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十八話

 洞窟の内の空気はとても悪い。ろくに空気が循環せず、光も届かない硬い地面の上、植物がまともに育つわけが無いこの場所は人が立ち入るには最悪な環境だろう。オマケに足元には蝙蝠とゴブリンの糞尿ある為 、さっさとここから出たいのもある。服が汚れないように気遣いながら、これまでに身につけてきた知識と技術を使いながら洞窟の中を歩き始める。

「ったく。松明とかが使えれば楽なんだけど」

「仕方がないだろうが、この状況でむやみに火を使うわけではないんだから。誰かさんは前ガスが充満しているにも関わらず炎系の魔法を使ったんだし」

 火は周囲の酸素を使って燃え続けてしまう。ただでさ奥に進めば進むほど空気の流れが悪くなり、外の空気が入ってこない場所では酸素の濃度も極端に下がってしまう。そんな状態で火を使ってしまえば、私達が吸う酸素の分もあっという間になくなってしまう。また、以前ガスへの引火をやってしまった一件もある。しかしそれ以上に火をゴブリンに取られてしまっては色々と大変なことになってしまう。それらのことを加味し、いざとなれば武器になる松明は使わなかった。

「はぁ、これ本当はとっても高いんだけどなぁ」

 私が松明のかわりに取り出したのは、本来ならば中の油に火を灯すランタンと、無骨な小さな石だった。

「無駄に持っているくせによく言うぞ」

「採りに行くのクソめんどくさいからこれ」

 石に魔力を流し込むと、瞬く間に石は光を放ち始めた。流し込む魔力を調整し、自分たちの周囲を照らすことができるレベルの光にすると、その石をランタンの中へと入れて光源を確保した。

「もし使いたくないなら、お前の魔法どうにかしな」

「私が光系の魔法を使ったら周囲が真っ白になるよ」

 洞窟内では下手出力の大きい魔法を扱うことが出来ない。その上、使える魔法にも制約がかかっている。火の魔法を使えば酸素を減らしてしまい、窒息を引き起こしてしまう。土の魔法と威力の高い魔法は周囲の地形を変形させやすく、崩壊を引き起こしやすい。風魔法は地面の糞尿を巻き散らかすため使いたくは無い。そんな訳で私が使える魔法は極端に少なくなってしまう。

「とりあえず、新手だぞ」

 私達がこうしている間にも、奥の方に居たゴブリン達も異常に気が付き、武器を持った状態で出口へと走ってきていた。その姿を確認すると、私は魔法で水を生成し圧縮していく。アクアは投げナイフを指と指の間で挟み、素早く投げた。戦闘はほんの一瞬、投げられたナイフがゴブリン達の目玉、首と致命傷部位を的確に突き刺し、刃に塗られた毒がより確実に仕留める。私が生み出した水は刃となり、軌道上にあった物を全て斬り伏せて行った。途中攻撃されていることに気がついたゴブリン達も居たが、気がついた時にはもう遅い、抵抗虚しく一瞬にして刈り取られてしまった。

 戦いになれていれば、ゴブリン相手に油断しなければ負けることはまずない。ずかずかと奥へ奥へと進んでいくと、思わず鼻を摘んでしまい吐き気を催す嫌な臭いが漂ってきた。それに気がつくと、互いに顔を見合わせ合い、鼻と口を覆う布を確りとつけ直してから臭いの発生源である部屋へと入った。

「多分、ここね」

 部屋に入ると素早くランタンをかざし部屋全体を明るくする。すると見えてきたのは、何体かのゴブリンと肉の塊だった。ゴブリンたちは慣れた手つきで瞬殺し、残った肉の塊へと目をやる。

「ビンゴね」

 その肉の塊は、四肢を失った人であった。種として弱いゴブリンは1度捕らえた獲物に反抗されたり、逃げられたりしないようにするために、獲物の四肢を切り落とすことがある。これもその一例だろう。

「ん?」

 ふとあることに気がついた。これが身につけている衣装に酷く見覚えがあった、ゴブリンたちの行為によって酷くボロボロに汚れてしまっているが、見間違えるわけが無い。何かと私に突っかかってくる悪魔祓いの連中が着ている制服だ。

「うげぇ」

 こいつらと関わると本当にろくなことにならない。私が一体何をしたのかと言いたいレベルで、色んな事の責任を私に押し付け、その上粛清と行って攻撃してくるのだから。関わるだけ時間と労力の無駄である奴らだ。なぜそんな奴らの一人がこんな場所にいるのかという疑問を覚えるが、自分の事情は置いといて、他に手掛かりとなるものが無いかを探し始める。

「・・・おかしいわねこれ」

「何がだ?」

「四肢切断の傷口、綺麗すぎる」

「綺麗?これが?」

 アクアの言う通り、この傷口を綺麗だと言うには少し無理がある。しかし、私が考えている比較対象と比べれば、これは圧倒的に綺麗な方である。

「だって、腐ってないもの。これ火傷の痕よ」

「火傷・・・壊死してないってことか。まて、ゴブリンができるか?」

 焼灼止血、出血している傷口を焼くことで無理矢理止血を行う方法の一つである。適切に行えば安全に素早く止血を行うことができる方法であり、適切でなければ大火傷を負い、そこから本来の怪我とは違う形で悪化してしまう方法。ゴブリンたちが傷口を焼いて止血する方法を知っていることにも違和感を覚えるが、それ以上にここまで綺麗に四肢を切断したあとに、傷口を焼き固めることができるのだろうか。

「アクア、そっちの方を調べて」

「これは、調べないわけには行かないだろ」

 すぐに他の四肢を切られたものを確認していくが、どれも同じよう綺麗に四肢が切断されたあとに傷口を焼き固められていた。

「ハカネ、これは」

「ゴブリンだけじゃ無理、悪魔祓いのこいつらが奴隷商に手を出すとは思えないけど」

 何体かの体を確認するが、奴隷の証である焼印はあるものと無いものが混在しており、完全に奴隷商が関わっていると断言するのは難しい。それでも、ゴブリン以外の人為的何かが四肢を切り落とした人間をゴブリンたちの活動圏内に放置し、それをゴブリンたちが繁殖の苗床にした可能性は高かった。

「これ、人災ね」

「だな」

 無主地である以上、ここで何をやってもそれを咎めようとするものはいない。その為、好き勝手なことを始めるやつも存在する。

「ん?」

 私達が四肢の切断面を観察していると、それは僅かに動いていた。それに気が付き胸のほうを確認すると 、小さく肺が上下していた。

「呼吸は浅いが、一応生きているな」

 こんな状態とこんな場所でまだ生きている、その事実に驚かされる。

「・・・ったく、なんで私がこんなことをするのかしら」

 袖から水差しを取り出し、水筒の中身を注いでから彼女の口に水を差し込む。無理矢理水を飲ませたことでむせて咳をこむが、喉に潤いが戻った事により、はっきりとした声が聞こえるようになった。

「コロ・・・シテ」

 瞳に光が宿っていない。ゴブリン相手に何をされたのかは想像するに容易い。すでにこの人の心は折れている。仮に折れていなくても、四肢を失っている以上元の生活へと戻ることは無理だろう。

「ッチ」

 水差しをしまい、杖を彼女へ向ける。

「おい!?流石に殺しは」

「殺しはしない」

 攻撃をすると一瞬思ったアクアであるが、私が使った魔法はその逆、対象を無理矢理癒やす回復の魔法。流石に四肢欠損を治すことができるほど強力なものではない、可能な限り元の形へと戻し、傷口を塞ぐ程度。そんな魔法であるため、急速な回復と神経を無視して無理矢理戻るため激痛が走る。

「ガァ!!アア!!」

 ものの数秒、無理矢理回復をさせると、喉につまらせたものを吐き出させ、喋れる状態にした。

「どうして、私を生かしたの?」

 文句を言いたげな顔をしているが、私は杖で構わずその顔を殴った。

「私のことを殺そうとする集団を生かすつもりはない、ただ情報が欲しいから回復させただけ」

 杖底を額に押し付け、足で腹を踏む。まるで虫けらを見る目でただ言葉を繋げた。

「あんた以外の連れは?何が目的でこの場所に?ここのゴブリンは何体いる?」

 一つ聞くごとに力強く腹を踏む、ただでさえ弱っている体にこれでもかと入れられる追い打ちに少女はすぐに折れてしまった。

「一人、ルインと一緒に斧を持ってる悪魔を追いかけてたけど、途中ではぐれた!!私は寝ている間に何者かに襲われて、四肢を奪われてゴブリンのところに捨てられた!!ゴブリンはメイジとキングがいる!!」

 無理矢理力一杯息を出して答えた。その情報が真か嘘かはわからない、しかし、これ以上追求するのは時間の無駄。力一杯足に力を入れて腹を蹴り、蹴り飛ばす。

「あなた相手にはなんの恨みもないけれど、おたくの組織には恨みがあるから。優しい私は回復魔法のおまけで三日位は死なないようにしておいてあげたから、誰も助けに来ないこの場所で死ぬその時を待ってなさい」

 相変わらずあの組織には嫌な思いしかされてこなかった。自分でも性格が終わっている自覚はあるものの、こんな性格になった原因の何割かはその組織が原因なので、そこに属する奴等へ鬱憤をぶつけてもいいだろう。

「さて、やっぱりあの子も悪魔祓いに追われてたのね」

「そうだな。まぁ、あの身体能力だ心配はいらないだろう」

 リサの実力は多くを見てなくとも、それを伝えるための戦いは十分にしている。同じ狙われる同士、少しばかり同情はするが彼女はどちらかというとめんどくさそうな感じがしていたので、あいつらに対しての考え方は違うのだろう。

「で、どうもメイジとキングがいるっぽいがどうする?」

「大魔法ブ「却下」ですよねぇ」

 狭い空間で大魔法なんてものを使えばどうなるのかは目に見える。とりあえず、奥へと進みながら、戦い方は考えることにした。

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