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第二話「麻痺」

 勇者が現れてから数日。

 あの変なことを口走った勇者とその一行がまた玉座の間へ現れた。


「きゃあああああ!?」


 明らかに死んでいたのに!? どうして!?


「僕、目が覚めたんだ」


 勇者が妙に澄んだ眼でこちらを見る。

 やめろー! そんな目で見るなー!


「あぁ、すまん……俺らもよく分かっちゃいないんだ……えっと、お前がフィン?」


「え、はぁ、そうですけど。何で生きてるんですか? 人間は死んだら生き返れませんよね?」


 先日、玉座の間に現れた勇者一行のタンク、魔法使い、僧侶は明らかに戸惑っている様子だった。とにかく勇者が何かやらかした可能性は大きそうだ。

 人間族は魔族と違って、戦死は絶対的な死であったはずだ。魔族だからこそ勇者一行に倒された四天王たちもお父様が作り上げた村や街の人たちも生きているのだ。とは言っても、死というのは痛くて苦しいらしいし、人によっては復活した後引きこもってしまう人もいる。殺しは種族に限らず避けなければならない。何はともあれ復活した理由を聞いてみる。


「えーっと、私たち勇者パーティーは『神の祝福』という常時発動(パッシブ)スキルがありまして、場所は限られますが、魔族と同じように復活ができるんです」


 魔法使いが説明してくれる。どう考えても国家機密クラスの話だが、常時発動(パッシブ)スキルなら解除方法や細かい条件を言わなければセーフということか。


「あのー、大魔王は本当は危険じゃないって勇者様が仰ってて……ここまで来るのも勇者様が戦わなくていいって……」


 今度は僧侶が話す。

 なるほど……私が前回人間に姿を現したのは勇者アレンという男だけ。それ以外はお父様が一撃で葬っていたから、私のことも、私の話したことも知らないということだろう。

 思わずため息が漏れ出る。そして振り返って話を一部始終聞いていたはずのお父様に文句を言う。


「お父様……勇者が来るの分かっていましたね……?」


「あぁ……お前が朝起きる前に緊急で知らせが届いてな……なあ勇者」


 お父様が勇者に話を促したので、勇者の方に顔を向けると、妙にキラキラと目を輝かせた勇者と目が合う。

 なんだ? この鬱陶しさは。


「僕、目が覚めたんです。戦いで平和は手に入らないって」


 う、うすら寒い。ここまで(魔王城に)来るまで戦ってきていた癖に何をいまさら……


「魔族は敵だと洗脳されてきたんです。先入観が邪魔をして本当は良い奴だなんて思えなかったんだ。こうして話し合うことも今まで絶対になかった。君のおかげだ」


 周りのメンバーも頷いて理解を示す。

 私のあの時の語りが響いたということ……? それなら少し、嬉しいかな……


「でも、これだけは譲れない」


 勇者が一層気合を入れて発生する。その言動に嫌な予感がして落ち着かない。


「お義父さん! 娘さんを僕に下さい!」


 う、うわぁー。やっぱりこの前こいつが死ぬ前に言ったこと聞き間違いじゃなかったのかぁー。わぁー。


「断る。誰がお前なんぞにやるか」


 いいよその調子だよお父様! もっと言ってやって!

 勇者以外のメンバーはどこか気まずそうにしている。多分、これを伝える為だけについてきてほしいと頼まれたのだろう。不憫な人たちだ。


「やはりそう言うのですね……なら」


 そう言いながら勇者が背中の剣を抜く。

 おっと?


「『史上最強の支配者』……その称号を持つあなたに認めてもらうのならば、やはりこれ()で!」


 ちょっとー?? さっき戦いはどうのこうのとか言ってませんでしたー???

 何が「これで」。だよ! その前に私は婚約拒否ですよ!!


「やれるものならな」


 受けて立つといわんばかりに玉座から立ち上がるお父様。

 え!? 承諾しちゃうんですかお父様!? 負けたら私婚約ですか!?

 や、やだー! いや、よく考えたらお父様は前回圧勝でした。毒で瀕死だったけど。負けることはない……はず。


 勇者の背後にいたパーティーメンバーもおもむろに武器を構えだす。

 ちょちょちょ、ちょっと待って!? 一対一じゃないの!? せこくないですか!? というか勇者一人でなんで来なかったんだろうと思ったら一対四にするため!? 他のパーティーメンバーはこの勇者に文句出ないの!?

 あ! ちょっと微妙そうな顔をしてる! 「恩はあるんだけどな……」みたいな顔してる! やっぱり嫌なんだ!


「前回は、毒を当てたから短期決戦にされたんだ。今回はその素早さを縛る作戦で行くぞ! 頼むマルマ!」

「はい! 『パラライズ』!」


 あの魔法使いの女の子はマルマって言うんだ……かわいい名前だな。じゃなくて。

 今使った魔法は……麻痺?! また状態異常攻撃使ってますよ! 大魔王に効くはずが――


「ぐおっ……がっ……くっ……」


 完全に痺れて(3回行動が封じられて)るー!?

 何でそう状態異常耐性が無いんですか! 効きすぎじゃないですか!? 麻痺はまだ動ける部類の状態異常ですよね!?


「よし! 効果的だ! 今のうちに削れ!」


 それでいいの!? 剣術で対抗とかじゃないんだ!? 誇りとかないんですか!? それで勝って嬉しいんですか!?


「この……ぬぅっ……おぐ……」


 あれ? 私の記憶違いだったかなぁ?! 麻痺って一回痺れたら解除されるまで動けないものだったかなぁ?!


 それから解除までの数分間、お父様は斬られたり魔法をぶつけられたりを繰り返した。あんなに一方的に攻撃されていたのにまだまだ戦えそうな辺りはやはり大魔王なのだと思う。


「ふんっ……ぬ……うぅおらぁああ!!」


 ようやく麻痺が解け、近くにいた前衛に向かって腕を大きく振るって薙ぎ払う。麻痺が解けた直後だからかその行動しかしなかったが、とてつもない迫力とそれに負けないほどの凄まじい突風が玉座の間を旋回した。お父様の近くであればあるほど風力は強かったのであろう、一番近かった勇者一行のタンクは後衛の近くまで吹き飛び、勇者も風を耐えるので精一杯だった。


「マルマ!!」


 勇者はお父様の麻痺が解除されたのに気が付き、すぐに呼びかける。


「『パラライズ』!!」


 その意図を瞬時に汲み取りすぐさま麻痺魔法を放つ。その横でタンクが前線に戻りながら、突風で傷ついた身体を僧侶が癒す。しっかり連携は取れていて、なおかつ誰か一人がチーム内で圧倒している訳でもなく、それぞれが戦いに慣れている。時代が違っていれば本当に勇者一行として名を遺せていただろう。


「ぎっ……だ……ぐ……」


 あぁ! お父様がまた麻痺に!

 や、やっぱり、負けてしまう? この前の毒は運が良かっただけで……

 このままだとお父様は何も出来ずに終わってしまう……! どうすれば……


「いいぞ! この調子だ! 集中していこう!」


「ぐが……『メテオ』……は……!」


 !

 麻痺の痺れの間から魔法が!

 メテオは土属性の最強呪文! 直撃すれば一撃で倒せる! 直撃せずとも即死級魔法であれば隊列を乱せる! 勝利への一筋の光ですよ!


 半端ではない破壊力を伴う大魔法は使用する魔力が大きく、その魔力が揺れ動く空気が相手にも伝わるため、勇者一行はすぐに防御姿勢を取る。しかし、数秒経っても何も起きない。魔法の詠唱に失敗していたのか? とフィンも勇者一行も疑念が生まれかけたその時、事態は大きく動き始めた。


「……『ザ』……」


「まだ詠唱は終わってない!!」


 誰が叫んだのか分からなくなるほどに、その場の全員が同じ事を考えた。

 周りが魔力で満ち溢れる。微量ながら、しかし着実に魔法が構築されていく。土属性最強魔法のさらに上を、状態異常のまま詠唱し続けていたのだ。


 そ、そうか……! お父様のあの状態異常耐性の低さは昔からなんですね! あまりにも低すぎるが故に、状態異常に陥りながらも行動し続ける技術を持てるようになった……いわば「ゴリ押し」!

 通常であれば毒も麻痺も受けている間は詠唱も攻撃も集中力が分散し疎かになる。状態異常がなんだと無理に動こうとし、やはりダメだと諦めてしまうのが普通。

 そこで諦めずに集中し続ければ……


「『サン』!!」


 状態異常の(まともに動けない)ままでも数ターンかかる技が発動可能!!



 そこから事態の収束は早かった。隕石が魔王城を降り注ぎ、玉座の間は半壊した。もちろん、その衝撃に人間は耐え切れずに「神の祝福」が発動し、どこか人間の国へ帰還させられたのだろう。死体がどこにも見当たらなかった。お父様が文字通り塵も残さなかった可能性もあるけれど。

 お父様はその後側近や四天王にこっぴどく叱られていた。修理費も馬鹿にならないって。お父様なりに気を使っていたのか玉座の間以外に(お父様による)被害はなかったけれど、空の光が遠慮なく差し込む開放感あふれる空間になった。なかなか見ない光景なので新鮮だ。修理が終わるまでこれはこれで楽しもうと思う。


 それにしても、勇者の仲間の女の子たちはかわいかったなあ。勇者はどうでもいいけれど、なんとかあの二人と話せないだろうか。

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