから消えて行きながらゲームを進めていった。例え、強力なカードであっても、手札に加わえることができなければ意味がない。結果、ハカネの展開を止めることはできず、せめてライフアウトで終わらせようとするハカネのカオスドラゴンの攻撃を[バトルキャンセル]で止めてしまい、最後のデッキを自ら破壊してしまった。

「自分が組んだデッキではないとはいえ、自分のデッキの枚数を後先考えずに破壊するのはフォローできんな」

「私も結構デッキを掘るけど、トラッシュに魔法カードがあることに意味があるけど、ないよね?あのデッキ」

「ないですね」

 ふざけたデッキ構築をする零でもテスタロッサのプレイングをフォローするのは難しかった。ネタデッキやおふざけデッキは一芸を長けさせるために、限りなく少ない枠で再現性を高めるために必要なカードを詰め込む、その関係でデッキは繊細に扱わなければいけない。そして、そんな零があのデッキを見て思ったのは、それなりに繊細に扱わないと行けないデッキでありながら、デッキを雑に扱うカードも採用されている。かなり扱いにくいデッキだった。

「ピン積みが多いデッキ、必要なカードを抜き取らずにデッキを破壊、テスタロッサ、あなたもしかして……」

 事前にデッキをすべて確認していなくても、[戦姫出撃]のようなデッキを確認した上でカードを出すものを使えば、ゲーム中であってもデッキをすべて確認することは可能である。そこで自分が扱うデッキの偏りを確認できたにも関わらずあのプレイから、この場にいるテスタロッサ以外なんとなく察しがついた。

「はい!!下手くそですよ!!なにか文句でもあるんですか!!」

 泣きながら大声を上げるテスタロッサ。

「な、ないです」

「下手なら下手で構わん」

「別に誰だって初めは下手くそだし」

 自分よりも明らかに年上のように見えるテスタロッサが泣き叫ぶ様子に、零はどう反応すればいいのか分からず、たじろぎ。アクアは無関心。ハカネは少しばかりのフォローを入れつつ、テスタロッサが持つデッキに手をかける。

「それがあなたのカードなら、自ずと戦い方がわかるはずだから、数をこなしていけば自然と身についていくものなのだから。私だってはじめは負け続きだったんだし」

「ハカネさん」

「だから」

 ハカネは袖の中からもう一つのデッキケースを取り出しテスタロッサに見えるよう。

「これから毎晩勝負してみっちり鍛えてあげる」

 その顔は笑っておらず、瞳に光は灯っていなかった。後日死んだ目をしたテスタロッサに聞いた話では、一切の手加減なく、とても長い一ターンに付き合わされてワンターンキルをされつづけ、次の自分のターンを取れるようになっても、当たり前のように握る防御札で防がれ、次のターンで仕留められ続けたとか。

「まぁ、それは置いといて。零のデッキどうしようね」

「技術はあるが、俺とハカネのカードプールでは零が扱えるカードでデッキを組めるか」

「カードプールが分からない以上、自分は何も言えません」

 元いた世界では多くの有識者もとい、プレイヤーたちによって様々なデッキが構築されてネットに公開される。それを元に自分なりに扱いやすいもの、環境に合わせてサイドデッキと相談するなどしてデッキを組んできた。けれど、その方法はこの世界では使えない。その為、一からデッキを組まなければならない。しかし、環境デッキ相手に強力なメタを使いながら戦える零でも、使えるカードプールを全く知らず、カードショップや通販などの入手経路がない状態では寄せ集めデッキすら作るのが厳しかった。

「よし、アクア」

「俺のデッキは貸さんぞ。零モンスターデッキを扱える奴がそうそういてたまるか」

「そういえばおばさん以上に癖あるデッキだったね。じゃあ」

 ハカネは帽子をとり、中から大量のカードの束を取り出し、それを雑に零に渡した。

「私のサイドデッキに入らなかったカードたち、今はとりあえずそれでデッキを作るしか、ないかな?」

「こ、これは」

 テーマも、コンセプトもバラバラなカード、仮に現実世界ならばカードショップにあるストレージのカードだけでデッキを作れと言われている状態。ないよりはましではある物の、これでまともに戦えるデッキが作れるかと聞かれると、否としか答えられない。それでも、環境デッキを作らず、ネタデッキを作ってきた身、やれるだけやってみようとカードを広げてデッキ構築を始めた。

 数時間後、デッキ枚数四十枚を軽々と超える六十枚のカードの束が出来上がっていた。

「デッキ枚数四十枚だけど、わかってる?」

「こっから、削り作業です」

 慣れたようにデッキを切り、一人回しを始める。数回回しては、一枚、三枚、五枚抜き、逆に二枚、四枚デッキに加える。そんなことを繰り返してなんとか四十枚までデッキを削ってみせた。そして、出した結論は。

「このデッキ弱い!!」

「まぁ、フィニッシャー相当がないから妥当といえば、妥当だ」

 フィニッシャー相当、次点とも言えるカードはハカネのサイドデッキに入っており、残されているカードはそれよりも下なカードばかり。組み合わせ次第ではどうにかデッキパワーが上回っている相手でも勝てなくないが、再現性が低く、運任せとなるデッキだった。低レアリティのカードだけで環境デッキと戦えるデッキも存在しているが、零が作ったデッキはその類いではない。

「ないよりはマシ、か」

「それじゃあ、逝きましょうか?」

 一人回しで広げたカードをまとめ、広げていたカードたちもまとめて片付けようとしていた零の前に、デッキを持ったハカネが居た。

「あの、ハカネさんなんでデッキを構えているのでしょうか、そして字が違う気がするのですが」

「え?やることは決まってるでしょ?」

「まさか」

 このあと、零はメタカードを使ってハカネのソリティアを止めようと試みるも、それを上回るリカバリー能力と盤面除去を受け、結局ワンターンキルをされてしまった。それでも、負けるたびにデッキの問題点を上げ、デッキを改修してはハカネの動きを少しずつ止めて行き、破れた。

「あはは、零あなた凄いね。おばさん楽しくなってきちゃった、なら次はこの手でどうかな!!」

「だからそれは通しませんリバース発動!!」

「じゃあ、これを手札から魔法」

「嘘ぉ!!」

 何度破れても落ち込むことなく立ち上がる。それどころか、笑いながら、ハカネが自分の手をどう返してくるのかを楽しそうにしている。そして、ハカネもまた自分の戦いをここまで真っ向から受け止めた上で、戦おうとする相手がいることに喜んでいた。

「・・・」

 一度負けて、少し言われていじけたテスタロッサとは違い、零は自分自身ではないカードたちで戦い続けた。決して折れない心で戦っていた。自分よりも幼く見える少年だというのに、自分には無いものを持っているように見えた。

「悪魔竜カオスドラゴンで残りのライフ全部吹っ飛びなさい!!」

「あ~もう!!ライフで!!」

 また決着が付きそうになった、[悪魔竜カオスドラゴン]のブレスが零を襲い、零を守るように現れた障壁がブレスを受け止める。そして、障壁が割れる障壁で零は大きく吹き飛ばされた。けれど、その吹き飛ばされた先が悪かった。

「!!」

「あ、やば」

「馬鹿!!」

 吹き飛ばされた先には岩がある。ぶつかればまた大怪我をするのは明白、対戦相手だったハカネはすぐには動けず、アクアの持つ術では間に合わない。そんな中、自身も気が付かないうちに走り出し、吹き飛ばされた零をテスタロッサは受け止めて、無理やり軌道を変え岩へ直撃するのを避けた。

「大丈夫!?」

「大丈夫か」

 心配して駆け寄る二人だが、その心配はすぐに不要な物となった。

「機械の体は人より丈夫です。この程度は平気ですよ」

「こっちも無事です。お騒がせしました」

「騒がせたのはこいつだから謝る必要はない」

「そうそう、謝らなくて「お前のことを言ってるんだぞ」すみませんでした」

 アクアに思いっきり叩かれるハカネ、二人は旅をする関係上体を自然と鍛えている。いざ戦うことになっても、十分戦える。それはカードを使った戦いであっても、カードの力に一切頼らなくても戦えるだけの力も持っている。それに対して、零とテスタロッサはどうだろうか。零は初めて扱うデッキでもあれだけ回すことができるが、その拳で戦うことはできない。テスタロッサは剣を振るうことができても、デッキを回すことはできない。

「・・・・」

 テスタロッサの中で一つの答えが出た。

「零」

「はい?なんですかテスタロッサさん」

 テスタロッサは自身のデッキを零の手に握らせると、先に立ち上がり、零を立ち上がらせた。

「お前が剣になれ、私が盾になる」

「へ?」

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