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二十六話

「全然ゆっくりできなかった」

 あの後、零もハカネに誘拐の如く連れて行かれて温泉に入った。

 今三人の服装は鬼花が用意しておいてくれた浴衣に身を包んでおり、すっかり旅の疲れは吹き飛んでいるようにも見える。そんな状態でリサが寝ている宴会場へと戻ってきていた。

「やっぱり、まだ目は覚ましませんね」

「この子は魔人化してるって言っても、体の殆どは人間のままだからね。あれだけの致命傷だから数日は目を覚まさないと思うよ」

 専門でなくてもその手のものを何度も見てきたハカネの言葉は、この場にいる誰よりも説得力があった。彼女が普通の人間ではないということもわかっているため、その分安心することができた。

 しばらくすると、襖が開き少しつかれた状態で梓が顔を出した。

「あなた達、今日泊まる場所準備できたから。来てもらっていいかな」

「え、でもリサさんが」

 リサはこの場所で眠ったままである。彼女をこのままここに残していくのには少し気が引けてしまうテスタロッサであったが、梓はそんなのお構いなしにリサを軽々と背負い上げた。

「寝床も用意してあるからついてきて」

 こちらの意見は関係なしに、梓は歩き出した。

「あ、待ってください」

 それに零も続いていき、ハカネは二人が置いていった荷物を手にとって少し遅れてから追いかけていった。

 一般的な大人の女性と比べると少し小柄なリサを背負っているにも関わらず、梓の歩く足は早く、零とテスタロッサは少し駆け足になることでやっと追いつけるペースで歩いていった。しばらく歩き進んでいき、温泉街から少し出て外れの方に向かっていくとこれまた零にとっては見慣れた大きく赤い建造物が見えてきた。

「鳥居?ですか?」

「あれ?知ってるの?こっちじゃこれ知っている人少ないんだけど」

 どこからどう見ても神社の前にある鳥居である。それどこから、鳥居の前と後ろに伸びている石畳、決定的なのは鳥居の後ろにある建物だった。

「どからどう見ても神社じゃないですか!!」

 注連縄に賽銭箱、正月によく鳴らす大きな鈴、他にも神社でしか見かけないようなものばかりであり、ただ似たようなものがあるだけと言うのは無理な情景だった。

「ん、まぁ、ここ神社なんだけどね」

 梓は驚いた表情をしつつも社の直ぐ側にある事務所の方へと案内した。中に入ってみるとそこまで広い建物ではないものの、最低限必要なものが揃っており小さいながらも調理場も設けられている。リサは部屋の一室に寝かして、ハカネ達が就寝する部屋へと案内した。

「あら?これって矢?」

 梓に部屋を案内されていると、ハカネは沢山置かれている矢に目がついた。矢と言うには派手な色をしており、鈴が結び付けられている。そして、肝心な矢尻は殺傷能力がある造りをしておらず矢と言っていいものかわからないものだった。

「破魔矢、ですよね?正月に飾る奴ですよね」

「よく知ってるわね」

 部屋をよく見てみれば箱に詰め込まれた御守と絵馬の山、作っている途中である材料の山があり。どこからどう見ても零が知っている神社であり、売っている商品すら同じものだった。これにはもう零は何も言えず、今ここにいる場所が異世界なんだよなと考えていると、梓が零も元へと歩み寄る。

「ねぇ」

 不意に梓が零に話しかけた。

「あなた、私と同郷?」

 その問いに固まり、ハカネは零と梓の姿を見比べる。二人共梓が旅をしてきた中でも比較的珍しい黒髪をしている。そして、瞳は茶色みがかっており、これまた珍しい色であった。

「・・・あり得なくはないわね。二人の持ってる特徴はあまり聞かないし、見もしないものだけど」

「あっちじゃ、にほん、にほんって呼んでた人が多かったけど」

「にほん?テスタロッサは聞いたことがある?」

「嫌、ないですけど」

 聞き覚えの無い名称に首をかしげるが、唯一その名称に反応する者がいた。

「それ、自分が住んでた国の名前です」

「「え?」」

「やっぱり?あなたも私と同じでこっちの世界に来ちゃった感じなのねぇ」

「「は!?」」

 梓はどこかで確信していたのか対して驚いた様子を見せず、何事もなかったかのように調理場へと行ってしまった。残されてしまった零達は梓の爆弾発言に少しぽかんとした状態になり、互いに顔を見合わせる。

「どうして、零が異世界出身だとわかったの?」

 テスタロッサが零した疑問に答えるものはいなかった、と思えたがすぐに梓は手にお盆をもちその上には急須に湯呑み、茶菓子が乗せられた状態だった。

「いや、こっちで鳥居に神社、破魔矢のこと知ってる人間なんてそうそういないからね?」

 足で近くにあったちゃぶ台を皆が囲いやすい場所に引き寄せ、畳の上にお盆を置くと正座をして、急須に淹れられていたお茶を湯呑みに注ぎ始めた。

「私がこの里に来る前にいた国の人なら知っててもおかしくはないでしょうけど、そこの人はまずこっちに来ない。それに黒髪の人はそこでもいなかったからね」

 四人分のお茶を注ぎ終えると、ちゃぶ台の上に乗せお茶菓子も添える。

「とはいえ、感の部分もあったけどね」

 一人湯呑みを手に取り、湯気が立つほど温かいお茶を熱そうともせずに飲む。

「それ、緑茶?高いはずじゃ」

「まぁ、安くはないけど。美味しいよ」

「紅茶とかじゃないんですね」

「誰がわざわざあんな茶色い茶葉で飲むのよ、まぁ麦湯は飲むけどさ」

 聞く人からすればどうでもいいような会話であるものの、そんな会話で零も梓が自分と同じ世界出身なのだろうと思えた。そのため、自分も正座で座り注がれたお茶を取り飲んだ。

「あれ、そんなに熱くない」

「そりゃそうでしょ、あっついお湯入れたら美味しくないんだから、だいたい熱燗より少し高い位の温度で出すのが一番いいんだから。ほら、二人も冷める前に飲んだら?」

 梓にそう言われてテスタロッサとハカネも一度座るが、その座り方はあぐらと膝の片方を立ててでの座り方だった。そして、梓が入れてくれたお茶を飲んでみるが思っていたよりも冷たくなんとも言えない表情へとなった。

「僕の住んでいた国、日本では世界的に見ても緑茶を飲むのは珍しい国でした。それに、僕と梓さんがやっている座り方、正座もかなり珍しい座り方でした。それに、日本は他の国にはない独自なものがかなり多かったんですが」

「あまりにも一致するものが多いと?」

「はい」

 あまりにも一致するものが多い、一つや二つならば偶然の産物と行って片付けられるかもしれないが、ここまで多いとなれば、誰かがその知識を持ち込んでこちらで同じようなものを作ってみせたと言ったほうがしっくり来る。そして、それらを持ち込んだのが目の前にいる梓なのだろうと。

「この神社と小物も、なんなら初めにいた温泉にこの浴衣も梓さんの入れ知恵ですよね?」

 零の問に梓は持ってきた煎餅をバリィといい音を立てて食べてから答えた。

「まぁ、そうね。温泉と着物に浴衣はほとんど偶然の成り行きだけど、大体は私があっちで歩き巫女をしている間に見聞きをして知ったことを伝えて作ったから。この神社は四季ちゃんが勝手にね・・・」

 零は無言で進められてくる煎餅を手に取りつつ、梓の話を聞いた。

「まぁ、あっちでもこっちでもずっと成り行きで過ごしてきたからね。大した事じゃないわよ」

「大した事ないって異世界で故郷、それも昔の日本をやるなんてどうかしてますよ」

「え?昔」

「え?」

「あ、いや昔か」

 この時、零は直感的にあることを感じ取り意識しないまま言葉を続けた。

「梓さんって、何時の人です?」

「え?1870位にこっちに・・・」

「僕2020代です」

 単純計算でも 百五十年程度の差があることになった。突然発覚したことに零と梓は固まってしまう。

「というか、四季さんと同じレベルの古株ってことだから・・・」

「あなた今何歳なの?」

「さぁ?」

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