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青い春の話  作者: 卯月晴
2/14

始まる(2)

 青春。そんなものは知らない。よく聞くその言葉に対してさほど興味もない。けれど、世間はその青い春に憧れるらしい。『青春』と検索してみても、『夢や希望、理想を持った若い時期』『若い時代』なんて書かれていてなんともすっきりしない。

 しかし、そんなことはどうでもいい。僕の目的は青春なんかじゃない。学生証を取り返すこと。そのためには彼女の青春ごっこに付き合わねばならない。それだけだ。

「太陽くん!」

 僕が食堂で昼食を取っていると高坂未央は僕の目の前に現れた。どうして僕の目の前の席は都合よく空席なんだろうか。そう考えているうちに彼女はその席に座った。

 あれから土日を挟んで二日。彼女と会うのは二度目だ。

「高坂さん……」

「露骨に嫌そうな顔をするなんて、君って失礼ね」

 僕は小さくため息をついて水を一口飲んだ。

「それで、何?」

「さっそく青春したいなって思って。太陽くん、今日は何時に講義が終わる?」

 そう聞かれて、仕方なしにスマホのスケジュール表を見ると今日は次の講義で終了だと分かった。

「十四時かな」

「じゃあ、十五時半に制服着て集合ね。場所は後でスマホの位置情報送るから」

「待って。制服ってどういうこと?」

 聞き捨てならない言葉を咄嗟に拾い上げる。

「あ、高校の時の制服もう処分しちゃった? それなら私がどこかから入手する必要があるよね」

「いやまだ持ってるけど……」

 彼女は「じゃあオッケー」と指で輪っかを作って見せた。

「オッケーじゃなくて、なんで制服着なきゃいけないの? 僕らもう大学生なんだし、恥ずかしいよ」

 高校を卒業しているのに制服を着たら、間違いなくただのコスプレだ。恥ずかしいにも程がある。大学生にもなって学ランを着ているところを知り合いにでも見られたら困る。

 全力で拒否する僕に彼女は笑った。

「ついこの間卒業したばかりじゃない。それにまだ太陽くんは学ラン似合うって! 全然大丈夫!」

 全然大丈夫なことなんて一つもない。それにまだ学ランが似合うってのいうのも、それはそれで複雑だ。

 食べ終わった食器を返却口に持っていこうとすると、彼女が荷物を見ていてあげると言ったので食器だけを持って立ち上がる。

「制服……嫌だなあ」

 つい本音がポツリと漏れてしまう。

 僕が戻ると彼女の手には僕のスマホがあった。

「今どき、誕生日をパスワードにするのはやめた方がいいね」

「人のスマホを勝手に見るのをやめた方がいいね」

 高坂さんの手から自分のスマホを取り上げると、高坂未央という連絡先が追加されていた。

「追加しといたよ。じゃあまたあとでね!」

 それだけ言い残し彼女はひらひらと手を振りながら、食堂から出ていった。

 しばらくして送られてきたのは集合場所だった。赤くマークされた場所をタップすると拡大され、場所が明らかになった。

「あれ……これって」

 そこは僕の通っていた高校だった。何故この高校なのだろう。彼女は僕の母校を知っていたのか。それとも偶然か。どちらにせよ卒業した今、母校に制服を着て訪れなきゃならないなんて。

 深いため息が僕の中から抜けていった。

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