二十一話
日も変わり朝食をすぐに済ませると、そそくさと野営道具をしまい出発した。昨日寄り道してしまった分、少し歩くペースを上げて目的地へと向かって進んでいく。
「・・・何故だろう、物凄く嫌な予感がする」
突然ハカネがそんなことを言い出した。どうして、そんなことを言い出したのかと思いつつも、アクアの表情がみるみる歪み始めた。
「最悪だ、こいつのこういう感は当たるんだよ」
どうやら厄介事に巻き込まれることがほぼ確実になってしまった。なにより、アクアがこんな反応をしてしまうということは、よっぽど面倒な事になると予想できてしまった。
「うん、急いでこの場所から逃げよう」
ハカネがこちらのことを無視して速攻でこの場所から逃げようとした瞬間、ハカネの前に見覚えのある斧が落ちてきた。
「最悪よ」
ハカネの瞳から光が消えつつも、落ちてきた斧に見覚えがありすぐにそれが誰の斧なのか思い出した。
「これって、リサさんのじゃ」
そう零が言った瞬間、落ちてきた斧を掻っ攫うかのように横から取っていくリサの姿があった。
「リサさん!?」
「え!?なんでここに」
突然の出現に驚いているが、リサはこちらに構わず駆け出していった。
「!!あいつ、誰かと戦っている」
アクアはリサの周囲にカードが出現しているのを見逃さず、リサが向かっていった先を確認する。その先には、アクアもあまり見たくない見慣れた格好をしている人の姿が見えてしまった。
「ゲェェ!!」
「あ~、はぐれてたって言ってたもんね。近くにいるって思っとけばよかったよね」
二人の嫌な感情を一切隠さない言葉をあらわにしている間にも、リサと彼女は戦っていた。
リサのフィールドにはモンスターは一体もいないうえ背後にはなにもない、けれどその手には禍々しい斧があり、最低限の展開はしている状態だろう。それに対して、相手している彼女はフィールドに三体のモンスターが居り、背後にも何かがある。
「・・・!!」
リサが走り出し、それに答えるように彼女のモンスターの一体が動き出す。そして、一万もある魔人の斧であれば大半のモンスターが破壊でき、彼女のモンスターもあっさり一刀両断される。そして、相手のトラッシュにモンスターカードが増えたことにより、魔人の斧の効果により追加攻撃が行えるようになった。これにより、他のモンスターへと走ろうとしたが、それに待ったをかけるように彼女が伏せていたカードがオープンされた。
「リバース条件は相手によって自分のモンスターが破壊されたとき 魔法「神秘の暴風」ありバース効果で相手フィールドのカードを一枚手札に戻す」
「!!」
魔人の斧はバウンスに対しては耐性がない。破壊や除外であれば、地震の効果で再召喚を行いフィールドに残り続ける。しかし、この効果はバウンスされた際には発動さずフィールドに残せない。
「・・・」(ギリ
攻撃できるカードがなくなり、リサは事実上ターンエンドとなててしまった。これにより手番が彼女へと移る。
「所詮、悪魔と契約している者の力なんてこんなものですよ」
デッキからカードを引くが、彼女はそのままバトルフェイズへと移行した。
「「守護の精霊騎士」行きなさい!!」
彼女よりも巨体で鎧を纏っている騎士がどかどかと大きな音を立てながらリサへと向かって走り出した。そして、握られた大きな剣を振り上げて攻撃をしようとする。しかし、それに割り込むように伏せられたカードが開かれて真っ黒な闇が攻撃を受け止める。
「あ、魔法「暗黒再来」相手の攻撃時リバースで発動すればトラッシュ/除外にある暗黒契約を含むカードを召喚できる。ついでにトラッシュのカードを一枚手札に加えられるが、あの効果の狙いは」
闇は一本の斧へと形が変わり、リサの愛用武器「魔人の斧」が再び握られた。
リサは握り直した斧をそのまま目の前に迫ってきた「守護の精霊騎士」の攻撃を受け止め、そのまま弾き飛ばしてから、反撃の一撃を叩き込んだ。「魔人の斧」の攻撃力は10,000であり、大半のカードよりも攻撃力が高い、そしてこのターンの間に相手のトラッシュに送られたモンスターカードの枚数分追加防御を行える。よって、この防御で後続の攻撃も防ぎきれるはずだった。
「!?」
リサの反撃の一撃は確かに直撃していた、しかしリサの眼の前にいる「守護の精霊騎士」は破壊されることなくその場に立っていた。
「「守護の精霊騎士」のバトルフェイズ時効果、このモンスターよりも攻撃力が3000以上高いカードの効果/戦闘では破壊されない」
「守護の精霊騎士」の現在の攻撃力は5,500であり、「魔人の斧」の攻撃力は10,000。その差は4,500、戦闘破壊耐性の効果が有効だった。
「まずいぞ」
「守護の精霊騎士」は戦闘破壊されなかったものの、アクアの防御は成立してしまった。これにより、新たに彼女のトラッシュにモンスターカードを送ることができず、「魔人の斧」はこのターンもう防御を行うことができない。そして、リサのフィールドにはもう伏せられたカードとブロッカーは一枚も残されていない。
「もう一体の「守護の精霊騎士」アタックよ」
もう一体の騎士が走り出し、リサの眼の前へと迫ると持っていた両手剣を振り上げる。すぐにリサは斧で防御の姿勢を取るが、その上から騎士の剣が振り下ろされた。
カンと周囲に鳴り響く金属音、リサが握っていた斧は柄の部分から叩き切られてしまい受け止めきれなかった攻撃がリサへと届いてしまった。
「リサさん!!」
リサはふらっと体をふらつかせながら一歩後ろに下がる、その体には肩から脇腹へと大きな切り傷ができており、そこから大量の血が溢れ出している。いくら魔人と言えど、これだけの怪我を一度に負ってしまっては体が動かなくなってしまう。出血が多すぎるせいで、リサはその場で力なく倒れてしまった。
「そんな、リサさん!!」
零が倒れたリサの元へと近づこうとするが、すぐにテスタロッサに腕を掴まれてしまい近づくことができない。
「な、どうして止めるんですか」
「落ち着きなさい、私達はリサに負けたのに彼女はリサに勝ったのよ。私達が勝てるわけがないでしょ」
テスタロッサが言うことも一理ある。彼女の強さが一切わからない以上、こちらも慎重に動かなければいけない。そんな二人に対して面倒くさそうにしていたルインは忍び足で一人だけこの場所からはなれようと移動していた。
「ハァ、ハァ」
魔人の治癒能力で出血自体はすでに止まっており、傷口は塞がっている。しかし、大量の血が一度に抜けてしまっているため、暫くの間はまともに動くことができない。それでも、冷たくなった体を動かし、斧を握る手に力を入れようとする。
「しぶといですね。ですが、これで終わりです。悪魔に魂を売った人間に救済なんてないでしょうが」
彼女は倒れているリサも真横に立ち、持っていたメイスを振り上げてリサの脳天を叩き割ろうとする。しかし、メイスを振り上げ、振り下ろそうとした瞬間、金属同士のぶつかり合う音が響き渡った。そして、振り下ろされたメイスはリサの真横へと叩きつけられた。
彼女の足元には数本の針が落ちている、この場で針を飛び道具として使う者は一人しかない。すぐに皆はアクアへと視線向けた。
「ったく、これだから宗教家は面倒だ」
頭を掻きながら一歩前に出てアクアは言う。
「おいガキンチョ、ガキが見てんだ。殺しを厭わねぇオメェ等と違うただの一般人だ、そんなガキの前で殺しなんざみせんじゃねぇ。あ?おめぇらの組織は殺しが正義なのか?神聖なもんなのか?あ?もしそうなら、とんだイカれた集団だな、一体その娘がオメェ等に何やったんだ?あ?言ってみろよ」
「悪」
「悪魔だからなんて理由にはなんねぇよ、てめぇら宗教家はそれしか言えないのか?お前らは学習を止めた馬鹿なのか、言ってみろよ。一体悪魔の何が駄目なのかを言ってみろ」
彼女が何かを言おうとするも、それを遮るようにアクアは言う。
「いいか、俺は錬金術師だ。倫理だとかモラルだとか知ったことじゃねぇ、俺が求めるものは理屈だ。世界の謎を解き明かし、この世界を構築している心理へと近づく。そんな中でお前らが作った偶像にすがる感情なんて糞みたいなもんだ、おまけに自分たちに取って都合の悪い存在を排除しようとする奴らなんてな。むしろ、存在が確かで必要な対価さえ払えば何でもしてくれる悪魔のほうがよっぽど理にかなってる。その娘だって必要な対価を払ってその悪魔の力を得てるんだ、少なくとも他の人間の生命なんて奪っちゃいねぇ。それなのに、その娘を殺すのか?」
明らかに普段との喋り方が違う。その代わり用に思わず零とテスタロッサは目を丸くして驚く。
「異教徒に何を言ってもわかりませんよ」
「ガキンチョ、馬鹿か?宗教家はバカしかいないのか?結局宗教以外何も言わねぇじゃねぇか、俺が聞いてるのは筋の通った相手の生命を奪う理由だよ」
「そうですか、あなたもそっち側の人間ですか。だったら粛清してあげますよ」
「は!!それがガキンチョの本性ってか?結局お前らが言う宗教なんてその程度なんだよ!!」
アクアは思いっきり笑い倒す。その様子に彼女は怒り心頭であり、アクアの方へと視線を向けてしまった。その瞬間を逃すまいと、倒れていたリサは彼女の足に攻撃を入れてから零たちの方へと跳んでいった。
「リサさん」
「大丈夫ですか!!」
零達の前に着地すると同時に全身から力が抜けて倒れ込んでしまった。すぐに零はリサの持っていた道具を持ち、テスタロッサが軽々とリサを肩で背負いあげると、一人それなりの距離が離れているハカネの方へと向かって走った。
「あなた達を置いて逃げた悪魔憑きも粛清しなければいけませんね」
「バレてら~」
リサが彼女に襲われている理由は、悪魔と関わりを持っていることだと気づいていたため、彼女に自分が悪魔と関わりを持っていると気づかれないように逃げていたのだが、すでに彼女には自分が悪魔と関わりを持っているどころか、悪魔憑きであることもバレているようだった。
「アクアごめん!!こっちはどうにかするから、あとお願い!!」
「だろうな!!ガキンチョ!!てめぇの相手は俺だ、ちぃとはない頭を冷やして確りと考えるんだな」
ハカネは自分の方へと走ってきたゼロとテスタロッサの手を掴み、大きな魔法陣を広げると一瞬にして姿を消した。




