障害者と特別者
角部屋でないが思っていたよりも部屋は広く、リビングと寝室、そして子供部屋と三部屋に分かれていた。彼女たちとはリビングで話すのかと思っていたが、長髪の彼女が子供部屋のドアを両手で抑えながら「床にでも座って」と言った。
まだ生まれて間もない子供のため勉強机があるわけでもなく、二段ベットのような家具はなく、姉妹特有の部屋とは思えない家具の少なさだったが私が座る場所は十二分に存在した。
私が床に座ると床に置いてる丸い机を挟んだ反対側に彼女たちは並んで座った。
「それで私たちがどうして喋れていることを聞きたいの?」彼女はそう言った。多分、彼女はシリウルという生命体は生まれてから喋れるのが当たり前だと思っているのだろう。自分がそうであるように。しかし、生まれてから喋れるのは多分当たり前ではない、現に隣の短髪の彼女が喋れていないからだ。
「隣の彼女が喋れないのは何か障害を持っているのか?」そう聞くと、「分からない」と首を傾げて答えた。
「そもそも、この歳の子供は障害なんていう単語を知らない。でも、君は疑問に思うことなく障害という意味を知っているように会話を続けた。これが不思議と言わずになんて言うんだ」
私の言っているこの状況に納得したのか黙り込んで、机の傷を数えるようにうつむいていた。
「じゃあ、私たちが何かの障害者ってこと?」
「そういうことになるかもしれない」
いつの時代も普通でなければ特別視される。古代でも腕が無いだけで神の子であるとか、神の後継者であると拝められたように私たちも特別視される対象かもしれないが、それは普通ではない非人間的と揶揄しているのと同じだ。
「いや、障害を持っているのではなく、特別な能力を持っていると言ったほうがいいかもしれない」と慰めになるかと思い彼女に言うと、彼女は特別な能力という言葉に土臭さを感じたのか冷たい目線でこちらを見ていた。
「でも、この喋れることを私の親は何も疑問視していなかった。だから、もしかするとこの能力は普通で一定の確率で出現するものなのかもしれない」
「確かにママも驚く様子を見せなかったかも。だから、たまたま私が喋れて、この子はたまたま喋れないだけなのかも」
そもそも、たまたまという奇跡を表す言葉はこの世に生まれてきた時点で奇跡的な確率であるのだから、その言葉を使うのはおかしいと思えた。この世で生まれ、その上でさらに人とは違うものを生まれつき持つのは贅沢なのではないかと思った。
長髪の彼女とは折角会話ができるのに、私が持っている情報量が少なく、同時に彼女もこの世界に無知すぎるため会話にはならないと判断し、部屋に戻ることにした。帰り際、今度来るときはインターフォンではなく、ドアを三回ノックしてと言われた。
次、この部屋に来るときは少しは知識を蓄え、彼女たちも彼女たちなりに成長しているのかと思うと少しだけ次訪れるのが楽しみになった。