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桃源郷の日は暮れて  作者: 椿 雅香
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初めての学校

凛の初めての学校生活です。

3 初めての学校


 入学式が終わって、凛の高校生活が始まった。


 これが、町の高校だ。


 凛は同年代の少年少女と集団生活を送るのは、初めてだ。いや、それ以前に、同世代の少年少女の集団を見るのも初めてなのだ。しかも、この大人数。

 集落には、四十代、五十代のおじさんおばさんばかりだし、人口は15人しかいない。

 それに対して、高校は、一学年240人、それが三学年もある。生徒だけで720人はいるのだ。 これに数十人の教師がいる。その数に圧倒された。

 そういえば、入試のときも、受験生の数に圧倒されて、あがってしまったことを思い出す。でも、これからが、本番なのだ。凛は、これから三年間、ここに通わなければならないのだ。


 とりあえず、慣れないと……。


 最初に、周りの生徒達を観察した。

 テレビの影響だろうか。女の子は、どの子も髪をきれいにカットして茶色に染めている。

 生徒指導の先生が、「我が校では、茶髪は禁止だから、見つけ次第、黒染めしてもらう!」と、声を張り上げていた。

 先生の指導は、無視するんだ。と、感心した。

 良くも悪くも、集団生活の初体験だ。周りの生徒が教師の指導にどう対応するのか、そこから知る必要があった。


 わざわざ染めなくても、凛の髪は少し茶色っぽい。これが見事に癖毛なのだ。耳の辺りまではなんとか真っ直ぐなのだが、それから先はクルクルして収拾がつかいない。ふわふわした髪は農作業の邪魔になるから、と、凛は背中まである髪をお下げにしている。

 他の女子高生から見れば、野暮ったさの極みだろう。


 集団で教育を受けるのも初めてで、新鮮な感動があった。


 先生が、黒板の前で、授業の内容を話し時々板書する。それを生徒が、せっせと書き写す。パワーポイントの場合もあるが、それだって、ノートやプリントに書き写すという作業に繋がる。

 こういうやり方が普通なんだ。と、納得する凛だった。

 教えられる内容は、知っていることが多かった。集落で唯一の教師である野中夫妻は、文部科学省の指導要綱なんか全く無視して凛の教育を行ったのだ。

 先に教科書を購入して、ザッと目を通した時、凛は、あの二人が高校の内容まで教えてくれていたことを知った。


 凛は、科学者であるおじいちゃんや両親の研究を手伝うため、理工系の学部を目指すよう求められていて、数学や理科に重点を置いてくれていたのだが、あの二人が中学生に微積まで教えていたなんて、と、教科書を見て絶句した。


 町の高校の指導方法に新鮮さを感じたこともあって、授業は面白かった。

 問題は、休み時間だ。


 女の子達は、テレビドラマの話や、タレントの話に花を咲かせるのだ。

 凛の家では滅多にテレビを付けない。ニュースを見るために付けて、終わると消してしまう。テレビを付けっぱなしにすると、貴重なエネルギーが無駄になるからだ。集落の人達の中には、パソコンでニュースを見るので、テレビを見ない人もいるくらいだ。従って、誰も昼間からワイドショーなんか見ない。先に、大きな地震があった時も、夜のニュースでそれを知ったほどだ。


 こんな凛だから、休み時間や昼の休憩では、もっぱら聞き役に回る。周りの女の子は、凛のことを無口な子だと思っただろう。

 でも、「集落のことを、他人に言うな」という、重要な守秘義務があるのだ。結局のところ、無口な子で片付けられる方が、楽だった。



 高校に慣れた頃、中間テストがあった。凛は、優秀な成績をおさめた。野中夫妻の指導が良かったのだろう。周りに大差を付けてのトップだった。担任は大喜びだ。


 中間テストの成績が良すぎたからだろうか。周りの見る目が変わった。


 以前は、山間の集落から来ている野暮ったい子、という扱いだった。でも、中間テストの後は、無口だが成績優秀な子と、少し遠くから見るような感じになった。


 同世代との付き合い方が分からない凛には、よく分からない展開だった。でも、あんまりまとわりつかれて、「昨日のドラマ見なかったって、あなたって変人ねえ」と、呆れられるより、「どうせ、ドラマも見ないで勉強してたんでしょ?」と、言われて煙たがられる方が楽かも知れない。と、納得した。

 毎日夕方7時に、高校の正門前に山道夫人が迎えに来た。山道夫人は、小林先生の息子も、こうやって毎日送り迎えしたのだ。

 町の様子や高校の様子がよく分からない凛にとって、山道夫人が送り迎えしてくれるのは、ありがたかった。いかにも腹に一物あるような生徒が、声をかけて来たりしたからだ。そういう生徒には夫人の殺気が通じるようで、一睨みで退散した。

 7時まで学校の図書室で宿題をしたり予習や復習をしたりして時間を潰す。だんだん定席が決まってきて、いつも、入ってすぐの窓際の席に座るようになった。




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