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桃源郷の日は暮れて  作者: 椿 雅香
44/51

襲撃(1)

18 襲撃


 桃源郷に戻ると、健二が舜に訊いた。

「あれ、付けて来たか?」

「ええ。中継は、城山の少し登った辺りで良かったんですね」

「ああ。じゃあ、早速、やってみよう」

「何付けて来たんですか?」

 片山が首を突っ込む。

「健二さんの指示で、あの市民体育館の入り口入ってすぐの階段横に盗聴器を仕掛けて来たんだ」


 片山が目を剥いた。


「でも盗聴器の受信範囲って、結構狭いんだ。だから、さっきピクニックしたあの場所に中継装置を置いて来たんだ」

「これで、ここに居ながらにして、市民体育館で行われる密議が傍受できるって寸法だ」

 健二がニヤリと笑う。

 しばらく受信機を動かしていたが、雑音の中から会話らしいものが聞こえだした。

「こんなこと、初めてよ。いつになったら、水が引くのかしら……」

「まあまあ落ち着いて、大丈夫。堤防を直して、排水ポンプを全力で動かせば、十日もあれば、何とかなる」

「十日も、このままなの?家があんな状態なのに!」

 女のヒステリックな泣き声が聞こえた。

「悪趣味だ」

 片山が呻いた。

「そう思うか?単なる悪趣味で、こんなことしねえぜ。絶対、襲撃の計画を立てるヤツが出てくる」

 健二の断定に、笹岡が目で訊いた。

「今日、凛ちゃんが、君等に差し入れした。

 で、周りのヤツ等が思い出すんだ。ここが食料のある場所だってことをな。

 しかも、差し入れ持って来るくらいだ。台風の被害も大したことがないんだろうって。

 その動きをいち早く掴むことが、勝敗を分ける」

 健二が受信機を操作しながら説明した。


 「戦いの第一段階は情報収集だ。これを完璧にしないと負ける。負けるってことは、食べ物を奪われて殺されるってことだ」

 途中から現れた陽一が、笑いながら言った。

「戦争映画の見過ぎじゃないですか?」

 片山が憮然とする。

「そう思うか?」

 陽一が鋭く睨む。

「水野のおじさんの娘さんの例がある」

 健二の低い声。

「ここは、日本中の人達から羨望の的になってるんだ」と、舜。

「本当は、差し入れしちゃ駄目って言われてたんだけど、マキのお家の人も、片山くんのお家の人も可哀想だったし、陽一さんが大勢に影響ないって言ってくれたから……」

 凛も小さな声で言った。



 片山は鳥肌が立った。


 桃源郷では、危険に対して敏感でなければならないのだ。でないと、最悪、命を失うことになるのだ。



 笹岡が農園へ出向くと、中原夫人や小林夫人達が大きなシートのようなものから空気を抜きながら片付けている最中だった。


 これが、そのドームなんだろうか。

 とにかく広いシートだ。生地も厚く丈夫なものだ。よく見ると二重になっている。この間に空気を入れて、圧をかけるのだ。すると、台風による風雨がどんなに激しくても、この大きなビニールのイカダがエネルギーをやり過ごし、下の作物に影響を及ぼさないのだ。

 画期的な発明だった。


 これ作るの、大変だったのよ、と、作業をしていた野中夫人が笑った。

 広いシートを縫い上げて空気が入るようにするのだ。真っ直ぐ縫うことさえ難しいのに、空気が漏れないように縫うには、かなりの技術を要するのだろう。


 シートを片付けると、下から野菜の苗がやっと息ができるとばかり、嬉しそうに顔を覗かせた。

 こんな軟弱野菜まで無事だったのだ。

 笹岡には信じられないことだった。


 海水淡水化装置の建物へ行くと、小小野寺博士と山道氏が、機械のチェックをしていた。これも、あの暴風雨の中、無事だったようだ。


 凛を捜すと、舜と一緒に風車ガーランドの基幹のチェックに行ったようで、建物にはいなかった。


 ここの人達は、よく働く。笹岡は、しみじみ感心した。




「ビンゴ!」

 夕食も盗聴器の受信装置の脇で食べていた健二が叫んだ。


 一同、慌てて健二の側へ行く。

 聞いたことのある声が、とんでもない相談をしていた。


「……ババアのヤツ、大喜びだ。

 今時、米のにぎりめしにありつけたってな。涙流してやんの。

 もったいねえ。

 あんな、老い先短いババアに食わせるくらいなら、俺達、前途ある若者こそ、食うべきだ」

「やっぱり、あそこにゃ、米があるんだ」

「米だけじゃねえぜ。野菜も、肉も、フルーツもある」

「黒崎。何で知ってるんだ?」

「小野寺の弁当だ。あいつの弁当、芸術品だ。でもって、今時手に入らないもんのオンパレードだ」

「何か、ツテでもあるんだろうか?」

「いや、あそこには、そんなもんが育つんだ。日本中が干上がっても、あそこは無事なんだ」

「桃源郷か?」

「あの雑誌の記事、読んだか?」

「あれ、小野寺博士のことだろ?」

「ああ。決まってる。あのエッセイストは知らねえんだ。でも、俺達ゃ知ってる。

 小野寺が住んでる山辺集落が、ズバリ!桃源郷だ」

「桃の花咲く、豊かな土地……か」

「食いもんがいっぱいある」

「あいつらだけ、いい目してるんだ。これは、不公平ってもんだぜ」

「世の中が大変な時なんだ。みんなで助け合わなきゃならねえんだ」

「分けていただこう」

「どうやって?」

「向こうが、協力的じゃないんだ。多少の暴力もやむを得ないってもんだ。

 これだけ全国的に暴動が起きてるんだ。死体が10や20増えたって分かりゃしないさ」


 ざわざわと騒がしい音がして、「きゃーおにぎりの炊き出しだわ!」という声が交じる。県の災害対策本部から、備蓄米を使ったおにぎりの炊き出しでもあったのだろう。

 人々の歓声が上がり、密談が聞き取れなくなった。


「ビンゴ!」

夕食も盗聴器の受信装置の脇で食べていた健二が叫んだ。

一同、慌てて健二の側へ行く。聞いたことのある声が、とんでもない相談をしていた。

「……ババアのヤツ、大喜びだ。今時、米のにぎりめしにありつけたってな。涙流してやんの。

もったいねえ。

あんな、老い先短いババアに食わせるくらいなら、俺達、前途ある若者こそ、食うべきだ」

「やっぱり、あそこにゃ、米があったんだ」

「米だけじゃねえぜ。野菜も、肉も、フルーツもある」

「黒崎。何で知ってるんだ?」

「小野寺の弁当だ。あいつの弁当、芸術品だ。でもって、今時手に入らないもんのオンパレードだ」

「何か、ツテでもあるんだろうか?」

「いや、あそこには、そんなもんが育つんだ。日本中が干上がっても、あそこは無事なんだ」

「桃源郷か?」

「あの雑誌の記事、読んだか?」

「あれ、小野寺博士のことだろ?」

「ああ。決まってる。あのエッセイストは知らねえんだ。でも、俺達ゃ知ってる。小野寺が住んでる山辺集落が、ズバリ!桃源郷だ」

「桃の花咲く、豊かな土地……か」

「食いもんがいっぱいある」

「あいつらだけ、いい目してるんだ。これは、不公平ってもんだぜ」

「世の中が大変な時なんだ。みんなで助け合わなきゃならねえんだ」

「分けていただこう」

「どうやって?」

「向こうが、協力的じゃないんだ。多少の暴力もやむを得ないってもんだ。これだけ全国的に暴動が起きてるんだ。死体が10や20増えたって分かりゃしないさ」

ざわざわと騒がしい音がして、「きゃーおにぎりの炊き出しだわ!」という声が交じる。県の災害対策本部から、備蓄米を使ったおにぎりの炊き出しでもあったのだろう。

人々の歓声が上がり、密談が聞き取れなくなった。


「ビンゴ!」

夕食も盗聴器の受信装置の脇で食べていた健二が叫んだ。

一同、慌てて健二の側へ行く。聞いたことのある声が、とんでもない相談をしていた。

「……ババアのヤツ、大喜びだ。今時、米のにぎりめしにありつけたってな。涙流してやんの。

もったいねえ。

あんな、老い先短いババアに食わせるくらいなら、俺達、前途ある若者こそ、食うべきだ」

「やっぱり、あそこにゃ、米があったんだ」

「米だけじゃねえぜ。野菜も、肉も、フルーツもある」

「黒崎。何で知ってるんだ?」

「小野寺の弁当だ。あいつの弁当、芸術品だ。でもって、今時手に入らないもんのオンパレードだ」

「何か、ツテでもあるんだろうか?」

「いや、あそこには、そんなもんが育つんだ。日本中が干上がっても、あそこは無事なんだ」

「桃源郷か?」

「あの雑誌の記事、読んだか?」

「あれ、小野寺博士のことだろ?」

「ああ。決まってる。あのエッセイストは知らねえんだ。でも、俺達ゃ知ってる。小野寺が住んでる山辺集落が、ズバリ!桃源郷だ」

「桃の花咲く、豊かな土地……か」

「食いもんがいっぱいある」

「あいつらだけ、いい目してるんだ。これは、不公平ってもんだぜ」

「世の中が大変な時なんだ。みんなで助け合わなきゃならねえんだ」

「分けていただこう」

「どうやって?」

「向こうが、協力的じゃないんだ。多少の暴力もやむを得ないってもんだ。これだけ全国的に暴動が起きてるんだ。死体が10や20増えたって分かりゃしないさ」

ざわざわと騒がしい音がして、「きゃーおにぎりの炊き出しだわ!」という声が交じる。県の災害対策本部から、備蓄米を使ったおにぎりの炊き出しでもあったのだろう。

人々の歓声が上がり、密談が聞き取れなくなった。




「黒崎……くん」

 陽一が訊いた。

「凛ちゃん、知ってるのか?」

「うん。凛のお弁当取りあげようとした子なの」

「それで、知ってるってわけか。そいつが首謀者ってことは……」

 陽一が誘導すると、笹岡が答える。

「多分、高校生の集団になると思うわ。あいつ、番長格だから」

「グループの規模は?」

「30人ほどいたわ。でも、この情勢なら、もっと増えてるかも」

 さすが、笹岡だ。高校関係の情報はバッチリだ。

「知り合いに、丸暴の舎弟がいるって言ってなかったか?」

 片山が思い出して確認する。片山の情報網も負けていない。


「面白いじゃねえか。対策を練る!健二、傍受続行だ」


 陽一が毅然と立ち上がって、指揮権を求めた。


「小野寺博士、戦闘は俺が指揮して良いですか?」


 居合わせた全員が、小小野寺博士を見た。みな、陽一が司令官となることを望んでいた。

 ところが、小小野寺博士が口を開く前に、珍しく居合わせた大小野寺博士が平然と言った。


「任せる。

 多少怪我人が出てもやむを得ん。ただし、ここの秘密は厳守すること、構成メンバーの命を守ることを最優先に頼む」


 

 一同、大小野寺博士の顔をまじまじと見た。この人が、戦闘を良しとするなんて。

 最も世俗に遠い存在だと思われていたのに。


 陽一を含めて全員、あんぐりと口を開けて馬鹿みたいだ。


「桃源郷を作った時から、こういうことが起こることは、予想しとったんじゃ。戦うときにゃ、戦わにゃならん。山道陽一くん、君を戦闘責任者に任命する」


 

 我に返った陽一が、軍事マニアの見本のような敬礼をした。


「光栄です!では、作戦会議を始めます!」




いよいよ襲撃事件です。桃源郷は、襲撃に備えることになります。

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