台風の襲来(1)
これも長いので分けます。
17 台風の襲来
「例の台風が来てる」
小林先生が画面を見ながら言った。
「こっちへ来そうか?」
山道氏が、顎をさすりながら顔を寄せる。
「嫌な動きだな。気象庁のホームページだけじゃ何から、水野さん、データ取って来て、ウチのコンピューターで予想立ててくれ」
小小野寺博士が言った。
「台風って9月のもんだろ?まだ来るのか?」
中原氏が横から口を出す。
「自然のリズムが狂って来てるんだ。去年は、12月にも来た」と、小林先生。
「これは、こっちへ来ないと思ってたんだけど……」
水野氏が笑いながら気象庁の台風のデータを取る。ついでに、中国、韓国、台湾等近隣諸国からデータをいただいて、桃源郷の誇るスーパーコンピューターに放り込んだ。
後は、結果をご覧じろ、だ。
しばらくして、水野氏が頭を抱えた。
「アチャー、真正面だ。まともにぶち当たる」
小小野寺博士、小林先生、山道氏、中原氏も蒼白になった。
急遽、桃源郷台風対策本部が立ち上げられた。
この付近を通るのは、明日の15時頃だ。
小林先生は、息子に至急、桃源郷に戻って来るよう命じ、高校の図書室で、凛や笹岡と合流するよう指示した。
中原夫人は、慌てて、小林夫人や水野夫人それに野中夫人に頼んで、リンゴやミカンの収穫を急ぐ。この際、多少熟し方に不満があっても、さっさと収穫してしまった方が良い。風で飛ばされて、食べられなくなるよりマシというものだった。
柿や梨が終わった後でよかったわ。四人は、そう言いながら作業に追われた。
「風車ガーランドの強度は、どのぐらいなんだろう?」
小林先生が尋ねると、小野寺博士が答えた。
「凛の計算では、風速50メートルに対応できるようになっているらしい。いずれにしろ、対策を講じないと。凛が帰って来次第、会議を開こう」
「大潮との関係で、堤防が決壊するおそれがあります」
中原氏が指摘する。
「浸水被害が出そうなのは、どの辺りだ?町の地図と重ねてみてくれ」
小小野寺博士の指示で、水野氏が町の地図上にゼロメートル地帯を呼び出す。
「それだけじゃない。大潮で堤防が決壊すると、下手すると海抜80センチ以上海面が上昇することになる。
水野、その辺も地図に出ないか?」
小林先生が要求する。
「注文の多いことだ」
水野氏がどこからか、10センチごとの等高線の地図を引っ張り出して重ねた。
「町の中心部は、ほとんど、水没するぞ」
山道氏が驚愕した。
「って言うか、浸水被害が出るってことだ。
いいか、水没ってのは消えてなくなることだ。大丈夫。屋根ぐらいは出てる」
水野氏はやけくそだ。
「翔くんの家やマキちゃんの家は、どうなる?」
「駄目だ。中心部です。水没する」
中原氏が地図を見ながら呻いた。
凛の祖父である大小野寺博士の研究が実を結ぶ前に、地球温暖化による被害が拡大した場合、海面が上昇しゼロメートル地帯が増えることになる。
近年の海面の上昇は、以前、予測されたペースより速くなっていた。
漁師でハッカーの水野氏が、各国の研究機関から、海面上昇のデータを集めて、凛の父である小小野寺博士が分析した結果、10年前に各国でシミュレーションしたデータより、三割方海面上昇のペースが速まっていることが分かった。
異常気象によって頻発する集中豪雨があると、家々が簡単に浸水した。
ここ数年、世界中で毎年三~四箇所大洪水があり、日本でも毎年二~三箇所、集中豪雨や台風による浸水が生じていた。
人々は家を建てる際、思いっきり基礎を高くするのが主流となった。豪雪地帯の家が、積雪時、二階から出入りするが、あれと同じような感じだ。
一階部分は駐車場か倉庫にあて、生活に必要な部分は二階以上に置くのだ。万一、住んでいる地域が浸水しても、生活に必要なスペースの被害を免れるようにするためだ。
また、天井川が増え、浄化した下水を海に流す際、ポンプアップする必要が生じた。
各国の臨海地域には、オランダの干拓地帯のような堤防を作り、その補修や管理に多額の費用がかかるようになった。しかも、異常気象によって、超大型の台風やハリケーン、それに竜巻が頻発し、それらに襲われると、虎の子の堤防が決壊するのだ。
耕地に海水が流れ込んで、食料の生産量が激減した。
そんな中、桃源郷を含むこの地方一帯が、まともに台風の直撃を受けることになったのだ。




