それぞれの決断(4)
翌日から、桃源郷の人々は、様々な作業に追われた。メンバーが増えたのだ。よりたくさんの食料が必要になったからだ。
山道氏が陽一と舜を連れて狩りに行き、水野氏が息子の慎二を連れて漁に出た。
中原夫人は、娘の水野裕美に農作業を仕込むべく、朝から作業に当たる。
山道愛美は、食事係の水野夫人の助手となった。
片山は狩りに同行し、笹岡は農作業の手伝いをした。
町の水が引くのは、あと三、四日。水が引いたら、桃源郷との別れが来る。
それは、凛や舜との別れだけじゃなく、食料との別れも意味していた。
ここを出たら、生きて行くのは難しい。
しかし、二人がいる場所ではないのだ。
笹岡の両親も、片山の両親も、善良で真面目な人達だ。
ただ、小野寺博士の提唱した化石燃料も原子力も使わない生活をすることができなかっただけだ。自給自足の生活ができないと、食料難で餓死することもある。それに気が付かなかっただけだった。
秋晴れの中、空の青さが目にしみた。昼休みの弁当や、休憩時間のちょっとしたおやつに、桃源郷の人々の心遣いが窺えて、ここに留まりたいという思いを押さえるのに苦労した。
10月16日の昼過ぎ、高校の担任から連絡があった。
校舎の水が引いたので、17日には掃除をするので集まるように、とのことだった。
町の中心部、港付近の水は、まだ完璧には引いていない。
でも、高校は、港よりズッと高い所にあったのだ。
この連絡を受けて、笹岡と片山は、そろそろ家の掃除や後片付けに行かないとならないので、と、桃源郷の人々に別れを告げた。
凛が涙ぐんだ。町の情勢は不安定で、ここで別れると、もう会えないかもしれない。
黒崎グループとの戦いのあった翌日の夕方、桃源郷に帰って来た健二は、「町では、いつ暴動が起きても不思議じゃない」と、言い、朝から晩まで、町のあちこちに仕掛けて来た盗聴器と格闘している。
その必死な様子を見ても、二人が町に帰るのは、得策だと思えなかった。
笹岡は、凛を抱きしめて、
「大丈夫だって。高校で、毎日会えるんだよ。心配しないで」と、笑った。
舜は笹岡達の潔さに感動した。
小小野寺博士が二人に言った。
「君達は桃源郷の功労者だ。困ったことがあったら、いつでもここに来なさい。ここの門は、君達のためには、いつでも開けておく」
何よりの言葉だった。
桃源郷の人々は、人類の明日を救うため、毎日、努力している。
自分達だって、与えられた場所で、努力して行こう。できれば、桃源郷のようなもの――第二桃源郷――を作って、このとんでもない時代を生き抜こう。
困ったことがあったら、桃源郷の人々が助けてくれる。そう思うと、勇気が湧いた。
桃源郷の日は暮れた。
横に立っていた片山には、ゆっくり息を吐く笹岡が美しくさえ見えた。
完
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