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桃源郷の日は暮れて  作者: 椿 雅香
40/51

台風の襲来(1)

これも長いので分けます。

17 台風の襲来


 「例の台風が来てる」

 小林先生が画面を見ながら言った。

「こっちへ来そうか?」

 山道氏が、顎をさすりながら顔を寄せる。

「嫌な動きだな。気象庁のホームページだけじゃ何から、水野さん、データ取って来て、ウチのコンピューターで予想立ててくれ」

 小小野寺博士が言った。

「台風って9月のもんだろ?まだ来るのか?」

 中原氏が横から口を出す。

「自然のリズムが狂って来てるんだ。去年は、12月にも来た」と、小林先生。

「これは、こっちへ来ないと思ってたんだけど……」

 水野氏が笑いながら気象庁の台風のデータを取る。ついでに、中国、韓国、台湾等近隣諸国からデータをいただいて、桃源郷の誇るスーパーコンピューターに放り込んだ。

 後は、結果をご覧じろ、だ。


 しばらくして、水野氏が頭を抱えた。

「アチャー、真正面だ。まともにぶち当たる」

 小小野寺博士、小林先生、山道氏、中原氏も蒼白になった。


 急遽、桃源郷台風対策本部が立ち上げられた。


 この付近を通るのは、明日の15時頃だ。

 

 小林先生は、息子に至急、桃源郷に戻って来るよう命じ、高校の図書室で、凛や笹岡と合流するよう指示した。


 中原夫人は、慌てて、小林夫人や水野夫人それに野中夫人に頼んで、リンゴやミカンの収穫を急ぐ。この際、多少熟し方に不満があっても、さっさと収穫してしまった方が良い。風で飛ばされて、食べられなくなるよりマシというものだった。

 柿や梨が終わった後でよかったわ。四人は、そう言いながら作業に追われた。


 「風車ガーランドの強度は、どのぐらいなんだろう?」

 小林先生が尋ねると、小野寺博士が答えた。

「凛の計算では、風速50メートルに対応できるようになっているらしい。いずれにしろ、対策を講じないと。凛が帰って来次第、会議を開こう」

「大潮との関係で、堤防が決壊するおそれがあります」

 中原氏が指摘する。

「浸水被害が出そうなのは、どの辺りだ?町の地図と重ねてみてくれ」

 小小野寺博士の指示で、水野氏が町の地図上にゼロメートル地帯を呼び出す。

「それだけじゃない。大潮で堤防が決壊すると、下手すると海抜80センチ以上海面が上昇することになる。

 水野、その辺も地図に出ないか?」

 小林先生が要求する。

「注文の多いことだ」

 水野氏がどこからか、10センチごとの等高線の地図を引っ張り出して重ねた。


「町の中心部は、ほとんど、水没するぞ」

 山道氏が驚愕した。

「って言うか、浸水被害が出るってことだ。

 いいか、水没ってのは消えてなくなることだ。大丈夫。屋根ぐらいは出てる」

 水野氏はやけくそだ。

「翔くんの家やマキちゃんの家は、どうなる?」

「駄目だ。中心部です。水没する」

 中原氏が地図を見ながら呻いた。


 凛の祖父である大小野寺博士の研究が実を結ぶ前に、地球温暖化による被害が拡大した場合、海面が上昇しゼロメートル地帯が増えることになる。

 近年の海面の上昇は、以前、予測されたペースより速くなっていた。

 漁師でハッカーの水野氏が、各国の研究機関から、海面上昇のデータを集めて、凛の父である小小野寺博士が分析した結果、10年前に各国でシミュレーションしたデータより、三割方海面上昇のペースが速まっていることが分かった。

 

 異常気象によって頻発する集中豪雨があると、家々が簡単に浸水した。

 ここ数年、世界中で毎年三~四箇所大洪水があり、日本でも毎年二~三箇所、集中豪雨や台風による浸水が生じていた。

 人々は家を建てる際、思いっきり基礎を高くするのが主流となった。豪雪地帯の家が、積雪時、二階から出入りするが、あれと同じような感じだ。

 一階部分は駐車場か倉庫にあて、生活に必要な部分は二階以上に置くのだ。万一、住んでいる地域が浸水しても、生活に必要なスペースの被害を免れるようにするためだ。


 また、天井川が増え、浄化した下水を海に流す際、ポンプアップする必要が生じた。

 各国の臨海地域には、オランダの干拓地帯のような堤防を作り、その補修や管理に多額の費用がかかるようになった。しかも、異常気象によって、超大型の台風やハリケーン、それに竜巻が頻発し、それらに襲われると、虎の子の堤防が決壊するのだ。

 耕地に海水が流れ込んで、食料の生産量が激減した。


 そんな中、桃源郷を含むこの地方一帯が、まともに台風の直撃を受けることになったのだ。



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