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桃源郷の日は暮れて  作者: 椿 雅香
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襲撃(2)

 戦いとは、異常なものだ。

 片山だってそのぐらいは、知っている。


 でも、この戦いは、異常の度合いが異常だった。

 最初から最後まで片山の常識をはるかに超えていたのだ。

 どこをどうつついたら、こんな無謀な作戦を思いつくんだろう。

 戦いの最中でさえ、何度も頭を抱えそうなった。

 

 しかし、桃源郷の人々は、大小小野寺博士以下全員が、陽一の作戦を可としたのだ。

 笹岡でさえ、やむを得ないものと納得したようで、納得できずにジタバタしたのは、片山一人だった。


 まず、最初に、黒崎以下総勢約50人(黒崎は、グループのメンバー以外に10人ほどの助っ人を頼むとともに、知り合いの丸暴舎弟中村某を通じて10人の応援を頼んだ。とんでもないことに、丸暴関係者からモデルガンの改造銃だけではなく本物の拳銃まで借りるという話だった)を迎え撃つに当たって、野戦ならば平野部、ゲリラ戦ならば山間部で作戦を展開するのが普通だろうに、なんと、戦闘地域をあの県道に限定したのだ。

 杉林の中で戦闘を行うと風車ガーランドに被害が出るおそれがあるのと、後始末が面倒だというのが、その理由だった。


 その程度のことで、戦闘地域を限定するか?

 片山は、唖然とした。

 桃源郷の領域内で、ガソリン車の走行さえ良しとしない人々だ。単なる偏屈じゃないだろうか、と勘ぐった。

 これは、戦いなのだ。

 しかも、相手は、黒崎以下凶暴で有名な連中なのだ。こんな見え見えの舗装した県道で戦うなんて言語道断だった。


 向こうは、青年が50人。対するこちらは、中年男が6人(小小野寺博士、小林先生、山道氏、水野氏、中原氏、野中氏)、青年男子は4人(山道兄弟、舜、片山)、戦力として期待できそうな女1人(山道夫人)の併せて11人だ。数から言うと約五倍だ。

 しかも、普通車3台、ワゴン5台、軽トラック2台の計10台のガソリン車に乗って来るのだ。


 これらの情報は、いずれも、健二が盗聴器若しくはスマホの通信を傍受して得たものだ。

 この件に関して、片山は、健二の情報収集のテクニックに脱帽した。

 ただ、情報はそれを活かしてこそ意味がある。単なる収集だけなら、宝の持ち腐れというものだ。

 

 対する桃源郷側は、あの赤い軽四の電気自動車1台と自転車が12台だ。

 戦力が違いすぎる。

 これは、ゲリラ戦しかあり得ない局面だった。

 こんな場合は、杉林の中で、木々に隠れてゲリラ戦を展開するのが、片山の考える正しい(!)戦闘のあり方だった。


 次に唖然としたのは、凛と笹岡を戦力に数えると言う話だ。

 百歩譲って、笹岡はスポーツ万能だ。体育祭やスポーツ大会で、花形なのだ。

 でも、凛は、か弱い女の子だ。バレーボールもまともにできないのだ。

「無茶だ!」

 片山が必死で反対するが、舜まで黙って了解したのだ。

 お前、本当に凛に惚れてるのか?

 そう怒鳴りたくなるほど、とんでもない連中だった。


 当然、片山も戦闘要員の数に入っている。

 こんな負け戦に参加したくない。

 でも、凛でさえ戦おうとしているのだ。逃げるわけにいかなかった。

 あのまま、市民体育館に留まればよかった。と、溜息をついた。



 その次にやったのが、黒崎達をおびき寄せる作戦だ。

 まともにやっても勝てる相手じゃない。

 それなのに、わざわざ赤い電気自動車で迎えに行くことにしたのだ。

 とんでもない話だった。

 黒崎達が県道に来たとき不意打ちを食らわすのなら、まだ分かる。それなのに、馬鹿正直に、町まで呼びに行くと言うのだ。

 非常識の極みだった。


 ことの起こりは、中原氏の娘からの電話だった。

 9月には仕事を辞めて、こっちへ合流するはずだったのに、10月になっても、まだ来ないのだ。

 黒崎達の襲撃が心配される10月10日にやっと連絡があって、13日には行けると言うのだ。

  一同、陽一の顔を見た。

 彼は、平然と言った。

「分かった。駅まで迎えに行く。予定どおり来るよう言ってくれ」

 中原氏が、息を吐いて、その旨を伝える。電話を切って目で訊いた。

「中原さん。申し訳ないが、お嬢さん達には、おとりになってもらう。

 大丈夫。あいつ等、あの進入路を知りたいんだ。県道に入るまで、絶対危害を加えない。

 県道に入ったら、予定通り、戦闘を開始する。

 車は、野中先生に運転してもらって、お嬢さん達を桃源郷に引き取ることにする」


「無茶だ!常識ある戦術家なら、あんたの言う通りかもしれない。

 でも、相手は、黒崎だ。馬鹿なんだ!」

 思わず、片山が叫んだ。

「だから、舜に迎えに行ってもらう。舜なら、上手にあしらう」

 陽一は、平然としたものだ。


「中原さん。それで良いかな?」

 小林先生が確認すると、中原氏が頷いた。


 9月に来れば良いものを。遅くなって、こんなとんでもない時期になった娘達の責任だった。

 でも、合流を先延ばしにすると、彼女達が住んでいる地域で暴動が起きる可能性だってあるのだ。水野氏の娘の二の舞だけは避けたかった。


 陽一が、中原氏に、詳細な連絡をするからと、電話番号を聞き出し中原姉妹と打合せをする。 時々、頷いて、目の光りが鋭くなる。

 戦いが始まるのだ。


 片山は、体中の毛穴から汗が出るのを感じた。

 

 女子供を戦闘に巻き込むなんて。しかも、凛は、女で子供だ。最も戦闘に向かない人だ。


 気が付くと、凛は、山道氏とどこかへ消えてしまった。

 笹岡が水野氏に呼ばれて、機械の操作方法の確認に行った。山道兄弟が作っていた機械を二人で担当することになったのだ。


 他人の心配をしている場合じゃなかった。

 片山は、荷物運びに追われていた。

 舜が駅に出向いて帰って来るおよそ一時間の間に、県道を戦いのための空間に変える必要があるのだ。

 そのためには、進入路の途中に、武器や食料、医薬品なんかを運んでおいて、舜の車が出ると一気に設営しなければならない。

 

 とんでもない話だった。

 

 荷物は、電気自動車か自転車で運ぶ。車の運転ができない片山は、自転車担当だ。

 進入路の監視カメラの近くに運んだ荷物をシートで覆う。水野氏と中原氏または小林先生と山道氏が交代で監視した。


 桃源郷のほとんどの武器は、ここにあるのだ。万一、ここを襲われたら万事休すだ。


「たった二人で大丈夫だろうか?」 

 片山が不安気に言うと、笹岡が胸をたたいた。

「大丈夫よ。片山くんも言ってたじゃない。相手は、黒崎くんよ」

「?」

「馬鹿なのよ。そんなこと、考えるはずないじゃない」


 笹岡は明るかった。


 片山は、体が地面に沈み込むように感じ、女は強い、と思った。



桃源郷の戦いは、非常識です。

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