四話
夜が明け、森から少し離れた開けた場所に零達は来ていた。未だ、自身の力が封じられているオリジナルのカードを零へと貸すことに躊躇いがあるものの、話が進まないことはわかりきっている。そして、後ろからハカネの何とも言えない圧が掛けられているため、渋々ながらもテスタロッサは自身のカードを貸した。なお、ハカネの後ろにいるアクアの表情からは諦めの感情が感じ取れる。零はテスタロッサからカードを受け取り、四十枚一組のデッキを構え、対面には自身のデッキを構えるハカネの姿がある。
「ルールは事前に説明はしたけど覚えてる?」
「頭には入れましたけど、はっきりとは」
「じゃあ、やりながらね」
「はい!」
「「レリーズ、フィールドセット!」」
お互いが握るデッキは光となって消え、かわりに光る球体がデッキとして残る。そして、そこからお互いの目の前に光りながら宙に浮く五枚のカードが出現する。零の世界ではじゃんけんを行い、勝った方が先攻後攻を選択する。しかし、この世界ではそうした決まりはない。先に先攻の行動を取ったほうが先攻になる。
「先攻は譲るわ、先攻にはマナチャージが行えないけど、あなたには関係ないでしょ?」
「はい、それではドロー!メインステップ!」
第一ターン
零 ライフ十 マナ五 デッキ三十五 手札六枚
ハカネ ライフ十 マナ五 デッキ三十五 手札五枚
ドローステップでデッキからカードを一枚引き、初期手札の六枚を確認する。そして、今ある手札で最善の一手を選び、手札を一枚手に取り、ハカネにも見えるようにしてカードの使用を宣言した。
「発動コストで手札を一枚破棄して、戦略[戦姫出撃]を使用、デッキから[戦姫]を含むモンスターを一体召喚する」(手札六→四)
「早速戦略?科学系のカードが多いけどどうなるかしらね?」
一度零のデッキがすべてオープンされ、その中から効果の対象になるカードが零の眼の前に来る。それを一枚手に取り、それを隣で腕を組みながら見ているテスタロッサに向けて投げ渡す。
「[戦姫 テスタロッサ]を効果で前衛に召喚、お願いします」(デッキ三十四→三十三)
「ええ」
[戦姫 テスタロッサ] 闇 パワー1500 打点1 戦姫/機械
効果 …………
テスタロッサはカードを受け取ると、剣を引き抜くと二人の間に立ち構える。
「前衛、ってことは攻撃してくるってことね?でも、先攻は」
「攻撃できない、ですよね」
先攻は後攻側の準備が一切できていない状態であるため、確実に妨害を受けずカードを使用できる唯一のターンである。その代わり、その有利性の帳尻を合わせるために攻撃を行えない。
「そう、わかってるならいいわ。ちなみに、フィールドに出せるカードの枚数は?」
「装備やカウントを例外として、フィールドは前衛・後衛・支援の三マス三列で九枚、前衛のモンスターしか基本は攻撃できないですよね」
「うん、そうだよぉ」
ここまでやった上で零がプレイミスをしていないとわかり、ハカネは笑顔で頷いていた。
「続けて、戦場[孤独な戦場]を支援エリアに配置」(手札四→三)
平原のような場所は、突如草木が焼けた後、少し血なまぐさい感じを覚える場所へと変わっている。
「戦場?それは相手も利用できる効果だから、扱いは慎重にしないと行けないのだけど、その戦場って確か」
ハカネは頭の中にあるカードのリストの中から[孤独な戦場]の効果を思い出した。
[孤独な戦場]
戦場
お互い自分のフィールドにモンスターが一体だけならば、そのモンスターのパワーを五百アップさせ、モンスターの装備カードの数だけ追加攻撃/防御が行える。
自分のフィールドが一体だけならば恩恵を受けることができる戦場。単純な条件であるため、相手もその恩恵を受けやすいが、早々モンスターが一体だけの状況にはなり得ない。また、装備カードの数だけ追加攻撃と追加防御が行えても、装備カードは基本モンスター一体につき一枚だけであるため、どちらも合計2回までしか行えない。そこまで重要そうな戦場には思えない。けど、そのカードを使ったからには意味がある、ハカネは警戒をしつつ、自身の手札を並び替えた。
「更に、装備[高周波振動剣]をテスタロッサに装備」(手札三→二)
真上にカードを投げる、そして代わりに空から落ちてきたのは一振りの剣。それをテスタロッサは掴み取ると、元々持っていた剣を鞘に納めた。
「これ以上は動けないですね、バトルステップに入れない以上、リバースを二枚セットしてからターンエンドです」(手札二→零)
零は手札を使い切りハンドレスになる。そして、ターンエンドの宣言を行ったことで手番がハカネに移る。
「リバースカードの使い方は?」
「あっちで似たようなカードがあったのでなんとなくは、リバース効果を持つカードを支援エリアにセットでき、カードごとに記された条件を満たしたとき相手のターンでも発動できる」
ターン二
零 ライフ十 マナ五 デッキ三十三 手札零枚
ハカネ ライフ十 マナ五 デッキ三十五 手札五枚
「わかっているならよろしい。私のターン、マナチャージとドローでメイン」(手札五→六枚)
ハカネは手札を少し動かしながら考えると、動きが決まったのか少しきつい目になり、微笑むと手札を手に取った。
「練習でも手は抜かない、行くよ!」
「はい!」
「まずは、永続魔法[日々の積み重ね]を支援エリアに配置」(手札六→五)
焼け落ちた戦場に突如として大量の本が出現した。小綺麗なものとはとても言えず、乱雑に積まれた本、大量の本棚とこの場には似つかわしい物が広がる。
「続けて、魔法[魔導書の索引]を使用、手札から魔法カードを二枚破棄し、デッキから三枚ドロー」(手札五→二→五 デッキ三十四→三十一)
先に手札から指定されたカードを二枚破棄しなければ、三枚ドローできない。少し条件が厳しい手札交換の魔法。少なくとも初期手札の六枚中三枚が魔法カード、一体どんな引きをしているのかと零が思っている間も、ハカネは新たなカードを手札に加える。
「永続魔法[日々の積み重ね]は私が発動した魔法カードをカウントとして下に重ねる」(C1)
発動した魔法カードを隣に浮いている本へと当てる。カードは光の粒となり消えて無くなる、本は勝手に内容を記し一頁埋めた。
「更に、魔法[魔導書の推敲]を発動、手札の魔法カードを好きなだけ戻して、戻した枚数分デッキからドローする。手札すべて、四枚戻して四枚ドロー」(手札五→四→零→四 C2)
「はぁ!?また魔法カードおまけに手札交換!?」
「このデッキ魔法多いから」
ハカネの手札を聞いて思わず零は驚く。初期手札及びその後ドローしたカード、それが全て魔法カードだとは誰が思うだろうか。新たに引き直した手札を確認し、二枚のカードに手をかける。
「なら、これね。召喚条件は自分フィールドにスライム以外のモンスターが存在しないこと。[マナスライム]を召喚」(手札四→三)
テスタロッサの前にぷるぷるとした青っぽいスライムが出現した。
[マナスライム]光 パワー0 打点1 スライム
召喚条件 自分フィールドにスライム以外のモンスターが存在しない
効果 召喚/破壊時 マナを一増やす
「その召喚時能力でマナを一追加するわ」(マナ五→六)
「条件が面倒な分ですか」
「ええ、続けて魔法[スライム増殖分裂]フィールドのスライムで同名モンスターをデッキから二体まで召喚する」(手札三→二 デッキ三十一→二十九)
スライムが分裂し、同じ青っぽいスライムが更に二体出現した。
「二体の召喚時効果で二マナ追加」(マナ六→八)
「マナ稼ぎですか」
「ええ、でもまだここからよ。手札から魔法[忘却錬成]でフィールドのカードを好きなだけ破壊し、破壊した枚数分マナを追加する。これで[マナスライム]を三体破壊する。そして、[マナスライム]の破壊時能力でマナを三追加よ」(マナ八→十三 C3)
マナスライムたちは足元に広がった錬成陣により、跡形もなく消えてしまった。わずかに残されたものも、ハカネのマナとして吸収され、本当にそこに居たのかと忘れ去られたかのようにきれいさっぱり消えた。
「まだ続くわよ、永続魔法[日々の積み重ね]の効果発揮!!重ねた魔法カード三枚を破棄することで、デッキから一枚ドロー」(手札二→三 デッキ二十九→二十八 C0)
「ちゃっかり手札補充しないでください」
「これしないと手札枯渇するから諦めて。ちょっと、手札が心もとないからこれだそっと、[魔女見習い ハカネ]を召喚」(手札三→二)
自身の写し身でもあるカードを使い、杖を握りながら一歩だけ前に出る
[魔女見習い ハカネ] 金 パワー1500 打点1 魔女
効果 召喚時 自分のデッキを三枚オープンし、その中の魔法カードを一枚手札に加える。残ったカードはデッキの下に送る。
「召喚時効果でデッキから三枚オープン。その中の魔法カードを一枚手札に加える」
ハカネは杖を天に掲げると、デッキから三枚のカードがオープンされ、それは零でも見ることができる状態になった。そして、それを見て零は再び驚かされた。
「三枚とも、魔法カード!?」
三枚とも異なる魔法カード。ここまでハカネが見せたモンスターカードは四枚だけであり、それ以外は魔法カードだけだ。ただの引きがいいだけでは説明できない、ここに来て零はハカネのデッキ構築がどんなものなのか予想が付いた、デッキの大部分を占める魔法カードとそれをサポートするわずかなモンスターたちで固められているデッキだと。
「あら、いいカードが捲れたわ。ならこれを使わせてもらうよ。残ったカードはデッキの下に好きな順番で送る」(手札二→三)
オープンされたカードを一枚手札に加えるが、そのカードの表側を零へ見えるままにした。
「魔法[スリードロー]発動マナは4、デッキから三枚ドローさせてもらうわ」(マナ十三→九 手札三→六 デッキ二十八→二十五 C1)
「一気に手札が、おまけにマナもまだ沢山」
「これがこのデッキだからね」
ソリティアをするデッキでリソースが十分にあり、完成形まで到着していなければ、これからどう動くのか、カードゲーマーである零には十分予想できる。
「まだ終わらないですよね」
「ええ、手札よりもう一度[魔導書の索引]を発動、手札から魔法カードを二枚破棄して三枚ドロー」(手札六→六 デッキ二十五→二十二 C2)
「続けて[魔導書の再編]、手札の魔法カードを二枚破棄して、トラッシュにある[魔導書]を含まない魔法カードを三枚手札に加える」(手札六→六 C3)
「!!だから、トラッシュに魔法カードを雑に」
「そして、この効果で私は[大魔法の準備]を手札に加えさせてもらうわよ」
再び行われる手札交換。このターンだけでハカネは十三枚デッキを掘っている。その全てが手札になったわけではなく、使われなくトラッシュに送られたカードもあるが、何度も手札交換を行ったハカネの手札はただの六枚の手札よりも凶悪な手札となっている。
「召喚コスト、マナ1[魔法使いカスミ]を召喚。召喚時効果でトラッシュのカードを一枚デッキの一番下に戻す。この効果で[魔導書の索引]を戻すわ」(手札六→五 デッキ二十二→二十三 マナ九→八)
[魔法使いカスミ] 火 パワー2000 打点1 魔法使い
召喚コスト マナ1
効果 召喚時 自分のトラッシュにある魔法カードを一枚デッキの下に戻す。
「続けて、さっき手札に加えた魔法[大魔法の準備]を発動、発動コストとして[魔法使いカスミ]をトラッシュに送る」
ハカネのカードの使用に反応してどす黒い霧が出現する。それは地を這い寄り[魔法使いカスミ]の足へとまとわりつくと、そのまま上へ上へと登っていく。[魔法使いカスミ]はそれを振り払おうとするも、霧を掴めるわけもなくついには指先までまとわりつかれ、口を覆われて地面へ張りつけにされる。
「効果で、デッキから[大魔法 重力崩壊]を支援エリアにセット。次の私のメインステップ開始時に発動する。発動した場合、そのターンの間、私の攻撃は相手にブロックされず、相手はリバースを発動できない。次のターン詰めるわよ」(手札五→四 デッキ二十三→二十二)
ハカネがそう言い終わると同時に、[魔法使いカスミ]の胸に剣が突き刺さる。最後まで霧を振り払おうともがいていた体は力なく項垂れ、胸から流れ出る血は魔法陣を描き、残された肉は霧へと飲み込まれ霧すらも魔法陣の一部となる。そして、霧がなくなったところには、魔法使いの姿はどこにもなく、残されたのは一本の剣だけだった。
「さて、[日々の積み重ね]に重ねられているカードを三枚破棄して、デッキから一枚ドロー、ってあら?」(手札四→五 デッキ二十二→二十一)
粗方仕込みを終え、次のターンのためにも選択肢を多くしておこうとデッキからカードを引いたハカネだが、思わぬカードを引いてしまい、少し動きが止まってしまう。けれど、すぐに微笑み、それを零にも見えるようにする。
「どうやら、でしゃばりさんがいるみたいだから、出させてあげるわ。召喚条件は互いのトラッシュに異なる魔法カード六種類以上、コストとして六マナを支払い、前衛に召喚」(手札五→四 マナ八→二)
ここに来て、これまで出してきたモンスター達よりも要求される召喚条件と、コストが高いモンスターを召喚される。一体どんなモンスターが召喚されるのか、楽しみでありつつ身構える零、武器を確りと握り臨戦態勢のテスタロッサ。そんな二人とは対極に微笑むハカネ。
「我が身に宿りし悪魔、今何時に顕現する肉体を与えん、それは暴虐の体現、全てを薙ぎ払い、焼き払う竜。現れな!!悪魔竜 カオスドラゴン!!」
いくつもの魔法陣が出現し、そこから骨や血肉が溢れ出てくると、それがひとりでに動き出し、一つの塊となる。そして、現れる、一匹の大型な竜が。
[悪魔竜 カオスドラゴン] 闇 パワー6666 打点6 悪魔/ドラゴン/暗黒契約
召喚条件 お互いのトラッシュに異なる魔法カード六枚以上
召喚コスト マナ6
このカードは相手によってフィールドを離れる際、互いのトラッシュの魔法カードを六枚デッキに戻すことでフィールドに残る。
このカードは相手モンスター一体に指定して攻撃できる。
このカードはお互いのトラッシュにある魔法カードの数×600パワーをアップさせる。
攻撃/防御時 バトルで相手のカードだけを破壊したとき、相手のライフを3減らす。
「それじゃあ、バトルステップ。テスタロッサちゃん?おばさんのモンスターはちょっとじゃ済まないわよ?」
「それは見てわかりますよ!!」
「はい、指定アタックでテスタロッサちゃん、逝ってらっしゃ~い」
「字違くないですか!?」
[悪魔竜 カオスドラゴン]のパワー13266と[戦姫 テスタロッサ]のパワー3000では桁違いで差がある。何らかの方法でパワーを上げても、この差を埋められるものは方法そう簡単にはない。
「ちょっと!!零どうにかならないの!?」
「これは、無理!!」
流石にこの攻撃力をまともに防ぐ方法はない。[悪魔竜 カオスドラゴン]は攻撃とも言えない、ただお手でテスタロッサを叩き潰そうとする。すぐにそれを受け止めようとするが、体格差もあり、一瞬にしてぺちゃんこにされたように見えた。
「「・・・」」
「へぇ?」
[悪魔竜 カオスドラゴン」に潰されたかと思えたテスタロッサだが、実際にはギリギリのところで、両手でやっとこさ持てるほど大きな盾を使いいなしていた。
「リバース条件は相手によって自分のモンスターが破壊された際、リバースカード、[鉄壁武装テスタロッサ]そのリバース効果でリバース発動時に破壊されたカードをトラッシュに送らずすべてを手札に加え、このカードを召喚する」
効果処理でテスタロッサの体からカードが二枚零の方へと飛び、零はそれを掴み手札へと加える。
受け止めきれないなら、被害を最小限に抑えて受け流せばいい。それが零の取った答えだった。
「ただ破壊したのは事実。バトルで相手のカードだけを破壊したから貫通でライフ3ついただくよ」
「グ!!」(ライフ十→七)
体から漏れ出てきた血、それが槍となり零へと襲いかったが、零を守るように現れた障壁がそれを受け止める代わりに三枚砕け散り、衝撃で零は後ろに吹き飛ばされた。[悪魔竜 カオスドラゴン]の攻撃時効果により、相手モンスターを破壊したとき、零のライフが3つ減らされる。
「厄介なモンスターを、後攻一ターン目で出してくれましたね」
「あはは、本当は出すつもり無かったんだけど、一枚しか入れてないのに来ちゃったから」
明らかに後攻一ターン目に出しては行けないモンスターそれをハカネは出してしまった。普通のモンスター一体だけならば、零は苦戦しないだろうが、終盤に出すフィニッシャー級のモンスターとなれば話は変わる。現にこのモンスターは除去耐性を持っており、そのリソース確保はこの一ターンの動きを見ていれば難しくはない。
「でも、まだライフは残ってます。最後まで諦めませんよ!!」
「そう、って地味に高いわね。パワー」
[鉄壁武装テスタロッサ]光 パワー10000 打点1 戦姫/機械
効果・・・・
[悪魔竜 カオスドラゴン]よりも下であるものの、並大抵のモンスターでは突破することが難しいパワーライン。鉄壁の名を冠するだけはあり、カウンターで登場し相手の動きを妨害するのに十分なものだ。現に[見習い魔女 ハカネ]では攻撃力が足りず突破できず、ライフをもう1つ削ることはできなくなった。
「流石に詰める理由もないし、ターンエンド。でも、伏せカードと次のドローでどう突破するのかしら?」
手札を確認し直してから手番を移す。
ターン三
零 ライフ七 マナ五 デッキ三十三 手札二
ハカネ ライフ十 マナ二 デッキ二十一 手札四
「僕のターン、ドロー!!まだ、勝機はありますからね」(デッキ三十三→三十二)
零は最後のドローになるかもしれないカードを引き、ハカネが微笑んだようにほほえみ返した。
「最後まで諦めない、嫌いじゃないわよ」
「はい、まず手札の[戦姫 テスタロッサ]の効果により、フィールドの[テスタロッサ]を含むモンスターとこのカードを入れ替える。これにより、[鉄壁武装テスタロッサ]を手札に加えて[戦姫テスタロッサ]を前衛に!!」(手札三→三)
テスタロッサが纏っていた武装が消え、カードへと変わると入れ替わるように零の手札から出てきた[戦姫テスタロッサ]のカードがテスタロッサへと向かう。
「続けて[高周波振動剣]をもう一度装備」(手札三→二)
たった数手で先程の状態に戻してみせた。そして、リバースカードである[鉄壁武装テスタロッサ]はもう一度伏せカードとして支援エリアに配置することができる。しかし、[悪魔竜 カオスドラゴン]相手では先程のように貫通で三点受けてしまう。それどころか、次のターン[大魔法 重力崩壊]の効果で防御とリバースの両方が潰されてしまう。そして今のライフは七、ハカネにとってリーサル圏内。ならば、このターンで詰め切る以外、零に勝機はない。
「発動コストは手札のモンスターを一枚破棄、戦略[犠牲の上に]を発動。デッキから二枚ドロー」(手札二→二 デッキ三十二→三十)
二枚消費して二枚ドロー。手札に余裕がある状態でならばそこまで痛手ではない、手札が少なく、確実に使えるカードを引き込める確証がない状態では重たいカードであるが、贅沢を言うことはできない。
「あら、さっきのテスタロッサは召喚しないのね?」
「あのカードは防御モンスターですから、アタックできないのでこの場で出しても意味がないです」
「それもそうね、出しちゃったら[孤独な戦場]の効果が使えなくなるし」
ハカネの考えは間違っていない。このターンで決めなければいけないのに、攻撃できないモンスターを出して、折角攻撃できるモンスターを強化してくれている[孤独な戦場]の効果を失ってまですることではない。しかし、零は少し歯切れを悪そうにし、少し目をそらした。
「いや、その、出したくても出せないんです」
「出せない?」
「テスタロッサシリーズ共通効果のようで、このモンスターがいる限り僕はフィールドに他のモンスターを召喚できず、元々いた他のモンスターはすべて破壊されるんです」
このモンスターが自分フィールドに存在する間、自分フィールドにモンスターを召喚できず、このカード以外の自分のモンスターを全て破壊する。この効果は効果で防げず、破壊されたカードは効果を発揮できない。
手札のこのカードを公開することで、自分フィールドに存在する[テスタロッサ]を含むモンスターとこのカードを入れ替える。装備されていたカードは手札に加える。
「え、何そのデメリット効果」
「だから、さっきのは召喚ではなく入れ替わりなのか」
テスタロッサを出せば他のモンスターを全て捨てなければいけない。そんなデメリット効果を聞き、思わず素で感想を漏らしてしまう。アクアも先程の効果処理に納得が行っている様子で、それ以上は何も言わず静観した。
「まぁ、そのデメリットを考えれば[孤独な戦場]は確かに相性がいいか」
「はい。そして、僕はこういう場面でのドローは正直、信用していないんですが、今回はいいカードを引きました。戦略[武装複製]フィールドに存在する装備カードと同名のカードをデッキから一枚除外することで、もう一枚を手札に加える。これで最後の[高周波振動剣]を手札に加える」(手札二→二 デッキ三十→二十八)
デッキから特定のカードをサーチできるカード、そして、それによって引っ張って来られた装備カードが零に取ってこの状況を打破できるカードだ。
「?装備カードは基本モンスター一体に対して一枚、テスタロッサはもう装備してるはずだけど、そういうこと?」
「はい」
通常、ハカネの言う通り、モンスター一体に対して装備させられる数は一枚まで。下手に装備をたくさんできるようにすれば、大型モンスターがより手をつけられない状態になってしまうため、ゲームルールに装備上限を設けることでバランスを取るようにしている。しかし、中には例外も存在する。
「[戦姫テスタロッサ]は装備カードを上限なしで装備できます。その代わり他にテスタロッサ共通能力以外なにもないですけど」
「どんだけ、[孤独な戦場]と相性いいのよ」
「それは、同意見です。と、いま手札に加えた[高周波振動剣]を[戦姫テスタロッサ]に装備」(手札二→一)
新たに出現した剣をテスタロッサは受け取ると、片方を地面に軽く突き刺しておいた。
「そして、戦略[費用捻出]デッキを五枚除外するごとに一枚ドローする。どうせこれがラストターン、二十枚除外して四枚ドロー!!」(手札一→五 デッキ二十八→四)
自らデッキを二十枚も破壊するセルフデッキデス、零のデッキからは二十枚のカードが目の前に出現し、使われることなく砕け散りゲームから除外された。一度にこれだけの枚数を四十枚デッキでやるのはほぼ自殺行為とも言えるかもしれないが、それだけのリスクを犯しても零には十分なリターンがある。
「よし、装備カード[白銀の弾丸]を二枚[戦姫テスタロッサ]に装備」
新たに出現する銀製の弾丸、普通な弾丸より威力が劣りそうだがパワーが上がるのは触れてはいけない。だが、ここで気にするべきはこれによって[戦姫テスタロッサ]の上昇した打点と装備の数だ。[孤独な戦場]は装備しているカードの数だけ追加攻撃が行えるうえ、装備カードにも打点が存在する、その2つが合わさったとき並大抵のモンスターでは届かない火力を得る。
「五打点、五回攻撃。こっちのブロッカー二体をどうにかすれば、リーサルね」
「はい、バトルステップ!![戦姫テスタロッサ]でアタック!!」
五回中二回ハカネに届けばライフをゼロにすることができる。しかし、それを突破するには装備を四枚したテスタロッサよりも、パワーを上回る[悪魔竜 カオスドラゴン]をどうにかしなければいけない。
「まぁ、ここは当然[悪魔竜カオスドラゴン]でブロック」
効果をあわせてもパワー6000のテスタロッサに対し、パワー13266も持つ[悪魔竜 カオスドラゴン]当たり前の選択をハカネは取る。一番自身への損失が少なく、残りの攻撃も[戦姫テスタロッサ]を戦闘破壊してしまえば届くことは決してないのだから。ただ、唯一の懸念点はここまで一切使われていないリバースカード、そして、その懸念は的中する。
「リバース条件はバトル発生時、[バトルキャンセル]デッキを二枚除外してバトルを直ちに終了させる」(デッキ四→二)
「!!そういう」
バトルの強制終了、それによりパワーが低い方のモンスターの破壊処理が行われず、ただ互いに攻撃と防御、バトルが発生したという事実だけが残る。そして、零はこの防御が発生した事実だけ欲しかった。
「効果で除去できないなら、ルールで行動不能にすると」
各モンスターは基本的に防御を一ターン一回まで、このターン[悪魔竜 カオスドラゴン]は防御を行ってしまった。それに対し[戦姫テスタロッサ]は四回攻撃を残している。決着はついたように思えた。
「[戦姫テスタロッサ]で追加攻撃!!」
「いいわよ、いいわよ!!ライフで!!」
テスタロッサはリボルバーをハカネに向け引き金を引いた。周囲には銃声が鳴り響く、しかし、撃ち出された弾丸はハカネに届くことなく張られた魔法陣によって受け止められていた。
(ライフ十→五)
「続けて「ライフ減少により、手札から魔法[氷華風月]をノーコストで発動。効果でバトルステップを強制終了させるよ」やっぱり、ありますよねぇ~、畜生!!」
[氷華風月] 水 魔法
このカードはライフが減少した際、コストを支払わずに発動できる。
発動コスト マナ4
バトルステップ時 直ちにバトルステップを終了する。
ハカネが手札に抱えていた防御札、それを切られてしまい零のターンは強制終了されてしまった。そして、事実上のラストターンがハカネにまわった。
「ドロー、っと。それじゃあメインステップ開始時、[大魔法の準備]の効果でセットしておいた[大魔法 重力崩壊]の効果を発動。これで、このターン私の攻撃はブロックされず、リバースも発動できない。終りよ」
「はい」
「フルアタック!!」
ハカネの宣言により、[悪魔竜 カオスドラゴン]のブレスが零を襲う。一撃で初期ライフの半分以上奪う攻撃の衝撃は凄まじく、障壁が砕けたことによる衝撃は先程とは比べ物にならないほど強く、後ろに大きく吹き飛ばされた。そして、[見習い魔女 ハカネ]の攻撃という名の、杖で頭を軽く叩かれたことで勝負は決した。
勝負は決まり、互いに扱っていたデッキは一つのデッキへと戻り互いの手の内に収まるが、戦闘の際にわずかばかり負った傷は癒えない。吹き飛ばされた際にぶつけた部分をさすりながらゆっくり立ち上がろうとすると、差し伸べられたハカネの手を掴み、引かれながら立ち上がる。
「やっぱり、防御札抱えてますよね。そりゃあ」
「モンスターカードが少ない以上、守りが手薄だから。値は少しどころじゃないけど、いいカードよ?」
本当のことをいえば、あそこまでソリティアをしていたハカネの手札に一枚も防御札がないとは思えていなかった。確実に一ターンは返せる手札誘発を何かしら抱えている。けれど、どんなカードを抱えているのかはわからない以上、切らせ方も分からず、ハンデスもできない。わずかばかりのない可能性に賭けて詰めた決死の選択だった。
「それで、どうなのかしらテスタロッサ?」
「テスタロッサさん?」
テスタロッサは何も言わず、ただ剣を下ろしていた。思えばバトルの途中からテスタロッサが喋っていなかった、そんな気がした次の瞬間、零の真横に剣があった。
カード紹介及び作者たちの一言
「悪魔竜 カオスドラゴン」
闇
パワー6666
打点6
悪魔/ドラゴン/暗黒契約
召喚条件 お互いのトラッシュに異なる魔法カード六枚以上
召喚コスト マナ6
このカードは相手によってフィールドを離れる際、互いのトラッシュの魔法カードを六枚デッキに戻すことでフィールドに残る。
このカードは相手モンスター一体に指定して攻撃できる。
このカードはお互いのトラッシュにある魔法カードの数×600パワーをアップさせる。
バトル時 バトルで相手モンスターだけを破壊したとき、相手のライフを3減らす。
藤野「まぁ、ハカネのカードで数少ない打点だし」
鬼咲「これを序盤で出したら後半のモンスターカードってどうなるんですか?」
藤野「ちなみに、当初とはだいぶカード効果が違う。そしてお前が言うな」
鬼咲「なんの事だろうなぁ」(禁止制限相当のカード作成者