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二十四話

 負傷したリサを背負い全速力で走っている。ハカネが短距離転移魔法を使ったおかげでルインからの視界から外れることができ、アクアが足止めをしてくれているため、ほぼ追われることはないだろう。そんななか、目的地だった集落が見えてきた。

「あそこよ、リサは元々人間だから手当をできる人はいるはず」

「ハカネさんの魔法じゃだめなんですか?」

「短距離転移魔法で魔力殆ど持ってかれたからむり」

 空間を無理矢理湾曲させて点と点を繋げ、繋がっている間に通り抜ける。それが転移魔法の原理であるが、空間そのものを湾曲させるだけにとどまらず、人が通れるだけの大きさを繋げ続けるための魔力は膨大になる。四人分通れる大きさと時間を稼ぐだけでも、この世界の魔法使いからすれば規格外な方なのだ。

「すみません!!医者はいませんか!!」

 零達が里に到着すると、すぐに近くに居た人に話しかけた。周囲の人達もテスタロッサが背負っている人が怪我人であることに気がついており、気がついた人たちはそれぞれ動き出した。

「俺姉御に連絡してくる!!」

「私は姉さんに、今日は団子屋にいるはずだから」

 それぞれが走り出し、零達は近くにある宿泊施設の宴会会場と布団を借りてリサを寝かせた。すぐにドタバタと大きな足音を立てながら一人の女性が宴会会場に入ってきた。

「患者はその人!?」

 持っている紐で袖を縛りたすき掛けをしながら聞いてくる。

「はい」

「怪我の状態を見るから」

 手早くリサが来ていた服を破り捨て傷の状態を確認する。すでに自身の自然治癒能力で出血は止まっているが、広範囲の傷ができているせいで肉の回復までは始まっていない。更に、呼吸が浅く、場所によっては折角できた瘡蓋も破れてしまい、再び出血してしまっている。

「梓さん!!お湯と布を持ってきました!!」

「そこにおいておいて、それと麻酔に縫合用の針と糸を」

 梓は桶にお湯を入れて持ってきてくれた男性に必要なものを告げると、他に怪我をしていないのかを確認しつつ、用意された布を絞り血をふき取っていく。そして拭き終わる頃には頼んでいた物が届けられる。

「悪魔憑きに効くかはわからないけど」

 梓はリサに麻酔を施していく。麻酔が効いているのか効いていないのかはリサの様子から判断するしかないのだが、倒れてから意識が回復していない。そのため、梓はこれまでの経験から麻酔が効き始めたタイミングで縫合を初めて傷口を縫い合わせていく。

 体感時間では何時間にも感じた外科手術であるものの、実際はほんの数分で縫合を終えて清潔な包帯を確りと巻き付け終えていた。

「ふぅ、これで大丈夫なはずよ」

「「ありがとうございます!!」」

 梓の手術終了の宣言に、零とテスタロッサはすぐにお礼の言葉を述べて頭を下げた。一方ハカネは魔力を一度にたくさん使いすぎたことによる反動を今になって受けており、部屋の隅で顔色を青くして今にも吐きそうな状態になっている。

「とりあえず、そっちの人もしばらくは安静にね。出血も相当しているみたいだから、数日間は血が足りなくて動けないと思うし、当面はこの里に滞在することね」

 血で汚れた手を手ぬぐいで拭き取り、たすき掛けしていた紐を解き障子を開けて中庭の方へと出た。

「一服してるから、何かあったら言って」

 梓が取り出したのは一本の煙管、それがタバコの一種であることは零も知っているため、怪我人であるリサを気遣ってこの場では吸わないようにしてくれたと察し、横になっているリサのもとへと寄った。

「スゥ」

 リサの寝顔を見るのは初めてであるものの、これといった苦痛を感じているような表情はせず、落ち着いて安心している表情をしていた。

「良かった」

「彼女に恩がありますから、生きてほしいですね」

 零達がリサの無事なことを安心している他所で、中庭で一服している梓は大きく息を吐いた。

「面倒なことになりそうね、ね?四季ちゃん」

「そうだな」

 中庭を経由して来ていた一人の鬼、鬼花四季が梓の横に立っていた。彼女がこの場にいるのも、梓がこの場にいるもの、怪我人が運ばれてきたということを聞き呼ばれてきた姉御と姉さんがこの二人だからである。

「それで?どうするの、あの子悪魔憑きよ?最近行商から聞く悪魔祓いの一派が敵視している存在の子よ?このままこの里に居させていると面倒事に巻き込まれるのは確実だけど?」

 悪魔を敵視している組織は決して小さなものではない。そんな組織を敵に回してまで彼女を匿い、里の人間を危険にさらす義理は二人にはない。むしろ里の人間の安全を第一に考えなければいけない立場にいる二人であるため、立場的にはリサと彼女を連れてきた零達をさっさと里から出すべきである。しかし、梓はその質問を笑いながら聞いてきた、まるで鬼花がなんと答えるのかをわかっているかのように。

「私等が追い出す義理がどこにある?第一ここは姥捨山だった場所で、私とお前と捨てられた人達で作った里だぞ?」

「知ってた。それでこそ四季ちゃんね」

「それに、怪我人に無茶をさせられるか」

 この里は、他の集落や里から口数減らしなどで追いやられた人たちが集まってできた里である。それを纏め上げたのがこの場にいる二人であった。だからこそ、迫害や追放された人たちにはとても寛容であった。

「と言うわけで、安心してね。悪魔と契約しているあなたも」

「・・・」

 壁に耳あり障子に目あり、障子越しに梓が手当をしている頃から気分が悪そうにして一切動かないように見せていて、梓と四季の会話を盗み聞きしていたハカネは少し冷や汗を流してしまった。

(バレてた)

 すでに体調は十分に回復しており、自身が取るに足らない敵だと思わせるために弱っているフリをしていたにも関わらず、梓にはバレているようだった。

「ねぇ、四季ちゃん。彼女らにどこか寝泊」

「お前の家貸せ、無駄に空いてるだろ」

 鬼花の言葉に梓は思わず固まってしまった。梓は初めから鬼花に適当な宿泊施設の一室を抑えさせて、そこに彼女らを寝泊まりさせるつもりだっが、鬼花からその案は速攻で却下されてしまった。

「・・・四季ちゃん、私の家どうなってるか知ってるよね?」

「折角だ、怪我人が行っても大丈夫なくらいにはしろ」

「こうなったら私が」

「お前と私、その事に関しての発言権はどっちが強いと思う」

「四季ちゃんですはいごめんなさい」

 どうにか自分の家にこさせないように策を練ろうとする梓であったが、それが無駄であると鬼花から突きつけられて諦めて、吸っていた煙管から灰を落としてトボトボと自宅へと帰っていった。

「さて、私も顔を出すとしますか」

 鬼花は障子を開け中に入った。

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