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桃源郷の日は暮れて  作者: 椿 雅香
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襲撃(3)

 10月13日午後1時42分、駅に中原姉妹が到着する。


 戦闘要員一同、昼少し前に出発した。

 舜の車に同乗する者、自転車で行く者様々だ。車は、スピードを加減して、自転車と一緒に走る。

 国道から山辺集落へ続く県道に入って8キロほどの地点をA地点(まさか、国道から丸見えの場所で戦闘はできないだろ?と、陽一が平然と言った)、進入路との交差点をC地点(ヤツ等を進入路に入れてはならないのだ。絶対死守しなければならない。ここが司令部となった)、そうして、A地点とC地点の中間地点(双方から丁度500メートルの所だ)をB地点とし、各自配置に付く。


 片山は、凛や笹岡と一緒に自転車で行った。

 舜が車を降りて、陽一に目で合図する。これから、舜以外の戦闘要員は、全員でお店を広げる。つまり、県道を戦闘区域に変えるのだ。

 凛が自転車を降りて舜の元に行くと、舜は平然と唇を重ねた。

 ここには、片山達だけじゃなく、凛の父である小小野寺博士も、舜の父である小林先生もいるというのに、全く目に入らないようだ。


 戦いの前だからだろうか。長いキスだった。

 ようやく解放された凛が、少し上気している。美しくさえ見えて、片山は地団駄踏んだ。

 衆目の面前で、しかも親の前で、そんなことやるか?こんな非常時に、そんなことするな!

 いっぺん死ね!

 舜を呪った。


「じゃあ、後で」

 舜が、熱を帯びた声で言う。

「怪我しないでね」

 凛が心配そうに言う。

「君も」

 

 二人は、しばらく見つめ合った。

 

 

 陽一が、咳払いして、時計を合わせる。1時12分だ。


「さっき、県道の反対側には、通行止めの看板――黄色と黒の縞模様のヤツだ――を置いて来た。我々は、こちら側に集中する。

 ただし、後から突かれるのは痛い。念のため、小小野寺博士と中原氏には、C地点の向こう側の警戒に当たってもらう」

 打合せどおり小野寺博士達が消えると、お店の設営に全力を尽くす。

 2時15分頃には、舜が黒崎達を引き連れて戻って来るのだ。



 片山がB地点で戦闘準備につく。

 こんなもので戦うのか?

 情けなくなるような装備だった。


 片山に与えられたのは、泥団子の山だ。凛と笹岡が、必死に作ったものだ。

 怪我人をなるべく出したくないという小林先生の要請に基づくものだ。片山は、こんなもので戦う自分の格好の悪さを情けなく思った。


 少し離れた所で、配置についた笹岡は、ホースのようなものを持っている。消防のポンプ車みたいだ。水で戦うのだろうか。でも、桃源郷から水を引いて来たわけでもない。水野氏と並んでそれぞれ1本ずつホースを持っている。


 山道兄弟が作っていた新兵器って、何なんだ?


 いずれにしろ、向こうは拳銃まで用意しているのだ。向こうの怪我人を気遣う前に、こちら陣営の死傷者の心配をして欲しいものだ。


 凛は最前線のA地点で配置についている。

 あのか弱い人を。片山は、陽一を呪った。それ以上に、娘を最前線に配置することを可とした小野寺博士を呪った。ついでに、保護者気取りの舜も呪った。


 

 片山が、何度目かの歯ぎしりをした時、赤い車が走って来た。遠目だが、4人乗っている。

 中原姉妹の他に客がいるようだ。軽四の車に大人4人で、さほどスピードが出ない。

 その車を、ものすごい勢いで黒い乗用車が追いかける。3ナンバーなのだろう。エンジンの性能が違う。その後に、ワゴン車、軽トラック、乗用車が取り混ぜて続く。

 くねくねした道を上から眺めて数えると、全部で10台。


 健二の情報は正しかった。


 片山は、鳥肌が立った。


 情報が正しくても何になる?赤い軽四に勝ち目はない。

 電気自動車にこだわらず、ガソリン車で馬力のある車にすれば良かったのに。と、思った時だ。

 赤い車のトランクが開いて、細かいものが、バラバラと飛び散った。


 次の瞬間、信じられないことが起こった。


 追いかけて来た車の前から4台が急ブレーキを踏んだのだ。

 スピードが出ていたため、くるくる回転して横の杉林に突っ込むものまで出た。

 

 何が起こったんだ?片山は、目を見張った。

 

「野郎!まきびしなんか撒きやがって!」


 パンクした車から降りた男達の何人かが、拳銃を構えて、前を走る赤い車のタイヤを狙う。

 男達が引き金を引く直前だった。

 鋭い音がして、拳銃を構えた男のうち、一人が手を押さえ、もう一人は、太股を押さえた。

 鮮血が飛び散っていた。


 拳銃の男達がギョッとする。


 もう一度、鋭い音。

 今度は、別の男の肩とその右隣の男のふくらはぎから血がほとばしった。


 拳銃の男達は、互いに顔を見合わせ、音の辺りめがけて何発か撃った。だが、空しく杉の幹に当たっただけだ。


 もう一度、発射音。

 

 スナイパーは二人いた。県道の両脇に一人ずついる。

 まきびしがあるので近づけない拳銃男達に狙いをつけながら、少しずつ後ずさりする。前に集中したまま片山達のいるB地点へ向かってくる。


 スナイパーの正体を確認した片山は目を疑った。


 山道氏と凛だった。

 

 バレーボールもできない少女がライフルを使っている。しかも、正確に男達の手足を打ち抜いているのだ。


 信じられなかった。


「凛。右から行け」

 山道氏が小声で言うと、黙って頷いた凛が拳銃を持つ男を右から撃って行く。山道氏は左から撃つ。杉林を上手に利用して、撃ちながら退いてこっちへ来る。

 射程距離が違うのだ。面白いように、男達が倒れた。

「12。後、38だ」

 片山から少し離れた所で水野氏が言った。


 C定点から誰かが自転車で走って来た。


 舜だ。車の運転を野中氏に任せて、戻って来たのだ。


「凛!」

 素早く、凛の側にしゃがみこんでライフルを受け取る。軽く凛の頭を撫でて、狙いを定める。遠目にも、凛が嬉しそうに微笑むのが見えた。


 片山は唖然とした。

 こいつ、ライフルの名手だったんだ。


 舜は、瞬く間に4人倒した。いずれも手か足を打ち抜くのだ。撃たれた男達は激痛に顔を歪めて、完全に戦闘意欲をなくしている。


「16。後、34」

 水野氏が平然と言う。


 黒崎が地団駄踏んで、ヒステリックに叫ぶ。

 秘密兵器を持って来い、と、わめいている。

 

 黒崎グループは、怪我人を杉の木の根元に集める。丸暴の皆さんは全滅だった。

 丸暴でない者もモデルガンを持っていただけで、手や足を打ちぬかれたのだ。

 この場合、拳銃若しくはそれに似たものを持っているというのが、桃源郷側の攻撃の基準だった。


 十五分ほど戦闘が中断した。向こうは、秘密兵器の準備に走り回っている。


 桃源郷側陣営も陽一、健二、小林先生、水野氏、山道夫人が、必死に作業をしている。

 山道氏、凛、舜、笹岡、片山は、それぞれの武器を手に黒崎達の動きを凝視し、作業を援護した。

 ライフルが怖いのだろう。黒崎陣営は、地面に伏せたまま何もできない。



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