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桃源郷の日は暮れて  作者: 椿 雅香
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裏切り(3)

 打合せが終わったリビングでは、一同、溜息をついた。

 この集落では、ここ12年というもの、ガソリン車が走ったことはない。そもそも、秋に落ち葉を集めてたき火をするぐらいしか、二酸化炭素を発生させないのだ。

 集落内をガソリン車が走る。

 歴史的な大事件だった。


 気を取り直して、水野氏が宅配業者のコンピューターにハッキングを仕掛ける。

 

 宅配業者のコンピューターなんか、ちょろいもんだぜ。

 水野氏が笑う。


 水野氏だけじゃなく山道氏や中原氏も、目を皿のようにして画面を見つめた。

 こちらの配送センターから送り出す時も、向こうの配送センターに届いてからも、荷物の動きに不自然なところはない。

 そうして、最後に、水野氏の娘が受け取りの認めを押したことが確認されている。

 つまり、どこにも異常がないのだ。

 宅配業者の従業員の作為が感じられた。認め印なんか簡単に偽造できるし、サインに至っては、適当に似せて書けば良いのだ。


 由々しきことだ。誰かが、意識的に伝票を操作している。宅配業者の従業員の職業意識が低下しているのだ。

 

 暴動なんかが勃発する前兆じゃないだろうか。


 水野氏、山道氏、中原氏の三人は、できるだけ早く子供達を呼び寄せた方が良い、と勧められた。



 凛は大人達を見ていた。

 いつもの八畳に早苗がいるのだ。戻りたくなかった。


「凛、お前は、もう寝なさい」

 小小野寺博士が促した。

「今日は、凛、お部屋で寝て良いかしら?」

 凛が小さな声で言うと、水野氏が笑いながら凛を抱き上げた。

「俺が、マキちゃんに言っといてやるよ。浮気もんの舜のことは、気にするな。あれは、翔の姉貴が勝手に逆上せてるだけだ」


 凛は涙ぐんでいる。

 早苗の存在が悲しいだけじゃない。舜の足手まといにしかならない自分が情けないのだ。

 水野氏は凛の涙に気が付かない振りをして凛の背中を優しく叩いた。

 凛がトボトボと帰って行った。 


 八畳間の入り口に水野氏が現れて、凛は自分の部屋で寝ると伝えると、早苗は声に出さずに快哉をあげた。


 勝った。あの子は、自ら白旗を掲げたのだ。


 舜を手に入れるのは、時間の問題だった。


 笹岡は、水野氏に礼を言うと、隣の六畳の襖をたたき片山を外へ連れ出した。


 「片山くん。あなた、一体、どうするつもり?」

「どうするつもりって?」

「あなたのお姉さんのことよ」

「姉貴は、舜に惚れてるんだ。俺が、小野寺さん、いや、凛をゲットすれば、自分が舜と結婚できるって、前から頼まれてたんだ」

「凛は、舜さんのことが好きだわ」

「舜は、凛とだけ付き合ってたわけじゃないんだ。姉貴とも付き合ってたし、他にも何人かと付き合ったって噂だ」

「でも、舜さんは、凛のことが一番好きだわ」

「見解の相違だ」

「大体、あんた達姉弟は、何やってんの?あんたは、凛のこと苦しめただけだし、あんたのお姉さんに至っては、二人の邪魔しに来たって感じだわ」

「感じじゃない。そのまんまだ。姉貴は、邪魔しに来たんだ。

 そうか!不貞を働くのは凛じゃなくても良いんだ。舜でも良いってことか。それで、めでたく婚約破棄になるんだ」

「何馬鹿なこと言ってるのよ。何とか止めてよ。あのままじゃ、凛が可哀想でしょ?」

「舜が悪いんだ。舜が、姉貴や他の女と付き合ったりして、姉貴が熱を上げるように仕向けたから、こんなことになったんだ」

「片山くん。言いたくないけど、前にあなたのこと、ちょっとでも好きだって思ったこと、こんなに後悔したことはないわ」


 片山が唖然とした。


「笹岡さん、君、そこまで言うか?」

「だって、そうじゃない。あなた、凛の不幸を喜んでる」

「姉貴が頑張れば、俺は凛をゲットできるんだ。頑張ってもらいたいよ」


 今度は、笹岡が目を剥いた。


「確かに、最初の頃は、彼女が好きだったわけじゃない。

 でも、舜が現れて、図書室に彼女がいなくなって初めて、俺は彼女のことを好きになってたことに気が付いたんだ。

 そうじゃなきゃ、ここまで追いかけて来ない!」

「傍迷惑もいいところだわ。あなたなら、より取り見どりのはずでしょ?」

「でも、俺は凛が良い。笹岡さんだって言ってたじゃないか。ものすごく反応が変で、そのくせ可愛いんだ」


 駄目だ。こりゃ。

 笹岡は、頭を抱えた。



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