成長と苦心。
道が車のタイヤ跡以外ピンク色に染まる季節を何度も経験し、義務教育最後の年を迎えようとしていた。保育園、小学校を経験した体は生きるのに必要なのかと思うほどに成長していた。
「ゲルラは高校どうする?」机に手をつきながら聞いてきたのは友人だった。彼らは中学でできた友達と離れ離れになるのが怖いのか定期的に進学先を聞いている。
「まだ決めてないけど」と答えると、友人は「金持ちは選択肢が豊富でいいよな」と嫌味を吐かれた。
中学に入学して思い知ったことは何個かあるが、その内の一つに我が家は社会的に裕福な家庭だということがある。学校で一番裕福ではないが、上位の一割には入るほど自分の生きている環境が恵まれていることに大きく驚いた。
「ゲルラはエリートだから国立大学付属の高校でも行くんだろ?」横から別の友人が話していた友人の背中から顔を出した。その様子がはるか昔に体験した双子との記憶に似ていたため、今頃何をしているのだろうかと思ったことは一瞬ですぐに彼らの声で考えることをやめた。
「まだ決まってない。進路相談の紙にはそう書いただけ」
実際、母親は火星国立大学付属高校に行くのがいいと勧めてくるがこの星唯一の国立大学に行くのが将来の為にも安定した生活が待っていると思えるが、親の言うことだけを聞いているだけでいいのかと思ってしまう。
「国立付属に行ったら、お前の親の就職先に行けるんじゃないか」背中から首を出したままの友人はまた口を開いた。
「そうだけど、別に父のとこにどうしても行きたいわけじゃないし」
一昔前までは父が勤めている民間の天文学研究をしている会社に入りたいと思っていたが、自分の学力で行けるのだろうかと煌びやかに光る希望を不安という薄暗いものが、しつこくまとわりついているようだった。
この前も進路相談に真面目に相談してくれると評判高い先生に対して「もう少し考えさせてください」と適当な返事をしてしまった。自分がこれからどこに行って、どんなシリウルになるのか分からないが、その結果を楽しみにしているのは母だけなのではと思い始めた。
「どうでもいいけど、サッカー行こうぜ」机に手をついている彼は自分のバックからボールを取り出し、親指を立ててサインをした。日差しが強い今日は教室で読書をしたかったのにと思いながらも、校庭にサッカーをしに行く集団の背中を追いかけている道中、私はつい足を止めた。
「おい、地球人、早く見せろよ」
女性の声だった。自分たちの教室のある二号館から下駄箱のある一号館を繋ぐ渡り廊下で聞こえてきた声だった。罵倒するような声は昼休みの騒がしい生徒たちでかき消されていたが近くにいた自分にははっきりと聞き取ることができた。声が聞こえた方向に行ってみると一人の女を複数人の女の集団が囲んでいた。
囲まれていた子は同じクラスの肩の辺りまで伸びたショートヘアーの子で、いつもこの時間は図書館か教室で読書をしている物静かな生徒だった。そして、囲んでいる彼女たちはどのクラスと断定することができないほど色々なクラスが混じっていたが、多分、以前友人が私に教えてくれた隣クラスの派手に髪を茶色に染めた女を筆頭にいつも一緒に行動しているグループだと思われる。
私が足を止めるきっかけになったリーダーの女の声以外にも小声で「きもい」や「泣くなよ」と周りも誹謗していた。
私には関係ないとその場を去ろうと右足を動かしながら、一瞬だけ囲まれている子の顔を見た時、彼女の綺麗な頬の曲線から一滴の雫が太陽の光を反射しながら落ちていった。