一話
「はぁ、はぁ」
息を荒らげながら、一人の女性が深い森の中を走り抜ける。その手には少し近未来とも言える一振りのサーベル状の剣と、白銀の彫刻が施され見るものの目を奪いそうな可憐なリボルバーを一丁握っている。
「はぁ、はぁ、どうして私がこんな目に合わなくちゃいけないのかな。いや、理由ははっきりとしているけど」
握っているリボルバーの撃鉄を下ろし、女性の後を追いかけ、木々を避けながら確実に、着実に距離を詰めてきているそれめがけて銃口を向けて引き金を引いた。直後、鳴り響く銃声、それに続くように鳥達が一斉に飛び立ち、けたたましくなり始める。
「浅い、か」
撃ち出された弾丸は、確かに女性の狙い通りの場所を撃ち抜いた。しかし、その程度では女性を追いかけているものの足を止めることはできない。むしろ、攻撃されたことを受けて、動きを変えてきてしまい、動きを予測するのが困難になってしまった。
(一発で仕留められないじゃ、弾の無駄ね)
撃鉄を下ろそうとしていた指を止め、器用にくるりと銃を回しながら腰から提げていたホルスターに仕舞い、残されたもう1つの武器であるサーベルを勢いよく横に素振りをし、手の感触、腕の感覚を再確認し近づいてきたそれを叩き切った。
「これなら、頭数は減らせる」
女性が戦っている頃、日本のある街に在るカードショップでショップバトルが行われていた。ビルの一角であるとはいえ、この辺りでは一番大きなお店であり、広い対戦スペースを持っているため、多くの人が入ってきていた。そんな中、1つの席が注目を集めていた。
「約束の魔女エルナでラストアタック!」
少年は自分のフィールドに在る唯一縦の状態であったモンスターカードを横の状態に変え、ラストアタックを宣言した。
「フィールドの翡翠の魔女リリルの効果により、私の“魔女”を含むモンスターがアタックしている間、相手は本来のコストを支払わらなければ手札の効果を使えず、モンスターの効果を発揮できません。そして攻撃時能力発動、相手のパワー1万以下のモンスターを二体破壊します。これで、これとこのカードを破壊します。対抗は?」
「対抗は、ないです」
互いに対抗が無いことを確認し合うと、効果の処理を行った。約束の魔女によって破壊されたモンスター二体は墓地に送られた。そして、この効果によって相手のフィールドのモンスターは居なくなり、盤面は空になってしまった。また、相手のカードの使用を制限している状況では成す術はない。
「通ります」
「ありがとうございました」
最後の攻撃が通り、決着がついた。それが、周囲にも伝わっていき、歓声が上がり始めた。
「決着!ショップバトル勝者は、えっと、零さんです!」
進行役の人がマイクを使って宣言し、少年は場に伏せていたカードがルールに沿って適切なカードが伏せられていたのかの確認を行い、決して覆らない勝利を掴み取った。
トレーディングカードゲーム、通称TCG。各プレイヤーが集めたカードの中から、ルールに則り組み合わせたデッキを持ち寄り、二人以上のプレイヤーで対戦するカードゲーム。様々なタイトルが展開されている。ゲーム性は違っていても、勝利を掴み取るために壁とやっていろと呼ばれるソリティアを、再現性の低いロマンを、プレイヤーの特色が顕著に出るゲーム。
少年もまた、そんなカードゲーマーの一人だった。
ショップバトルは、店ごとによって相手のレベルは大きく変わってしまうが、それでも環境デッキと環境デッキに対してのメタデッキが主力となって戦うことになる。そんなバトルで、少年は通称ネタデッキと呼ばれる、環境とは程遠くとも、一芸に長けているデッキで勝利してみせた。
少年の名は零、どこにでもいる普通の小学六先生で十二歳。趣味はハマっているカードゲームで環境デッキに対して凶悪なメタカードを採用したネタデッキを使い、一方的に倒すことである。
「う~ん……ああするべきだったかな」
今日のプレイの自己反省をしながら帰路につく零。自分がやりたい戦い方をするためにも、デッキを構築する時点でその戦い方が偶然に頼るものではなく、必然の形としてできるように構築する。それがカードゲーマーとして、デッキを構築する上でも最低限抑えていなければいけない点である。それは、たとえ今回勝つことができていても、次の戦いでは勝てないかもしれない、故に常にデッキの調整を欠かさない。
「ん?」
ふと、後ろから気配を感じた。街なかを歩いていれば周囲に人が誰かしらは居るため、人の気配を感じること自体におかしいことではない、しかし、同じ気配がずっと後ろにつけ続けていることには違和感を覚えてしまん。そして、なんとなくではあるが、その気配に対して予想がついてしまう。
「……逃げよう」
聞こえないように小さな声で呟くと、零は全速力で走り出した。誘拐犯やら、何かしらの犯罪者相手ならば、少しでも人目に付く場所、近くにコンビニエンストアがあることは覚えている。そこに向かって全速力へと走っているが、後ろからつけてくる気配もまたあとをつけてきている。そして、コンビニが間近になったとき、腕を掴まれてしまった。
「あ!」
零は掴まれてしまったと気がつくと、声をあげようとした。しかし、口に何かを詰め込まれ、声を上げることはできなかった。
「ん、ん~~」
声が出せなければ振り払おうと腕に力を入れようとするが、腕は全く動かすことができない。それどころか、顔を胸部に押さえつけられてしまい視界も奪われてしまった。
「やっと、見つけた。あとはあの時の私に」
聞こえてきたのは女性の声。何やら悲痛さを感じる涙ぐんだ声だった、零に取ってはそれどころではなく、唯一動かすことができる足を動かし振り払おうとしたのだが、全く振り払えず軽々と持ち上げられてしまい何処かへと連れ去られた。
バキィと音を立てながら自身の邪魔をするそれを破壊する女性。手に握られていた杖を勢いよく振り上げると、地面から岩が鋭利な形をして突き出し、目の前にいたそれを貫いた。
「ねぇ、アクア。これどんだけいるのぉ?」
「知るか!ハカネは黙って処理しろ!」
「はいは~い」
アクアと呼ばれた子は袖の中から焙烙玉を取り出し、そいつら目掛けて放り投げた。直後、中の火薬に火が付き、周囲に鉛玉を巻き散らかせていき、そいつらにダメージを与えていった。
「ったく、コイツラは一体何なんだ?」
「なんなんだろうねぇ、ロボットってやつなんだろうけど、数が多いね」
森の中にいる二人、互いに陣を生成してそこから様々な物を生み出しては、自分たちに近づいてくる戦闘機を次々と破壊していく。
「錬金術どれくらい持ちそう?」
「愚問、この程度ならまだ持つぞ、そっちは?」
「全然大丈夫だよ~」
戦闘をしているにも関わらず、余裕な表情を崩さずに話を続ける。二人の周囲には次々と戦闘機は山積みとなっていく。二人は、別に戦うこと事態は気にしておらず、そのまま戦闘を続けていこうとした。しかし、袖に腕を突っ込んだままアクアの動きが止まった。
「……ハカネ、爆弾が切れた」
「ええ?」
錬金術だけでなく、爆弾など小道具も使って戦うアクアにとって小道具の1つが切れたのは痛手だった。
「こいつら、地味に硬いからねぇ。他に使えそうな道具ないの?」
「コスパが合わない」
「あ、ハイ。じゃあ、これ以上戦っているのも無駄かなぁ」
つまらなさそうな表情をし、まだ戦いたりなさそうな雰囲気を出すハカネであるが、一息入れてから持っていた杖を力強く地面に突きつける、それと同時にハカネを中心として広がる大きな魔法陣。
「フィナーレにしましょうか」
「……あ!?おま」
咄嗟に錬成陣を生成し、アクアはハカネがこれからやろうとしている魔法を防ぐ姿勢に入った。そして、ハカネはアクアが防御の姿勢に入ったことを横目で確認すると、魔法陣に魔力を流し込むと、周囲に大きな火柱が上がった。数秒ほど周囲が炎の海へとなり、周囲の木々も焼き払ってしまっていた。
「……ハカネェ?」
「どうしたの?」
魔法も切れ、火柱がなくなった頃には周囲の戦闘機たちは溶け落ち壊れていた。そして、残されたのにはやや不満そうな表情をしているハカネと、眉を釣り上げているアクアが残されていた。
「もう少し周囲の安全を考えろや!」
アクアの袖から投げられた長めの針、ハカネはそれに反応して杖を振り上げて針を真上に弾き返す。
「ちょっと、危ないでしょ、おまけにこれ崩壊錬成仕込んでるじゃん」
「お前が言うか」
落ちてきた針を器用に掴み、アクアに投げ返す。当たり前のように交わされる二人の攻防、それは掠りでもすれば致命傷になるのは確実であるものだが、そんなものを使われても互いに多少大きな声を上げて、相手が確実に防ぐ事ができる攻撃だけで済ませる。そんな二人にとってはいつものやり取りを済ませると、出していた小道具を仕舞い、戦闘態勢を解除した。
「全く、お前は相変わらず周囲のことを考えないな」
「いいじゃん、アクアは丈夫なんだし」
「そういう信頼はいらないのだが」
ハカネの答えにアクアはため息を漏らす。しかし、すぐに互いにくすっと笑いあい、戦利品でも確認しようと、破壊した戦闘機の様子を確認しようとしたときだった。二人の耳に何かが爆発した音が聞こえてきた。
「?アクア、爆弾って投げた?」
「いや、その様子じゃお前の仕業でもないな」
今の音が互いの行動ではないとわかり、このあとお互いが考えていることを察しあい、ハカネは嬉々とした表情へとなり、アクアはとてつもなく面倒くさそうな顔へ変わった。
「よし!アクア行くわよぉ!」
「でしょうな!」
断固拒否をしようとするアクアを身体強化で軽々と持ち上げ、爆発音らしき音が聞こえてきた方へとハカネは走り出した。
カード紹介及び作者たちの一言
「魔導書の索引」
魔法カード
発動条件・発動コスト なし
メインステップ時 手札の魔法カードを二枚破棄し、三枚ドローする。
藤野「手札交換とはいえ、結構使い勝手悪くしたから壊れじゃないよね?」
鬼咲「某ゲームの禁止カードに似ているのですが、あの」
藤野「あっちは三ドロ、二捨てだから、うん」