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十七話

 再びリサと分かれて歩いていた。ハカネ曰く、すでに国境を超えて無主地に入っているようで、テスタロッサの目的の一つである国外逃亡はひとまず達成された形になる。しかし、無主地であることも告げられて、面倒なことへなる前に横断して目的の国へ向かうことになった。

「ところで、どうして横断することにしたんですか?」

「まぁ、迂回する場合寄らないと行けない国の一つで昔やらかしたってのがある」

「「ええ?」」

 相変わらずこの二人は自分たちが会う前に一体何をやっていたのかと思える。

「それに、何度も国境を超えると手続きに入国税とか二人の身分とか色々面倒くさいでしょ?」

「確かに」

 身元不明と脱走兵の入国手続は面倒くさいの一言に尽きる。ましてや隣国だと受け入れをしてくれる可能性も低い。それならば、少しでも離れた国のほうが受け入れてくれる可能性は高い。そのためにも少し離れた場所で入国を済ませて身分を偽装できるあれこれをすればいい。

「あれ?」

 しばらく歩みを進めていると、先導をしていたハカネの足は止まり、後ろに居る皆の動きを止めさせた。

「ゴブリンね」

 小柄であまり強いとは言い難い種族であるものの、その繁殖力と数に物を言わせた戦い方をするため、相手するのは面倒な種族である。格段に強い相手ではないため、ハカネとアクアに取って取るに足らない存在ではあるものの、真面目に相手していた日が暮れてしまう。

「こういうときは見つからないに限る、ほらみんな手を繋いで」

 ハカネに言われるがまま手を繋いでいくと、ハカネは指を鳴らす。すると互いの姿が見えなくなり、手を繋いでいなければそこにいるのかわからなくなってしまうほどの透明であった。

「音までは消せてないから、そこだけは気をつけてね」

「視認されなければ、よっぽどのことがなければ攻撃はされないけどな」

 ゴブリンの知能はお世辞にも高くはない。なので、見えていなければ早々攻撃されることはない。誰も見えない状態でハカネが手を繋いだ状態で先導した。ハカネとアクアは慣れているせいなのか、何とも思わずに歩いていく。テスタロッサはゴブリン程度ならばやられることはないと思っているため、互いに姿が見えないこと以外は気にせず歩く。しかし、一人だけ、零は震えながら歩いているせいで、一番歩くのが遅い。その為、皆が歩くペースを零に合わせられてしまった。

 二十分程度だろうか、しばらく透明な状態で何十体ものゴブリンたち側を歩み進んでいくが、周囲にゴブリンがいないことを確認した上で、ハカネは透明化を解除した。

「どうした?」

「いや、確認したいことがあってね。ゴブリン多くない?」

「多いんですか?」

 零に取ってはゴブリンの平均的な数はわからない。一方この世界のことを知っている方々に取っては異常性を感じた。

「え?そうなんですか?」

 少し世間に疎いテスタロッサからの共感は得られなかった。

「確かに多いな、ゴブリンは他種族と比較しても繁殖力はかなり高い方であるにしても、これは多すぎだな」

「多すぎるとなにか問題があるんですか?」

「特定の種族が極端に増えすぎると生態系に影響を与える。それにこいつらは人間以上に雑食だ、口に入る動植物なら何でも食う。そんな奴らの腹を満たそうと思えばこの辺りの食い物が一気に減るな」

 少し離れた方では広範囲で不作が起きているのに、こっちではゴブリンの大量発生。なんの因果関係があるのかは不明であるが、このあたりでもなにか良くないことができているのかもしれない。そんな考えが皆によぎる。

「とりあえず、ゴブリン単独でこれだけの数を増やせるとは考えにくい。となれば」

「あれしかないな」

 ハカネとアクアは互いに顔を見合わせて頷きあう。

「内容次第では割と急ぎの案件ね」

 何かを確認するためにハカネとアクアは少しめんどくさそうな表情をしつつも、それを確認するためにゴブリンたちの巣穴を目指して進んでいった。

 ゴブリン達が住処にしていたのは少し小高い丘の横穴、なにやら趣味の悪い彫刻を施されたトーテムが置かれている。

「うわぁ」

 そこには大量のゴブリンたちが居た。とても見回りの為だけにこの数が置かれているとは思えない程の数が居た。

「これは、奥の方に入りきれなかった分か」

 横穴がどの程度の長さがあるのかわからない。それでも、表に溢れる位の数がこの場所にいることは確実で、同時に今回の一件が急ぎの一件へと変わった。

「さぁって、どうやって仕留めよう」

 ゴブリンたちの住処から少し離れた場所で作戦会議を始めた。てっきり、ハカネとアクアの二人ならば特に何も考えずに突っ込んでいくと思っていたため、確りと作戦を考えた上で動こうとしていることに零とテスタロッサは思わず驚いてしまった。

「数はまぁ、適当に五千くらい?」

「規模を考えればロードかキングも居るだろう」

「結構大きいか」

 いくら強くてもこれだけの数となれば長期戦は避けられない。そして、規模から上異種が存在していると仮定し、全滅はさせなくとも九割以上、事実上壊滅状態までは追い込むことが決められた。

「さて、問題は倒す方法だけど」

 これだけの数が多ければ、正攻法で戦って行けば日が暮れてしまう。仮にカードの力を使おうにも、ハカネが扱うカードたちはある程度の人数までならば問題なく対処できるが、ここまでの多人数戦ではリソースの供給が追いつかない。アクアのデッキもまた、こうした場面で有効的に使えるカードではなかった。

「とりあえず、頭数減らしはテスタロッサにお願いするわ」

「制圧は、こっち向きですね」

 テスタロッサの武装は多人数戦及び、制圧能力に長けている。ゴブリン程度の相手ならばその能力を十二分に発揮しきれる。よって、このメンバーの中では頭数を減らすことに関しては適任だった。

「その関係上、零も前線に出てもらうことになるけど大丈夫?」

「戦うことには気が引けますけど、これから起きる可能性が高い問題を起こさないようにするため戦うんですよね?僕も戦います」

 零も戦う意志を固めている。テスタロッサはそのことに反対をしようとするが、それはアクアによって止められ、攻略方法を考え始めた。

「とりあえず、表はどうにかなるとして、問題は中のほうね」

「あの、洞窟なら窒息は狙えないんですか?」

「無難作ではあるけど、今回はその方法が使えない」

「どうしてです?」

 洞窟の中ならば思うように武器を振るうことができず、大魔法が多いハカネも使える魔法の選択肢が狭まってしまうはずだった。そんなわざわざ不利な場で戦うよりも、その地の理を逆手に取り戦うべきだと考えていた零だったが、アクアがすぐに却下した。

「洞窟内に人間の生存者がいる可能性もある。俺ら人間までも死んでしまう方法は取れない。だから洞窟を崩壊させるのも当然だめだ」

「ああ、なるほど」

 言われてみれば単純な理由だった。今回の作戦はただゴブリンを倒すだけでなく、中にいるかも知れない生存者の確保も行わければいけないのだ。そのためにも、より安全で迅速な方法を手段を取らなければならなかった。

「まぁ、どう考えてもこうなるよね」

 作戦はすぐに決まり、それぞれが割り振れられた役割を行うために走り出した。


 ゴブリン巣窟の前にテスタロッサと零は立つ。それに気がついたゴブリンたちは角笛を吹き、周囲のゴブリンたちは一斉に臨戦態勢へ入った。

「テスタロッサさん、行きますよ」

「ええ!!」

「レリーズ!!フィールドセット」

 零はデッキケースからデッキを取り出し、カード達の力を開放させて初期手札である五枚の手札が零の前に現れる。

 テスタロッサは引き抜いたリボルバーの撃鉄を降ろし、角笛を吹いていたゴブリンの頭部を撃ち抜いた。

「さぁ!!暴れるわよ!!」

「はい!!手札から戦略「戦姫出撃」!!デッキから”戦姫テスタロッサ”を召喚し、更に手札の”制圧武装テスタロッサ”とフィールドの”戦姫テスタロッサ”を入れ替える」

 零が投げ渡した”制圧武装テスタロッサ”をテスタロッサが受け取ると、テスタロッサの武装が変わり両手にガトリング砲二門が握られている。

「死にたくないやつは頭を下げなさい!!」

「僕は死にたくないので頭を下げます」

 零は直ぐに姿勢を低くしてアクアから借りたヘルメットと耳栓を取り付ける。その直後、テスタロッサは引き金を引き銃身を回転させる。

「ファイア!!」

 銃身が十分回転したことにより、秒間何百発もの弾丸が撃ち出され始めた。撃ち出された弾丸は射線上にいたゴブリン達を蜂の巣にしていき、見張り台として組まれていた木々は一瞬にして支えを失い崩れ落ち、トーテムはもはや原型がわからないほどに破壊された。

 テスタロッサの周囲には排莢された大量の空薬莢が散らばっていき、その威力を物語っている。

「はぁ、はぁ、腕が」

 掃射時間は十数秒程度本当に僅かな時間であるにも関わらず、テスタロッサの腕は暫くの間使い物にならないレベルで痺れてしまっていた。それもそのはず、いくら機械の体をしているテスタロッサであっても体の作りは人間と同じである。そのうえで、生身では到底扱うことができないはずのガトリング砲を二門、それぞれを片手で扱っているため受ける反動は大きすぎる。それを十数秒間、確りとゴブリンたちに当てられただけでも十分すぎるのものだった。

「零!!次、ってあれ?」

 零の返事がないことを不思議に思い、後ろを見てみるとそこには気絶した零の姿があった。

「ちょ!?はぁ!?」

 流石に演出だと割り切っても、目の前でゴブリンの体が瞬く間に肉片へと化していく様子を直視してしまっては、零の頭はまた拒絶反応を起こしてしまうようだった。

「ああもう!!なら、このまま」

 テスタロッサが暴れている間に、ハカネとアクアは警戒がゆるくなった入り口へど移動して、中へと急いで駆け込んだ。

(流れ弾が酷い)

 後ろから飛来してくるテスタロッサが放った弾丸を魔法陣で防ぎつつ、直接洞窟内の空気を吸い込まないように、手ぬぐいで口と鼻を覆い隠せていることを確認すると、洞窟から出ようとしているゴブリンたちを外に出さないよう殲滅を始めた。

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