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Jack the Joker.  作者: 風蓮
第一章  真白き夢
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「わか……った、リズ。」


長い沈黙を経て、ユウがこくりと頷いた。

危うく嫌ならいいの無理しないで、と言うところだった私も、慌てて言葉を飲み込んで頷く。


「つーか、何でリズにはさん付けてんだ?」

「え……と、命の、恩人だから……。僕をみつけて、連れてきてくれたって。」

「あぁ、なるほど。」


一人早くもコップを傾けながら尋ねるルフにユウが答えて、納得したように目を戻してまたハニーカクテルを一口。

命の恩人っていうならルフもその一人だと思うけど、ここは追求しないでおこう。

せっかく懐いているルフに気を使うようになっても嫌だし、私にも同じように話してくれるっていうのに、わざわざ引っ掻き回す必要もないし。


「はーいリゾットお待たせー。ねぇー、私もモニカって呼んで?」

「あ……はい、モニカ。リゾット、ありがとう。」

「冷めないうちに食べてねー。」


黄金色のリゾットをのせた白いお皿と、銀色の丸いスプーン。

仲良し仲良しー、と口ずさみながらカウンターの中で作業を始めるモニカに頭を下げて、ユウはスプーンを手に取った。

とろりと伸びるチーズが切れるのを待って、ふぅ、と息を吹き掛ける。

そして、躊躇う様子もなく口に運んで、ほんの僅か動きが止まった。

まずい、と思う間があったかどうか、こく、とその白い喉が上下するのを見届けて、気付かれない程度に息を吐く。

モニカの判断に間違いがあるとは思ってないけど、体調の問題でそもそも食べ物を受け付けない可能性はある。

飲み込めたのならひとまず大丈夫だろう、後々吐き出してしまうことも考えられなくはないけど。


「あ、そうだー、この子、ユウ君とこのだよねー?」


右へ左へとカウンターの中を動き回っていたモニカが不意に立ち止まった。

なにかを拾うようにしゃがみこんで、床から黒いものを持ち上げる。


「あ。」

「猫。」


それは、ユウ一緒に保護した黒猫だった。

……そういえば、姿を見ていない。

ユウが目を覚ました時に部屋にいたのは覚えてるけど、いつからいなくなってたんだろう。

食べ物の匂いに釣られてここに来ていたのかな、何にしても、モニカが気付いてくれてて助かった。


「ノア。」


これからはもっとちゃんと気を付けないと……と思ったところで、カチャンと食器の当たる音がした。

次いで、驚きを滲ませたユウの声。

……そして、きっとユウ以上に驚いた私の立てた、コップを倒しそうになった音。

何してんだと言いたげなルフと、心配そうに私を見上げるユウ、きょとんと目を見張るモニカ。

三人に何でもないのと小さく手を振って、私はユウに向き直る。


「その、猫なんだけど。」

「うん。」

「ノア、っていうの?」

「うん。」

「……覚えてる、の?」

「……あれ、ほんとだ。」


ユウの瞳が不思議そうに瞬いた。

何でだろうと言わんばかりの顔でまじまじと猫を……ノアを見遣る。

覚えていた、それとも思い出した。

どちらかはわからないけど、ハイエルフの時といい記憶の断片が見えるのは良いことだ、と思う。

自分の名前もわからない中でノアの名前は出てくる辺り、相当大切な存在なんだろうな。

……これからはもう少しちゃんと目を配っておこう。

そう心に刻んで、モニカにコインをもう一枚。


「モニカ、ノアにも何かお願いできる?」

「お安いご用だよー。」

「っつーか、ノアの食えるもんも調べてくれ。」

「はいはーい。ユウ君、ノア君借りるねー。」

「は……うん。」


ユウの手の中からノアを預かって、モニカがまたカウンターの下に消える。

……ルフが知ってるってことは人に見せないようにしてるって訳じゃないと思うんだけど……どうして隠れてしまうんだろう?

それともユウの時と同じく身長と体重を測ってるのかな。

というか何故そんな機材がカウンターの中に?


「あの。」

「うん? どうしたの?」


首を捻っていると、ユウが私の袖を引っ張った。

その割に言葉を探すように黙り混むユウはかなり真剣な顔で、反対側からルフもどうした? と柔らかく尋ねる。


「あんまり……ちゃんと、わかってないから……おかしいかもしれないんだけど。」

「うん。」

「いいぜ、何でも言ってみろよ。」


うぅん、と考えながらユウはぽつぽつと話し始める。


「モニカは……何を、したのかな……?」

「……えー、っと……?」

「……料理?」


何、と言われても、何が……?

わからないままにルフが答えてみるけど、やっぱり違ったみたい。

何て言ったらいいのか言葉を探すようにまた少し口を噤んで、ゆっくりと。


「さっき、教えてくれた、預言。」

「うん。」

「魔法使いが現れる、って言ったよね?」

「あぁ。」

「現れる、なら、今は魔法使いはいない……ん、だよね? だったら、モニカが使ったのは、魔法じゃなくって……。」

「……あー、なるほど。」

「そういうことね。」


途中で言葉を見失ったように、ユウの声が止まった。

だけど、そこまで言ってもらえれば私たちにもわかる。

わかるけど……うーん、何て説明すればいいのか……。


「とりあえず、モニカの使ったのは魔術だな。」

「まじゅつ?」

「そう。えっとね、私たちは魔力っていう目に見えない力を持っていて、その使い方が大きく分けて二つあるの。」

「その一つが魔術だ。もう一つは魔導。」

「まどー。」

「魔導は魔力を持ってて詠唱を唱えれば誰でも使えるけど、魔術はその人にしか使えないのよ。」

「え。」

「まぁ、似た魔術使うやつとか、似てるどころか同じだな? ってのもあるけどな。」

「何が使えるかはその人それぞれってことなの。」


中には使えない人もいるけど、そのあたりは後々にしよう。

一度にたくさんの情報が増えても混乱するだけだろうし……。

それに、ユウはユウで疑問に思ってることがあるみたいだし?


「ごめん、あの。」

「おう。」

「まどう、は……何? どういうこと?」

「どういう……って、いうと?」

「詠唱……? を、唱えれば、誰でも使える……って……」


自分の中にあるものをうまく言葉にできないもどかしさにか、眉をひそめる。

少しずつ感情が表に出てくるようになった、もしくは感情を覚えるようになったのなら、それは良いことだと思うけど……うーん、何を応えればいいのか、からだけど、そうだな。


「ユウは、もう少し回復しないと難しいかもしれないけど……モニカ、ちょっと魔導使ってもいいかな。」






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