二十二話
短距離魔法でハカネ達がこの場を離脱したことを確認し、袖の中から使い慣れた小道具の針を取り出す。
「悪魔憑きが一体どこに行ったのか吐いてもらいましょうか」
「ガキンチョ程度が俺を倒せるとは思えねぇけどな」
アクアが投げた四本の針。その針全てに毒が塗られており、掠った程度でも傷口から毒が回り始める代物である。しかし、彼女は障壁を生成し投げられた針を弾く。
「なるほどねぇ」
次にアクアが取り出したのは八本の投げナイフであり、両手の指と指の間に握っている。それを素早く彼女が生成した障壁目掛けて投げつける。彼女はそのまま攻撃を受け止めようとするが、投げナイフは障壁へと突き刺さり円を作った。
「これはどうする?」
アクアの足元にも八本の投げナイフが突き刺さっており、錬成陣が広がっている。
「道はできた。砕けろ」
彼女の障壁に投げナイフを媒介として錬成陣が生成される。そして、次の瞬間、アクアの足元の土が耕されたかのように柔らかくなり、障壁が砕け散り突き刺さっていた投げナイフは重力に従って地面に落ちた。
「な!!」
障壁を砕かれることが予想外だったのか、彼女の体が明らかに強張った。当然アクアはその瞬間を逃すことなく新たな投げナイフを顔面めがけて投げる。少し遅れながらも、彼女は投げナイフを避けようとする、しかしそのナイフには柄に糸が結び付けられている。アクアがその糸を引いた瞬間、彼女の頬を切りつけながらアクアの元へと戻っていった。
「ッ!!」
「塗ってる毒はただの麻痺毒だ、死にはしねぇから安心しな」
毒によってはかすり傷を与えるだけでも十分な量の毒を与えることができる。すでに彼女の頬は感覚が鈍くなり始めているようで、頬を触って感覚を確かめているようだ。
「この!!」
彼女は先程の障壁よりも厚く大きな障壁を作り出す。しかし、この短時間でアクアはおおよそ彼女が扱う魔法に検討をつけていた。そのため、ゆっくりと近づきその障壁に直接触れる。
「先程は破壊されましたけど、今度はそう」
彼女が何かを言っているが、その言葉を最後まで聞かずにアクアは行動を起こし意図も容易く彼女が使っていた障壁を破壊した。
「嘘!?」
驚いている彼女の顔に躊躇なく回し蹴りを入れ、蹴り飛ばす。しかし、その感触に違和感を覚え、その理由にすぐに当たりをつける。
「ガードされたか」
「一体何を、私の守りで右に出るものはいないはずなのに」
よっぽど自分の守りに自信があったのか、あっさり破壊されたことに驚きが隠せていない。それでも、まだ戦う意志がなくなっていないようでデッキを取り出してこちらに向けてきた。
「なるほどね、魔法で勝てないならこっちでか」
アクアもデッキを取り出し構える。
「「フィールドセット、レリーズ!!」」
互いにカードの力を開放し、初期手札であるカードが五枚引く。
第一ターン
「先攻は私です。ドロー」
彼女はデッキからカードを引き、手札を確認するとまずカードを一枚切る。
「「救いを願う少女 ルイン」、私を召喚!!」
カードに描かれている姿は眼の前にいるルインよりも幼い姿だった、おそらく数年前の彼女であろう。
「更に、召喚コストとしてマナを一支払い、「守護の妖精」を召喚。更に配置コストでマナを二支払い、永続魔法「災い避けの魔法陣」を配置。このカードがフィールドにある限り、相手モンスターの攻撃力を1000下げる。カードを一枚伏せてターンエンド」
新たに現れた小さな妖精と周囲を囲い込むように現れる魔法陣。どれも攻撃的な雰囲気を感じさせず、むしろ守りの雰囲気を感じさせる。
第一ターン
ルイン 手札3枚 デッキ34枚 マナ2 フィールド「救いを願う少女ルイン」「守護の妖精」永続魔法「災い避けの魔法陣」伏せ一枚
「なるほどね、俺のターン」
第二ターン、アクアはカードを引き初期手札を確認してから動き方を考える。
「これは、前回とは違う戦い方になりそうだな」
軸となるカードはあまり変わらない。手札のカードを二枚を切りルインにも見えるようにした。
「永続魔法「対価不足」、それを二枚配置する」
アクアの宣言により、配置コストとしてアクアのデッキからカードが10枚トラッシュへと送られた。
「え?」
デッキはライフとはまた違った形である命のようなもの。それをたった二枚のカードのためだけにいきなり10枚もトラッシュへと送る行為にルインは困惑した。しかし、アクアのデッキを知っているものからすれば、既に顔に手を当てて天を仰ぎたい状態になってしまった。
「魔法「回生ドロー」発動条件は自分のトラッシュが十枚以上、自分のトラッシュにあるカードをすべてシャッフルしてデッキの下に置く、その後戻した枚数五枚につき一枚ドローする。よって二枚ドロー」
配置コストとしてトラッシュに送られたカードたちは、新たに使ったカードによりすべてデッキの下へと送られた。更にカードを二枚ドローしたことにより、失ったアドバンテージ以上のアドバンテージを獲得した。
「さて、バックから処理するか。マナを1支払い魔法「穿つ魔槍」、そのバックを破壊させてもらうか」
カードから一本のやりが出現し、アクアがそれを手に取ると伏せられているカードめがけて投擲した。
「ッツ!!モンスター破壊じゃないから、リバースできない」
伏せられたカードは、伏せられている間は裏向きの伏せられたカードとして扱うため、モンスターや魔法、戦略を対象とする効果は適応されない。一方魔法「穿つ魔槍」はフィールドのカードを対象とするため、伏せられていようがフィールドにあればどのカードでも一枚だけ破壊することができる。
割られたカードは魔法「神秘の暴風」、リサがやられたときのように、自分フィールドのモンスターの破壊をトリガーとし相手フィールドのカードをバウンスするカードである。しかし、それはアクアのデッキ相手では本来の力を十分に発揮させることはできない。
「それと、効果での破壊が成功したことにより、破壊されたプレイヤーはデッキからカードを二枚引く、さ、引きな」
「たった一枚の伏せのためだけに、私に二枚の手札を与えるなんてなんて愚かな」
「愚かかどうかはこれを見てからいいな、永続魔法「対価不足」以外の自分の効果で、相手のデッキが減ったことにより、その減った枚数分追加で破棄する。それが二枚、よって四枚破棄してもらう」
「え?」
二つの天秤によりルインのデッキが四枚破棄された。たったカード一枚とマナ1だけで、ルインのフィールドのカードを一枚とデッキを四枚を持っていった。更に二枚ドローさせたことにより、ルインのデッキは六枚減らされたことになる。
「っ!!「救いを願う少女 ルイン」の効果発揮、自分フィールドのカードが相手によって破壊されたことにより、デッキから「守護の誓い ルイン」を手札に加える」
ルインはただではやられない、後続を確保して次の盤面へと作るためのカードをデッキから引き寄せる。だが、それすらも刈り取られる。
「もらった!!相手の効果で相手の手札が増えたことにより、魔法「惑わしの花」その効果でドローステップ以外で手札に加えたカードの枚数分、手札/デッキを破棄してもらう」
「な!!」
増やしたカードはたった一枚である。しかし、デッキを破棄すれば更に二枚破棄しなくてはいけなくなる。かといって、手札のカードを破棄するべきかと考えなければいけない。
「ツ~!!デッキを破棄する!!」
「それじゃ、合計三枚破棄だ」
デッキよりも手札を優先し、デッキ破壊を受け入れた。
「いやぁ、いいねぇ。マナを2払い、魔法「無力の証」相手フィールドのモンスターを一体対象にし、そのモンスターの効果をこのターンの間無効にする。その後相手はデッキから二枚ドローする」
「な!?また」
「守護の妖精」の首に趣味の悪い首飾りがつけられた。それがつけられると同時に自由に飛び回っていた妖精は飛ぶ力を失い、そのまま重力に従って地面へと落っこちてしまった。しかし、ルインにとってそれ以上に驚かされたのは残された自分のデッキだ。今は後攻一ターン目であるにも関わらず、自分のデッキは十八枚、最初のデッキから半分の枚数になってしまっているのだ。
「さらにもう一枚、魔法「フェアトレード」、俺はデッキから一枚ドローし、ガキンチョは二枚ドローする。そして四枚破棄だ」
新たに引いたカードを見て零は顎に手を当て、少し考える。そして、今引いたカードを伏せた。
「カードを一枚伏せてターンエンド。さぁ、どうする?」
「まだ、負けません!!」
第二ターン
ルイン 手札9枚 デッキ12枚 トラッシュ14枚 マナ2 救いを願う少女ルイン 守護の妖精 災いよけの魔法陣
アクア 手札2枚 デッキ31枚 トラッシュ4枚 マナ3 永続魔法「対価不足」「対価不足」 伏せ1
第三ターン、ルインはデッキからカードを引くが、デッキはすでにかなり薄くなっている。あまり悠長な戦い方はしていられないのは明白であるが、幸い手札だけならある。これならどうにかなるかもしれない。
「召喚コストで、フィールドの救いを願う少女ルインと守護の妖精をトラッシュに送り、召喚。主をその身で守り、決して倒れぬ騎士よ、今渡しの前に現われろ。守護の精霊騎士を前衛に召喚!!」
上空から一本の両手剣が飛来し、地面に突き刺さる。それにより巻き起こった土煙で少しの間視界不良へとなるが、それもすぐに晴れて大きな鎧を纏った騎士が出現する。その騎士は垂直に刺さっている両手剣の柄を握り堂々とした姿勢で仁王立ちをする。
「・・・なにもないぞ」
アクアからの誘発はない、それによりルインは次のカードを切る。
「続けて、「守護の誓い ルイン」を召喚。召喚時効果でデッキから「守護」を含むカードを手札に加える。この効果で永続魔法「守護の結界」を手札に加えてそのまま配置」
新たに周囲に広がる魔法陣、それに一瞬アクアは身構えるが、名称からこれも守りの種類であると予想できた。
「このカードがフィールドに有る間、ターンに一回、自分フィールドのカードが破壊されない。続けて永続魔法「白金の城塞」を配置。相手のバトルステップ終了時、私のライフが減らされていなければ、相手のライフを1減らす」
普通に戦えば厄介なデッキであろう。盤面を処理しようにも何枚ものカードたちが破壊を守り、その効果が何度も続いていく。そのため、相手の盤面が完成し切る前に倒しきるのが無難解と言える相手だが、アクアのデッキはその守りを抜けるデッキ破壊だった。
「続けて「守護の近衛兵」を二体召喚、「守護の精霊」を召喚、発動コストでマナを1支払い魔法「救済の天命」手札から「守護」を含むモンスターを一体、召喚条件とコストを無視して召喚する。ただし、この効果で召喚されたモンスターはターン終了時にデッキの下に送る。そして、戦略「守護の攻戦」このターンの間、後衛モンスターも攻撃を行える」
ルインのフィールドは全て埋められる。そして、アタッカーが六体なうえ、破壊耐性を持っている。それに対してアクアのフィールド、表側であるカードは永続魔法「対価不足」の二枚だけであり、あとは一枚の伏せである。
「・・・」
しかし、アクアの表情は一切崩れない。たった二枚の手札、その二枚はサーチ効果で手札に加えたものではないため、ルインにはなんのカードだかわからない。そのカードのどちらかが防御札の可能性も捨てきれない、それでもルインはここで詰める選択をした。
「全軍総攻撃!!」
ルインの掛け声により、ルインのモンスターたちが一斉に駆け出しアクアへと攻撃を仕掛けてくる。精霊騎士の二点、近衛兵二体で二点、ルインと精霊で二点与えた。
「残りライフ、4!!」
残された精霊騎士での攻撃を含めてもアクアのライフは2残る。これでは倒しきれない、それがわかっていたからアクアの余裕な表情は崩れなかったのだろう。それでも、ルインは構わず最後の精霊騎士を突撃させた。
「魔法「バトルリカバー」、ターンに1枚しか使用できないですが、このターン精霊騎士をもう一度攻撃可能にします!!」
「ライフだ」
精霊騎士の攻撃がアクアを襲うが、それはアクアの錬成陣に受け止められる。そして、アクアの残りライフは2となり、リーサル圏内へと入った。
「これで、トドメです!!もう一度行ってください」
再び精霊騎士が剣を振り上げる、この攻撃がアクアへ通れば負けてしまう。それでも、アクアの表情は崩れない。
「魔法「氷姫可憐」、マナを3払い発動。このターン私のライフは1より少なくならない」
「ッ!!」
突然放たれた効果により、アクアのライフは1より少なくならなくなった。1より少なくならない、それは当然敗北条件であるライフが0にならないということであり、アクアのライフは1で止まる。
振り下ろされた剣を受け止めたのは大きな氷の結晶、それは砕けることなく剣を弾き返した。
「・・・ターン、エンドです」
「なら、相手ターン終了時にリバース発動「反逆の意思」、このターンの間に相手によって減らされたライフの数だけ、自分のマナを増やし、その数までデッキからドローできる。よって、9マナ追加しデッキから9枚ドローする」
「!?」
普通ならばありえないと言いたくなるアドバンテージの稼ぎ方。しかし、自分を不利な状況下に追い込んでからこそ初めて効果を発揮するカードたちである。それ故に強力なカードたちであり、それを最大限に活かせる立ち回りをしただけである。
「ッチ、いま来てもこいつは不要だよ」
第四ターン、アクアはデッキからカードを一枚引き迷わず手札の一枚を切る。
「デッキを五枚破棄して最後の一枚永続魔法「対価不足」を配置。そして、マナを3支払い戦略「デッキブレイク」、手札を好きなだけ破棄し、破棄したカード二枚につき相手のデッキを一枚破棄する。俺は手札を六枚破棄し、デッキを三枚破棄だ。そして、九枚破棄だ」
ルインのデッキが次々と破壊されていき、最後の一枚も天秤へと持っていかれる。しかし、最後の一枚でも天秤の釣り合いは取ることができず、効果が終了した。
「最後に、魔法「虚無」を発動しこのターンの間表側のカードの効果を無効にする。これでデッキアウト、ガキンチョの負けだ」
「そん、な」
永続魔法「白銀の城」の効果でも、アクアの残されたライフを奪うことが叶わなくなり、ルインのデッキアウトが確定してしまった。それにより、お互いのフィールドに出現していたカードと永続魔法の物達が消滅していった。
「案外あっけねぇ勝負だ」
「ですが、まだ」
ルインは勝負に負けてもまだ戦おうとする。しかし、アクアはすでにめんどくさそうにしており、袖の中から小さな何かを取り出した。
「俺の跡を追われるのも面倒だ、だからこれやる」
「へ?えちょ」
突然投げられたものをとっさに手で受け止める。そして、アクアはサングラスを取り出し目にかける。
「閃光爆弾」
「え?」
次の瞬間、周囲は強烈な光りに包まれる。あまりにも強力な光により、二人は目を覆い隠す。そして、光が引き視界が回復した頃にはアクアの姿はなかった。そして、代わりにあったのは。
「ちょっと、これはなんですか!?」
ルインを逃さぬように囲い込む土製の檻がいつの間にか生成されており、隙間が空いていても体を通すことは決してできない隙間であった。すぐにメイスで檻を破壊しようと試みようとするも、殴った衝撃でルインの手の方が先にやられる始末だった。
「次に会ったら絶対粛清してやりますからね~!!」
誰にも聞こえないルインの大声が虚しく周囲に響き渡った。




