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4 同居!?

 教室に戻ると、針のむしろに座らされているかのような気分になった。

 クラスメイトの視線が痛い。

 それらの視線は、大きく二種類に分けられる。

 美少女と付き合っている僕を嫉むものと、ヤンデレと付き合っている僕を憐れむもの。

 ああ、早く授業が終わらないかな……。

 そう思っていた時期が僕にもありました。

 今思えば、授業中は平和だった。

 地獄は休み時間にあったのだ。

「お前、渋谷汐里と付き合ってるの?」

 徹平が話しかけてくる。

「まあな。」

「いつからだよ。」

「一昨日から?」

「どうして疑問形なんだよ。」

「……。」

 尋問が続くが、僕と汐里は付き合った経緯などについてまったくすり合わせをしていなかった。

 だから下手なことは言えない。

 黙秘するしかなかった。

 まさか、休み時間に早く授業が始まって欲しいと思う時がこようとは思ってもみなかった。

 そして、「もうすぐ授業が始まる。」と思ったその時、知らない先生が教室に入ってきて、黒板に悪魔の二文字を書いてどこかへ行ってしまった。

――自習。

 自習とは、自ら勉強するための時間であって、決して私語をしていい時間ではない。

 授業中の私語は厳禁だ。

 そんなことも知らない愚民どもが、僕に話しかけてくる。

「もうどこまでやってるの?」

「どんな汚い手を使って付き合い始めたんだ?」

「渋谷さんってトイレに行くことあるの?」

「渋谷さんがトイレに行くわけがないだろう。あの子からは汚い物なんて出ねえよ。」

「いや、人間なんだから出すでしょ。」

 別の論争が湧き起こった。

 僕は集中して自習をしよう。

 え~と……。

 なるほど、土器に関する年代測定法には、放射性炭素十四Cによる年代測定法を使うのか。

 そもそも、これは「歴史」の勉強なのだろうか……。

 だって「歴」は経過するという意味で、「史」は出来事を記録した書物のことだ。

 書物から読み取れない先史時代というのは、歴史という学問の範疇から外れているのではないだろうか。

 考古学と歴史学は異なる学問なのだから、それを一緒にするのは、木に竹を接ぐようなものだ。

「渋谷さんって、何カップ?」

 僕が屁理屈をこねている間に、また質問が飛んできた。

 僕は汐里が何カップなのか知らないし、知っていたとしても教えない。

「おっぱいソムリエの私の目によると、Hカップね。」

 僕のクラスメイトには謎の職業の人がいた。

 しかも、女子。

 そういえば、汐里は閻魔様に頼んで僕好みの見た目にしてもらったと言っていたな……。

 すなわち、汐里は僕が巨乳好きだということを体現しているわけだ。

 うわっ、急に恥ずかしくなってきた。

 こうして、自習時間中、僕のメンタルはガリガリと削られていった。

 そして、遂にやって来た放課後。

 僕は、クラスメイトに包囲されていた。

 このクラスはどうしてこんなに一体感があるのだろうか……。

 さぞ担任は喜ぶことだろう。

 しかし、僕にとってはクラスの一体感などクソくらえだ。

「上野君、今日は私達と一緒に遊びに行きましょうか。」

 クラスのトップカーストの中心人物である可愛い女の子から遊びのお誘いを受けた。

 しかし、全くうれしくない。

「ごめん。今日は用事が……。」

「え? 私の誘いを断るってことはないよね?」

 あっ、これ断れないやつだ……。

 諦めかけたその時。

 下級生が教室に入ってきた。

「なに人の彼氏を誘っているんですか? クソビッチ先輩。」

 汐里、めっちゃ怒ってる。

「あら、渋谷さん。大丈夫よ。私はこんな地味な男を取ったりしないから。」

「は? 今、世界で一番可愛い私の隼人のことを地味な男っていいましたか?」

 汐里の怒りがヒートアップした。

 すると、汐里はスカートのポケットに手を入れてカッターナイフを取り出した。

――カチカチカチカチカチ。

 カッターナイフの刃が出てくる。

「ひっ。」

 僕を包囲していたクラスメイト達は、逃げていった。

「さあ、帰りましょう。」

「はい。」

 汐里はやはりヤンデレなのだろうか……。

 僕はそれからしばらくの間、なぜか汐里に敬語を使ったのだった。


  *


 家に帰ると、引っ越し業者が出ていくところだった。

「ただいま。」

「おかえりなさい。」

 今日も美玖が出迎えてくれる。

「おかえりなさい。」

 今日は伯母も来てくれた。

「引っ越し業者の対応ありがとうございました。」

 汐里が伯母に礼を言う。

「隼人、ちゃんと香織ちゃんを手伝ってあげるのよ。」

 伯母が汐里を手伝うように言うが、一体何を手伝えばいいのだろうか。

「ごめん。全く事態が飲み込めない。」

「隼人、今日から私もこの家に住むことにしたの。いっぱい一緒にいられるね。」

 理解が追い付かない。

 ……。

 うん。

 つまり、汐里がこの家に引っ越してきたということか。

 なに~!

「部屋に行きましょう。」

 汐里に手を引っ張られて連れてこられた部屋は、僕の部屋だ。

 段ボールも置かれている。

 いや、たしかに僕に与えられている部屋は広いから、二人で生活できなくはないが……。

「まずは、ベッドを運び出すわよ。さすがにシングルだと二人で寝るのに窮屈だから、セミダブルを買ったわ。」

「いや、どうして同じベッド? シングル二つでよかっただろ?」

 それに、今ベッドを動かすと……。

「あら?」

 汐里が数冊の本を持っている。

 終わった。

「前も言ったけど、恥ずかしがらなくていいのよ? 私は、隼人がこういう本を持っていてくれると、健康に育ってくれたんだなって分かって嬉しいの。それに、私のおっぱいが大きい理由もよくわかったわ。」

 汐里から精神攻撃が放たれる。

 結局、汐里の言うがまま、ベッドを運び出して新しいベッドを組み立て、汐里の異様に少ない荷物を片付けていった。

「お母さん、今まで住んでた家はどうなったんだ? 今の両親は?」

「私が中学生の時に、父が経営している会社が破産して一家離散。私はその後一人暮らしをしていたの。」

「生活費は?」

「親から当面の生活費として十万円渡されたから、それを元手にFXで増やしたの。今は株式投資もしているわ。」

「それで生活できるのがすごいな。」

「さあ、最後の段ボールは衣類だから、全部タンスに片付けて。おトイレに行ってくるから、先にはじめてちょうだい。」

「ああ。」

 ここで、ある事実が発覚した。

 渋谷汐里はトイレに行く。

 さて、段ボールを開けよう。

 段ボールを開けると一番上にあったのは、下着だった。

 ここで、僕の頭に天使と悪魔が現れた。

 悪魔は言う。「ちょっと見ちゃえよ。」と。

 天使は言う。「これは脇に置いて、下にある服から片付けよう。」と。

 悪魔と天使の戦いの火ぶたが切って落とされた。

 戦いは、天使が放った最後の一言で終わった。「ちょっとなら大丈夫だよ。」

 天使は、堕天使になった。

 僕は、ブラのタグを探した。

 そして確認した。

 僕のクラスのおっぱいソムリエの目が確かだったことを。

――カシャッ。

 何か音がした。

 そこには、スマホを持っている汐里がいた。

「トイレにいったんじゃないのか……。」

「隼人、いいことを教えてあげる。美少女はおトイレに行かないのよ。」

 もしかして、転生してトイレにいかなくてもいい体になったのだろうか……。

「それにしても、いい写真が撮れたわ。やっぱり隼人は女の子の下着に興味があるのね。うふふっ。」

 あぁ、僕の天使よ、どうして堕天使になってしまったのだ……。

 僕は、背筋に冷たいものを感じた。

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