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Jack the Joker.  作者: 風蓮
第一章  真白き夢
4/8

昨日更新させていただいた4話が、3話とくっついています。

昨日の4話をご存じない方は、ややこしくて申し訳ありませんが3話後半からお読みいただければ幸いです。






「本当に大丈夫?」

「はい。」

「気分が悪くなったり、どこか痛いところがあったりしたらすぐに言ってね。」

「はい。ありがとう、ございます。」


翌日。

驚異的な回復力をみせた少年の頼みによって、私はギルドの中を案内していた。

回復したといっても、自分で立って歩くことができるようになった程度のもの。

程度というか十分すごいことだけど、正直こうして歩き回らせて大丈夫なのか不安は残る。

熱だって下がりきってはいないし、時折痛みに耐えるように深く息を吐いているのも知っている。

それでも案内することにしたのは、なにか思い出すかもしれないと言うのに一理あると思ったから、と、単に深々と頭を下げる少年の望みを断りきれなかったからだ。

異常があればすぐに伝えるようにくどいくらいに念をおして、万が一にもはぐれないよう手をつないで部屋を出る。


ギルドは地下から地上数階にわたる大きな建物だ。

所属している人数はかなり少ないのだけど、うちのギルドは世界全体の資料庫としての側面もある。

もちろんギルドメンバーの部屋や依頼を掲示する広間、食堂なんかはきちんと存在しているし、例えば今出てきたばかりのギルドメンバー以外が寝泊まりする部屋とか、居酒屋とか娯楽室とか、そういったものも整えられている。

案内しながらこの世界のことも教えてほしい、と言われていたから、歩調を落として喋りながら進んでいく。


まずは食堂に行くのが良いだろうか。

歩き続けるのはしんどいだろうし、今後ここに留まるなら覚えておいてほしい場所だ。

それに……私一人では説明できないことがあったときに、周りに誰かいてくれた方がいい。


いや、でもどうなんだ?

食べられるものがわからないのに食事をするところにつれていくのはかえって酷なんじゃないだろうか。

他のところに向かった方がいいのか……人が多い場所なら広間の方でもいいし……


「リズ? こんなとこで何突っ立ってんだ?」

「っ、ルフか……びっくりした……。」


突然声をかけられて、びくりと肩が跳ねた。

振り返る私の影に隠れるように少年が後ろに回る。

そこにいたのは、ギルドメンバーの中でもよく行動を共にする相手、ルフだった。

クー・シーと呼ばれる種族の一つで、狼の特徴を継いでいるらしい。

耳や尾なんかの生えた人間の姿、というのが少年には分かりやすいだろうか。

縦に長い瞳孔をもつ金色の瞳が、少年を捉えてかすかに緩む。


「動けるようになったんだな。」

「あぁ、うん。あんまり無理はさせたくないんだけど。」


狼というイメージや全体的に黒い色彩、暗闇でも光るような目で一見怖く見えるルフは、その見た目に反してよく気が付く優しい人だ。

何を隠そう少年を連れ帰った時に部屋を用意してくれたのも、その後的確に指示をくれたのも彼。

その暖かさが声音から伝わったのか、それとも心配する言葉そのものから伝わったのか。

私の後ろから小さく顔を出す少年に、ルフは同じ目線まで膝を屈めて人懐こく笑った。


「はじめまして、だな。俺はヘルフリード。ルフって呼んでくれ。」

「るふ……。」

「おう、よろしくな。」


にっ、と口の端を上げて、ルフはその三角の耳を細かく震わせた。

彼の育ての親譲りのその癖は、二人によるとぴるぴるって感じだろ? とのことだけど……私にはよく理解できな


「ぴるぴる……。」

「……話のわかるやつだな。」

「ルフ、真顔怖いからやめて。」


耳に触れようとしたのか、腕を伸ばして歩き出した少年がぴたりと動きを止める。

心優しくとも狼は狩猟種族、感情の乗らない顔はそれなりに迫力がある。

それは本人もわかっているらしく、ルフは再び明るい笑顔を浮かべて少年に手を伸ばした。

大きな掌が少年の頭をすっぽりと覆って、ぐしゃぐしゃと掻きまわす。


「わ」

「よーし。リズ、案内の途中だろ? 俺も入っていいか?」

「いいけど、頭揺さぶるのやめてあげて。」

「あ、わり。大丈夫か?」

「うん、へいき。ルフ、一緒?」

「おう、いいか?」

「うん。」


……懐いた。

私への返事は、はいなのに。

ルフへはうん、だし、敬語じゃない。

……べつにいいけど、いいんだけど、なんとなく腑に落ちない。

ルフに不満があるわけじゃ全然ないけど、私にも同じくらいには仲良くしてほしい……というのはわがままだろうか。


「そんで、どこ行くとこだったんだ?」

「考え中……食堂に行こうかと思ってたんだけど……。」

「ん? なんか問題?」


しゃがんだまま手を広げるルフの元へ少年が歩み寄る。

すっぽりと収まった少年を軽々と抱き上げてルフが首を傾げた。

種族がわからないから、とだけ言えば、あー、と得心がいったのかなんなのかよくわからない声を上げる。


「モニカいるだろ?」

「いると思うけど。」

「だったらモニカに聞けばいい。」

「……どういうこと?」

「お前、知らないのか?」


身振りで促されて歩きだす。

行先は食堂の方向だ。

モニカ、というのは食堂の主のような、居酒屋の方も合わせてギルド内の食事を管理してくれている人だ。

なにせまぁ、早いし絶品なのだ、モニカの料理は。

それにそれこそ、種族ごとに食べられないものや定期的に摂取しなければならないものなんかを完璧に記憶している。

モニカの出してくれる料理は、安心して口にできる。

それがうちのギルドメンバー共通の認識だ。

……とはいえ、まだ種族もわからない少年の食べられるものなんてモニカにもわからないはずなんじゃ。


「食い物については調べてくれるぜ。」

「え、そんなことできるの?」

「天職だろ。」

「私知らないんだけど。」

「むしろ何で知らないんだよ。」


付き合い長いだろうが、と笑って言われるけど、そんなの私のほうが知りたいくらいだ。

天職、って言い方をするなら、調べると言っても魔術を使ってってことなんだろうけど……。

そうと知っていれば、こんなに悩んだりする必要なかったのに。


「そう拗ねんなよ。見せてもらえばいいじゃねぇか。」

「ルフが知ってて私が知らないのはどうかと思うの。」

「知らねぇよ。」


片手で少年を抱えたまま、反対の手で私を軽く小突いてくる。

もちろん私もルフも冗談で言ってることはお互い分かってるけど……半分、いや更にその半分くらいは本気かもしれない。

幼いころからこのギルドにいて、皆のことは大体わかってるつもりでいただけに。


「……悔しいなぁ。」

「……お前も真顔怖いからやめろよ。」






ややこしいことをしてすみません……。

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