勝負のゆくえ
「お願いします」
水分補給もそこそこに、岡は素振りしながらボックスに入る。二条はまだアップが完了していないので壁当てをしている。跳ね返るボールを投げては拾い、拾っては投げを繰り返し、徐々に肩が軽くなっていくのを確認する。十分温まった二条はマウンドに向かう。
ふぅと軽く息を吐き、振りかぶる。キレイなフォームから繰り出された一球目はストレートだった。岡は読み通りだったが見逃した。どんなボールでも初球は見逃そうと思っていたので打つ気はなかったし、二条も打たないと確信していたはずだ。だが二条は渾身の一球を放ってきた。それは間違いなく5年という期間を埋めるための意味もあると岡は思った。そうだ。俺たちはいつも野球で会話していたっけ。
「ワンストライクだな」
打てるもんなら打ってみなという挑発交じりの挨拶を見逃した岡はこの時、ストレート一本に絞っていた。二条の性格はわかっている。決め球は絶対にストレートだ。
岡が返球すると二条は袖で汗を拭った。岡は大胆にもツーストライクまでは追い込まれようと決めていた。二条は変化球を散らしてくるはずだが、それについて行っては抑えられる。だったら追い込まれた後のストレート一本狙いの方が確率は高い。
二球目は変化球だろうと読んでいた岡は、続くストレートに驚いたように振り遅れた。過去に2球連続でストレートを投げ込んできた記憶はない。二条に読まれている。岡はそう思った。
「ツーストライク」
あっさり2球で追い込まれた岡は、バッターボックスから少し出て素振りをした。この数秒の間に考え直すか、それとも通すか。
二条は一瞬にやっと笑った。岡にはそう見えた。絶対にストレートだ。岡はそう決めた。直射日光とセミの声が埋め尽くす真夏の校庭はまるで、夏の甲子園のような雰囲気が漂っていた。
ゆっくり振りかぶり軸足に体重を乗せた伸びやかなフォームで3球目を投げ込んでくる二条。ストレートだ!岡は一瞬で判断した。1・2の3でアジャストさせた打球は放物線を描き、三塁側のプールに飛び込んだ。ファールと言われても仕方のない切れ方だったが、二条はホームランだと認めた。あそこまで飛ばされたら納得が行くと言ってからりと笑った。
岡は人生初ホームランの余韻に少し浸ってから、ダイヤモンドを一周した。カーテンコールのような蝉時雨を一身に受けながらゆっくりと回った。




