二十七話
一度二人の情報を整理してみたところ、梓は江戸時代と明治時代の間、新選組と維新志士の対立で抗争が行われた際、仕えていていた神社が抗争により消失してしまい、復旧不可能までになってしまった。当時巫女以外で食い扶持を知らなかった梓は歩き巫女として各地を歩き始めた。そんな生活が続いていたある日、気がつけば知らない土地に来ていた。言葉の壁があって初めは意思疎通が大変だったものの、時間をかけて互いの言葉を理解し合い言葉が通じるようになってから、ここが自分が住んでいた場所、世界が違うことを知った。それからは、この世界で暮らしていけるよう、自分でできることをやっていった結果、鬼花の知り合い最終的にはこの里に温泉地を作り、離れに神社を建ててここで暮らしているとのことだ。そして、零は何者かに誘拐されてこの場所へと来た。
二人はこの世界に来た経緯は全く違うものであり、互いに元居た世界に帰る糸口にはならなかった。
「二人が住んでいた時代と年齢を含めて考えると、ある可能性が上がる」
ハカネは深刻そうな顔をし言葉を続けた。
「双方の世界は事実上一方通行でしか行き来できないと思う」
「え?」
「それはどうしてかしら?」
帰りを望む零にとっては行き来が一方通行であると告げられることには衝撃である。一方ですっかりこっちの生活に馴染んでいる梓は今更帰る気がないため心底どうでも良さそうだった。
「まず、双方の世界の時間の進み方が違う可能性。こっちの一日がそちらでは二日、もしくはそれ以上かそれ以下、はたまたその逆の流れか、どちらにせよ同じ時間の流れじゃないと仮に帰れたとしてもそこは自分がいた時代の世界じゃない」
元々別の世界であるため、時間の流れも空間のあり方が違っても不思議な話ではない。本来違うもの同士が何らかの偶然で繋ぎあったから二人がこちらに迷い込んでしまった、そう考える事もできる。
「そして、もう一つの可能性。異世界を渡る際に過去あるいは未来に渡ることも同時に起きている。まあ卓上の空論でもあるから、私が言ったのとは別の可能性はあるけどね」
「でも、いい筋は言ってると思うわよ?この子と私が生きていた時代、そして私がこっちで過ごした年数は合わないから。時間のズレは起きてると思うわ」
梓の肯定も相まり、時間のズレはほぼ確実であることになった。
「まぁ、来た道を戻るように行ければ過去から未来に、未来から過去に行けるかもしれないから帰れない可能性はゼロではないかな?」
可能性が零ではない、そしてハカネが立てた仮説もその通りであると決まったわけではない。
「じゃあ、まだ僕が帰れるんですね?」
「可能性はある、良くも悪くもこれまでと変わらずね」
帰路については結局進捗しなかったが、零と同じ世界の出身のものと出会うことができた。それだけでも十分な収穫であり、零の機嫌は見るからに良くなっていた。
「さて、新しいお茶でも淹れ」
話も一段落がつき、梓が新しいお茶を淹れるために立ち上がろうとしたとき、ガラガラと戸が開く音が聞こえてきた。
「誰かしら?四季ちゃんは今は仕事中だろうし」
梓は不思議に思いながらも玄関へと向かって行こうとしたが、なぜかハカネが冷や汗を晴らしながら、この場を離れようとして立ち上がろうとしていた。
「ハ~カ~ネ~?」
玄関から聞こえてくる聞き覚えのある声がとても低く聞こえてくる。それを聞いて零とテスタロッサも思い出した。逃げるために一人時間稼ぎのために残ってくれた人、アクアの存在を。
「アハハ、梓さん、裏口はどちらにあります?」
「あっちだけど」
「失礼します!!」
ハカネが全速力で部屋を飛び出し、入れ違うようにアクアが部屋へと入ってきた。
「ハカネはどこ行った!!」
「「あっちです」」
零とテスタロッサは息を合わせてハカネが逃げていった方を指さした。それを確認したアクアはそちらの方へと走っていき、二人は裏口から飛び出していった。
「最近の若い子は元気ねぇ」
「それで済ませていいんですか?」
二人が疾風の如くいなくなり、残された三人は二人が走り抜けた際に飛び散らかってしまったものを片付け始めた。
それからしばらくしても二人が帰ってくる様子はなく、既に日も沈みあたりは暗くなりろうそくの灯りを頼りにしなくてはいけなくなった。この暗さではやることもないため、梓が昼の間に用意しておいた雑穀と漬物を頂きあとは就寝するだけであった。
「しばらくは、ここの布団を使って。私はもう一つの離れに普段暮らしてるから、何かあったらそっちに来て」
「何から何まですみません」
「いいわよ。私も四季ちゃんもただのお節介焼きなだけだから」
「だとしても、ありがとうございます」
浴衣だけでなく、寝間着も貸してもらった。なぜか神社がある小山の下の方から大きな物音が聞こえてくるが、その原因にはおおよそ検討がついているため、誰も触れなかった。
「と言っても、すぐには眠れなさそうですね」
「まぁ、私もこの時間じゃ眠れないわね」
零の言う通り、まだ暗くなってそれほど時間は経っていない。寝につくには早いため寝ようと思えても眠ることはできなかった。しかし、この暗さでやれることもない。どうしたものかと部屋を見渡していると、机の上に乗せられている札の束が目についた。
「あれって?」
使い込まれて色があせ、所々破れている。絵柄にはなにかの植物の花が描かれている小さな札たちだった。
「花札、ですか?」
「ああ、それは私がこっちの世界に持ってこれてた数少ないもの。もぅ結構使ってるから使い物にならなくなっちゃってるけどね」
裏側にしてもその札がどの札かと識別ができる程度にはぼろぼろになっている。これでは勝負で使うことができたないため、これを使って遊ぶことはできなさそうだった。
「ただ、代わりと言ってはなんだけど、こっちならあるわよ?」
梓が代わりに取り出したのは一つのデッキ、そのデッキが何なのかをわからないバカはいない。零とテスタロッサは互いに顔を見合わせて頷き合うと零もデッキを取り出した。
「それでは、一本お願いします」
「それじゃあ、ここじゃ狭いし外でやりましょうか」
三人は事務所を出て境内、梓が社を背にし零は鳥居を背にする。石畳の上に立ち、冷たい夜風に晒されながら夜空を見上げる。
「石畳の中央に立つのって良くないんじゃ」
「あ、別にいいわよ。ここ神様祀ってないし」
「それは、神社としてどうなんですか?」
梓の問題発言に零は思わずツッコミを入れるが、梓はどこ吹く風のように無視して自分のデッキを切り、構える。
「さぁ、始めましょうか?」
「はい、テスタロッサさんもお願いしますね」
「こっちも、準備okよ」
零もデッキを構え、テスタロッサはリボルバーのシリンダーを開き、中に弾薬が確りと込められているのを確認してから閉じる。
「「レリーズ、フィールドセット!!」」
互いにデッキが光となり、初期手札のカードが五枚配られる。
「先攻はどうぞ?」
「でしたら、頂きます!!」
第一ターン、零は戦略「戦姫出撃」を使用し、手札を一枚破棄してデッキから「戦姫テスタロッサ」を召喚、更にマナを4支払い魔法「スリードロー」を使い三枚ドロー、戦場「孤独な戦場」を配置し装備「白銀の弾丸」を装備させてターンエンド。
「次は私のターン、ドロー、召喚コストでライフを1失い、手札から「百物語 語り手の本読み妖怪」を後衛に召喚」
梓が真上にカードを投げ、カードが人ほどの大きさになって砕けると、入れ替わるように出現したのは小さな翼を持つ人の形をしたモンスター。その手には一冊の本が握られており、地面に着地すると同時にその本を開き、そこから大量の頁が放出し始めた。
「このカードはフィールドにいる間、効果を受けず攻撃/防御ができない。召喚時効果、デッキ/トラッシュから契約「幻想の契約」を支援エリアに配置する」
梓のデッキから一枚のカードが直接支援エリアへと配置され、梓の周囲は纏う雰囲気を一変させる。
「契約?」
ここに来て新たに登場したカード群に困惑する零でえあったが、それが何なのかを知っているテスタロッサはすぐに零に耳打ちした。
「あれは契約カード、支援エリアに配置されている間効果を発揮し永続カードよりも強力な効果を発揮する代わりに相応のデメリットも負うこといなるカードよ」
少ない説明ながらも、それがどんなカードなのかはカードプレイヤーなだけありすぐに理解でき梓が配置した契約カードへ警戒はより一層高くなった。
「幻想の契約がある限り、私のフィールドのカードはフィールドを離れる際にゲームから除外される」
重いどころの話ではない効果であった。フィールドを離れる、それは戦闘破壊だけにとどまらず、効果破壊に手札バウンス、デッキバウンスと多岐にわたる。それらすべてでゲームから除外されるになってしまっては自身が負うことになるディスアドバンテージは大きなものになってしまう。それだけのカードを使っている手前、自身はその影響が少ない、あるいは利用できるカードを使っていると考えられるが、汎用的なカードでも一部が一切機能しなくなるというのはかなり大きなデメリットであった。
「自分フィールドに幻想の契約がある事で、このカードはコストを支払わずに召喚できる。「百物語 捨て童子」を前衛に召喚」
カードが砕け、新たに現れたモンスターは子供のような姿をしている。しかし、頭には大きな角を2本持ち、鬼と言える姿をしている。
「「捨て童子」の召喚時効果、相手の手札を見ないで選び一枚破棄する。一番右のを破棄」
童子が石を拾い上げると、それを零目掛けて勢いよく投げつける。小さな石でも当たれば一溜まりもない、しかし、零の手札が一枚大きくなり零を守った。
「いきなり、ハンデス」
零を守ったカードはボロボロと崩れ落ち、カードの原型を留めていない。ハンデス効果によりいきなり手札を狙われたことに苦虫を潰したような表情をするが、梓の展開はまだ終わらない。
「続けて、永続戦略「百物語 コトリバコ‐八戒‐」を配置」
どこからともなく綺麗で人が簡単に入りそうなほど大き箱が落ちてきた。それはさず美しく伝統工芸品などで高値で取引されそうなほどの見た目をしているが、不思議と肌から感じる嫌な気が箱からは漏れ出していた。
「配置時処理として、自分のデッキから裏向きで八枚このカードの下に重ねる。このカードはターン終了時にかな寝られているカードを二枚を表向きにして破棄する。破棄できなかった時このカードは破壊される。そして、このカードがフィールドに在る間、お互いに効果でデッキと手札からモンスターを召喚できない」
「え?」
コトリバコ、それは女子供を箱に詰めて創り出す呪いの箱。その呪いは新たな子を産ませず、母体を衰弱させていく。そんな呪いが新たなモンスターを出させない形としてこの場に出現した。
「八戒、自分すら巻き込む危険な呪いらしいわね」
(先1で効果召喚していてよかった。後手だと戦術「戦姫出撃」の効果では召喚できなくなってる)
カードゲームにおいて効果による召喚は多くのカードに配られている。それを合計4ターン、自分をも巻き込んでしまうが封殺してしまう効果の恐ろしさはプレイヤーにしかわからない。
「あとは、私もマナ4で魔法「スリードロー」を使用。デッキからカードを3枚引いて、伏せを一枚やって」
確りと手札補充を行いカードを一枚伏せる。
「それじゃあ、捨て童子でアタック。その際、もう一度相手の手札を一枚見ないで破棄する」
「また!?」
再び行われるハンデス、ゼロはこのターンだけで2枚も手札を失ってしまった。これ以上の手札の損失は見過ごせないと思い、零はテスタロッサに目で合図を送る。そして、テスタロッサは頷き、リボルバーの撃鉄を下ろす。
「テスタロッサでブロック!」
近づいてきてる捨て童子の脳天に銃口を向け、引き金を引く。そして、捨て童子の拳はテスタロッサの真横を通り、空を切る。
「「幻想の契約」の効果で、私のフィールドにあるカードはフィールドを離れる際、ゲームから除外される」
「捨て童子」の体ははらはらと崩れていき、フィールドを去る。除外されたカードはトラッシュに送られないため、トラッシュを対象とした効果の恩恵を受けなくなる。それが「幻想の契約」が持つ最大のデメリットであった。
「エンドフェイズ、ここで「幻想の契約」の効果、各ターン終了時私のライフを2回復し、マナを2追加する。そしてコトリバコのカードを二枚ゲームから除外する」
「ライフコストの時点で察してましたが、ライフ回復効果を持っていますか」
毎ターンライフを2とマナを2、発生するタイミングは遅いものの積み重ねていけばその数は馬鹿にできない。しかし、デメリット効果を受け入れてでもこのカードを使わなければ回らないデッキであるとも言えるため、ライフ回復程度には予想ができるため驚きはしない。
零に手番が戻り、デッキからカードを引き盤面を確認する。梓のフィールドには「本読み妖怪」が存在するものの、防御ができないため、ブロッカーとして数える必要はない。そして先のターン「捨て童子」の攻撃、あれはハンデスが狙いであったと考えられるが、盤面をカラにして相手に手番を返すものか。少し考えを巡らせるが、ここは一度踏み抜いたほうがいいだろう。
「カードを一枚伏せて、アタックフェイズ、テスタロッサでアタック!!」
白銀の弾丸を装備していることもあり、現在のテスタロッサの打点は2点となり、戦場「孤独な戦場」により、追加攻撃を一回獲得している。このターンのライフ回復分も含めえればライフ9にさせることができ、次のターンのライフコストを敬遠させられる。
「ライフで」
手札からカードも飛んでくることはなく、テスタロッサの放った弾丸は梓の頬をかすめ、梓のライフは2減らされた。その瞬間、梓が伏せていたカードが開いた。
「リバースはライフ減少後、魔法「百物語 咲き誇る彼岸花」相手フィールドのモンスターを一体破壊する。対象はもちろん」
零のフィールドにいるモンスターはテスタロッサ一体だけである、よってテスタロッサの周囲に大量の彼岸花が咲き乱れる、その勢いにテスタロッサは巻き込まれてしまった。
「その後、マナを3支払うことで、トラッシュにあるカードを一枚手札に加える、これで魔法「スリードロー」を手札に」
梓の手札に魔法カードが戻った瞬間、零のフィールドに伏せられていたカードが開かれる。
「相手による自分のモンスター破壊後、戦略「危機一髪」リバース効果で破壊されたモンスターをそのままの状態でフィールドに残す。その後メイン時効果を発揮。このターンの間、自分フィールドのモンスター一体は相手の効果を受けない」
咲き乱れた彼岸花を一振りで斬り伏せ無傷の状態のテスタロッサが現れた。
「元の状態で戻るため、通常攻撃は終わってますが、追加攻撃は別です。もう一度お願いします」
「お返しよ!!」
二回目の攻撃、強く地面を蹴り梓との間合いを詰め、振り上げた剣が梓に当たりそうになる。
「ライフで」
あと少しで梓に刃が触れそうになった瞬間、テスタロッサの腕は弾かれた。そして、胸ぐらを捕まれ眼の前にあった梓の姿は、なぜか背中であった。そして弾かれた腕も掴まれ勢いよく地面に叩きつけられた。
「???」
「え?」
テスタロッサの攻撃は確かに梓のライフを減らす攻撃をしていた。しかし、なぜか流れるように背負投をされてしまい、生身の梓に武装していたテスタロッサが目の前に広がっていた。
「えーと、残りライフ7ね。次は?」
梓は何事もなかったかのようにテスタロッサの手を掴み、立ち上がらせると零の方へと振り返る。梓の自己申告でテスタロッサのライフは確実に減らされているものの、それでいいのだろうかと疑問に思ってしまう。
「ターン、エンドです」
「なら、コトリバコのカードを二枚除外して、幻想の契約でライフとマナを2追加、私のターンドローっと」
当たり前のようにライフとマナを回復させる梓であったが、そうでもしないと回らないデッキであるため、どうにかリーサルへと持ち込めなくはないだろう。しかし、零が今警戒しているのは梓が持つライフよりも、デッキの方であった。
(すでにデッキの半分が消えた。デッキトップ八枚をランダムといえど、使えなくするカードはそう簡単には採用できない)
デッキを雑に扱えるカード達は必ずと言っていいほど共通している能力がある。通常ならば使えなくなったカードを再度使えるようにする手法、サルベージ。または、その状態でも使うことができる効果を持つカード。そのどちらかを使ってくる。そうなれば、配置されたコトリバコはこちらの展開を妨害する効果を兼ねつつ、自分が欲しいカードを探すためのカードだったのだろう。
「とりあえず、もう一度魔法「スリードロー」」
「とりあえずで使うカードじゃないです」
当たり前のように使われるデッキから三枚引くカード。通常ならばコストが重いからこそギリギリ許されているはずの効果なのだが、こうも当たり前のように使われてしまったら文句の一つでも言いたいところである。ただ、このターンの間、梓のマナが0になったため、展開に制約がつくはずである。
「フィールドに「幻想の契約」があることにより、召喚コストをマナ3からトラッシュのカードを一枚除外に変更し、「百物語 夢見の少女」を後衛に召喚」
現れたのはどこにでも居るような小さな少女。とても戦いに出るような姿をしておらず、一般人と言ったほうがしっくり来る装いである。
「召喚時効果発揮、デッキトップから3枚オープンし、その中のテキストに「幻想の契約」を含むカードを一枚手札に加える。残ったカードはデッキの下に送る」
オープンされたカード、「百物語 幻想の導き手」「百物語 星読み少女」「百物語 幻想の求道者」。三枚ともモンスターカードであり、テキストに「幻想の契約」を含んでいた。
「なら、「百物語 星読みの少女」を手札に加える。そして、このカードは自分フィールドに「百物語 夢見の少女」があるとき、召喚コストを支払わずに召喚できる。後衛に召喚」
新たに現れる少女、その少女もまた先の少女と同様ととても戦いに出るような姿をしておらず、一般人のように見える少女だった。
「召喚時効果発揮、デッキからカードを一枚選び相手に公開し、そのカードをデッキの一番上に置く」
公開されたカードは「百物語 天魔」、それはこれまで見せてきたカードたちとは一風を成すカード。大きな翼を持ち、太刀を携えている姿。明らかに大型のモンスターであろう。
「そして、私のフィールドの夢見と星読みの二体を生贄としてゲームから除外し、ライフを3支払うことで「百物語 集うこっくりさん」」
二人の少女は消え、代わりに足元には五十音が広がり、一つの石が独りでに動き出した。ズズズと擦りながら文字を辿り、何箇所かで一度止まってから動き出す。そして、止まった箇所の文字を繋げると「こ・ろ・す」となった。直後一匹の動物の霊が現れる。
「すごい物騒な動物霊が来ちゃった」
「え?大丈夫ですよねこれ」
「大丈夫、多分」
「多分って」
物凄く不安にさせられるが、あくまでカードバトルの範疇であるため、殺されはしない。そう思いながら零はバトルを続ける。
「こっくりさんの召喚時効果霊魂2発揮。私のデッキ二枚を裏向きで「百物語 動物霊」すべての属性に幽霊を持ち、打点1、パワー1000、効果なしとして扱い召喚する」
新たに動物の霊が二匹現れ、贄としたカード分のアドは取り戻している。
「この裏向きカードは、フィールドを離れる際私の手札に加わるけど、「幻想の契約」の効果で残念ながら除外されちゃうのよね」
(裏向きカードにはさっきデッキトップに置いた天魔がある、それなのに手札に加えないであんな形で場に出すってことは、除外されていてもサルベージできるのか)
「そして、裏向きカード二枚とこっくりさん3枚をゲームから除外して、あー、これなら捨て童子残しておけばよかった。出てきて、妖を束ねる大悪党、その力で山を砕け「百鬼夜行 酒呑童子」を召喚!!」
いくつもの動物霊たちが集まり、一つの形となっていく。そして、現れたのは一つの門、門の先にはこの世とは全く違う、真っ赤に染まった地獄のような世界が広がっている。そんな世界から一体の妖が門をくぐり現れる。
「鬼でも、相当有名な妖怪じゃないですか」
「へぇ、そんなに有名になっているんだ。とと、召喚時能力発揮、除外されているカードをすべて手札に加える」
「嘘だろ」
梓の手札は一気に十六枚になった。こんな回収手段があるため、予想通りこれまでに雑にカードをゲームから除外していることにも納得がいく。
「魔法「幻想と現の境目」、このターンの間召喚コストでモンスターをコストとするとき、手札からもコストにできる。ただし、この効果でコストにしたカードはゲームから除外される」
「・・・あの、すごい嫌な予感しかしないんですけど」
事前にハカネに見せてもらったカードたちに書かれていた召喚コストは、モンスーターをコストにする際フィールドのモンスターをコストにしている。それなのに、手札のモンスターもコストにできるようになれば、コストとなるモンスターの召喚コストを支払う必要がなくなる。その脅威性はこれ以上説明する必要はない。
「手札から、「百物語 白狼天狗」「百物語 烏天狗」「百物語 夢見の少女」三枚をゲームから除外し、「百物語 天魔」を召喚」
吹き荒れる暴風、その強さに思わず零は自分前に腕を組み片足を後ろに回し吹き飛ばされないよう身構え、テスタロッサは片目を瞑りながら剣を地面に突き刺し耐える。しかし、テスタロッサはその暴風に耐えられなかった。
「召喚時効果発揮、相手フィールドのすべてのカードを手札に戻す」
「な!?」
「きゃ!!」
テスタロッサは勢いよく吹き飛ばされ、鳥居よりも後ろ、何十段にも続く階段を転げ落ちていく。モンスターだろうが、永続や戦場、伏せのカードすら関係なく、相手フィールドのすべてのカードを吹き飛ばす効果。それにより、零のフィールドは一瞬にして更地となってしまった。それに対し梓のフィールドには大型モンスターが並べられている。とてもまずい状態になってしまった。
「更に手札を三枚ゲームから除外して、「百物語 西より来たり吸血鬼」」
四方八方から小さな蝙蝠が飛来してくると、蝙蝠が一箇所に集まり人の形を作り出す。そして、ある程度の形になったところで蝙蝠が一気に飛び散るかのように飛び中から一人の少女が姿を表す。
「吸血鬼、これは」
「召喚時効果発揮、自分のライフを4回復する」
「お~~い!?」
当たり前のようにライフを回復されたことにツッコミを入れた零であるが、梓はお構い内に続ける。
「それじゃあ、バトル。吸血鬼で攻撃」
「だぁ!!ブロッカーがいない」
梓の攻撃宣言により、零は手札から使えるカードが無いかを確認するが、どれもこのタイミングで使えるカードではない。そして、先程フィールドのカードはすべて手札に戻されてしまったことにより、場のカードでどうにか対処することは不可能。
「攻撃時能力発揮、ターンに二回まで私のライフを1減らすことで、このモンスターはバトル終了後続けて攻撃を行える」
吸血鬼は自身の手首を切り血を滴らせると、その血が一本の槍となる。それを零めがけて投げつける。しかし、投げられた槍は零の眼の前に出現した障壁により弾かれ、攻撃は零の下まで届かなかった。
「残りライフ、8」
「バトル終了後、もう一度吸血鬼は「ライフ減少により手札から「氷華風月」をノーコストで使用!!直ちにバトルフェイズを終了する」あらら」
梓の追撃を防ぐためにも零は強力な防御札を切った。
「残念、コトリバコのカードを二枚除外してターンエンド」
本来ならこれで仕留めきるつもりだったにもかかわらず、耐え切られてしまった。その証拠に梓のフィールドには、伏せカードが一枚もない。手札から切られる妨害と防御札の有無はわからないが、守りが十分なものとはとても言いにくい状態で零にターンを渡している。
「これが、ラストターンです。ドロー!!」
新たなカードをデッキから勢いよく引き抜き、器用にくるりと回し引いたカードを確認する。
「デステニードロー、なんて都合良くは行きませんか」
「四季ちゃんみたいに、デッキトップ解決されたらたまったもんじゃないんだけど」
「ですが、まだやれることはあります」
某主人公たちのように今ここで必要なカードを引ける運命力なんてものはない、あくまでどこにでもいるような一般プレイヤーの一人に過ぎない。そんなプレイヤーがどうやって確実にほしいカードを引き込むか、そんなものは一つしかない。
「まずは、「孤独な戦場」を配置し「戦姫 テスタロッサ」と「白銀の弾丸」を召喚」
手札に戻されたテスタロッサも、再びフィールドに戻り戦線復帰を果たす。
「手札より、戦略「戦術的攻城兵器」を発動。デッキ/手札から装備カードを一枚トラッシュに送り、相手フィールドのカードを一枚破壊する」
「「百物語 語り手の本読み妖怪」の効果、自分フィールドの「幻想の契約」は相手の効果を受けない」
デッキから装備カードを一枚引き抜くと、そのままテスタロッサの手元に納まる。
「その効果で、「百鬼夜行 酒呑童子」を破壊する」
テスタロッサは手に収まった武器を酒呑童子めがけて思いっきり投げつける。通常ならば簡単に弾かれて終わりだろうが、今回はカードの効果が上乗せされており、武器に当たった酒呑童子は破壊される。
「ッ!!酒呑童子の破壊時効果発揮、子鬼2の効果で手札のカードを二枚まで裏向きで攻撃力1000のモンスターとして召喚できる」
破壊により除外された酒呑童子に変わって、小さな鬼が二匹現れる。攻撃力は大したものではないものの、壁モンスターとしての役割を果たし、次のターンの生贄としての役割も果たせる。大型を出しておいて、しっかりと後続を確保してきて厄介なものであった。
「戦略「ダークネス・ブレイク」デッキを五枚破棄し、相手フィールドのカードを一枚破壊する。「百物語 西より来たり吸血鬼」を破壊」
「ああ、ブロッカーが」
「なんか、零ってよく自分のデッキ破壊してない?」
「破壊しないと回らないんですよ!!」
セルフデッキデスは自分の首を締めてしまうが、それでも十分なリターンが見込める時がある。そして、トラッシュに落ちた五枚のカードを見た。
「これなら、行ける」
「え、行けるのこれ?」
盤面的にはかなり絶望的な状態。アクアのデッキ破壊や、ハカネの広範囲除去ができる方法ならば大型が並んでいるこの状況を用意に突破できるだろうが、生憎テスタロッサ軸のこのデッキではそう簡単に相手の盤面を無視することはできない。ただ、このデッキとしての戦い方ならば、どうにかなるかもしれない。
「戦略「武具の墓場」デッキを6枚破棄して、トラッシュにある装備カードを好きなだけコストを支払わずに召喚する」
「え?装備カードって基本一体につき一枚だけじゃ」
テスタロッサのカードはポピュラーなカードではない、だからテスタロッサの効果は知られていない。故に梓の反応は間違いではない。
「私は装備カードを何枚でも装備できるんです」
「・・・ん?ってことは」
何かを察した梓、その顔は笑っているものの口元を見ると若干引きつっていた。このあとの展開に何かしらのデジャブを覚えている。
「トラッシュの装備カード七枚をテスタロッサに装備させる」
地面に突き刺さる七種類の武具、そしてテスタロッサの手には白銀の弾丸がこめられている。これにより、テスタロッサが装備しているカードは8枚、「孤独な戦場」の効果により、通常攻撃に加えて八回の追加攻撃、合計九回攻撃の九打点。そして、その合計攻撃力は、
「攻撃力17000です」
「うーん、私のブロッカー全員より上」
梓のブロッカーを上回る攻撃回数に、十分な打点の数。デッキの性質上自傷が多い梓のデッキでなくとも、大半のデッキならばほぼ死刑宣告となった盤面に、梓は苦笑いするしかできなかった。
「アタックフェイズ、テスタロッサでアタック!!
「了解」
テスタロッサは握っているリボルバーの撃鉄をおろし、梓に狙いを定める。
「天魔でブロック!!」
引き金を引き打ち出される白銀の弾丸、しかしその弾丸は天魔が振るった大団扇から巻き起こされた突風により明後日の方向へと吹き飛ばされる。そして、その突風はテスタロッサにも襲いかかり、再び吹き飛ばされそうになるが持っていたリボルバーを捨て二本の剣を地面に突き刺し耐える。
「天満の防御時効果、このターン相手の通常攻撃は行えない!!」
「それでも、一回目の通常攻撃は有効。天満の首は取ります」
より深く剣を突き刺し、片方の手を話して変わりに新たなリボルバーを引き抜く。それは先程使っていたリボルバーよりも口径が大きく、殺傷能力が高いものになっている。
「これで!!」
残弾すべてを打ち尽くす勢いで引き金を引き撃鉄を下ろす。何発かは突風により明後日の方向へと行ってしまうが、一発が天魔の体を撃ち抜き破壊した。
「さらに、「孤独な戦場」の効果。自分フィールドのモンスターが一体だけなので、装備カードの枚数分追加攻撃ができる。この攻撃は通常攻撃じゃないから、天魔の効果を受けずに残り八回攻撃できる」
「えーと、打点いくつ?」
「九点です」
零の真顔によって答えられた数に梓の表情は固まる。自身のデッキもまぁまぁおかしい方である自覚はあるものの、それをたった一体でねじ伏せられるとは思っていなかった。
「え!?ちょっとそれは!!全員ブロック!!」
梓が今できる最大限の抗い、しかし全員の攻撃力はテスタロッサを下回っており、すでに破壊による誘発効果も失われている。そして、零のように手札から発動できるカードもない。こうなってしまってはテスタロッサの猛攻を止めることはできない。瞬く間に梓のフィールドのモンスターは破壊され、残されたのは防御ができない本読みの妖怪のみだった。そして、最後の攻撃の為にテスタロッサはゆっくりと梓の前に近寄る。
「うう、久々に勝てるかなぁと思ったんだけど」
「防御札の重要性が出た勝負でしたね」
「ほんとよ、展開より防御札引っ張ってくればよかった」
テーマカードの防御札を手札に引き入れる機会はあった。それでも盤面を揃えるためにカードを回したことで、防御ができる札を手札に引き入れるタイミングをすべて捨てていた。それが今回の梓の敗因と言えるだろう。
「それじゃあ、終わらせます」
テスタロッサは剣を鞘に納めたまま振り上げ、無防備なままの梓に振り下ろす。
「負けかぁ」
残念そうな声を出しながら梓は振り下ろされる剣を片手で弾き、予想外な衝撃が食わったことで姿勢を崩したテスタロッサを正面から受け止める。そして、勝負が終了したことを告げるように、カードによって出現していた物たちは姿を消していき、残されたのはテスタロッサが元々持っていた武器と、二人のデッキだった。
「「・・・」」
「どうしたの?二人共そんな目をして?」
受け止めたテスタロッサの姿勢を直し、離れさせるが、何故か不思議なものを見る目で見られていることに梓は不思議に思う。
「「いや、なんで当たり前のように攻撃を受け止めてるんですか?」」
「え?普通じゃない?四季ちゃんなんてノーガードだし」
「「ええ??」」




