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桃源郷の日は暮れて  作者: 椿 雅香
22/51

風車ガーランド(4)



 翌日からの作業は、順調だった。

 集落の人々は、ベルガーランドのような装置のことを風車ガーランドと呼んでいた。みんな考えることは同じなのだ。

 1台のドローンで5分に1本のペースで設置する。ドローンは3台あるので、一時間におよそ36本設置できることになる。だんだん熟練してペースが上がる片山と笹岡は大活躍で、どうかすると一時間に20本近く設置しすることができた。

 片山が驚いたことに、朝7時から作業を始め、9時頃休憩時間があった。そのとき、近頃では珍しい冷たく冷やした紅茶が出た。水野夫人のお手製のクッキーまでついていて、片山は、最近甘いお菓子と縁遠かったことを思い出した。

 水野夫人は、夏の作業は汗をかくから、こういう少し塩味を利かせたお菓子は体に良いのだと言い、片山にもたくさん食べるよう言ってくれた。

 15分ほどの休憩の後で、作業を再開し、12時過ぎに昼休み入る。

 昼休みには、片山が近頃口にしたことのないような本格的な弁当が出た。

 食べやすいように、ご飯はおにぎりになっていたが、おかずとして、煮物、焼き物、和え物といったものが出たのだ。昨夜の夕ご飯も素晴らしかった。でも、昼まで、こんなに豪華な弁当が出るのだ。あまりのすばらしさに箸を持つ手が止まると、水野夫人が優しく促した。

「午後も頑張ってもらわないといけないんだから、しっかり食べてね。それとも、お口に合わなかったかしら?」

「いえ、おいしいです」

片山は、慌てて、頭を下げた。

 噂どおり、水野夫人の料理は絶品で、片山の母のそれより数段上だと思われた。

「遠慮しないで、さっさと食べて、終わったら、バレー付き合ってくれ」

 舜が言うので、昨日の約束を思い出した。

 そうだった。凛のバレーの練習に付き合ってくれと言われていたのだ。遠慮している暇はなかった。

 バレーの練習とは、円陣パスのことだった。凛、舜、笹岡の他に、水野氏、山道氏、山道夫人、中原氏、中原夫人が円陣を組んで、数を数えながらオーバーパスで続ける。

 凛は楽しそうに数を数え、ボールが来ると必死になってパスした。一生懸命で、可愛らしい。

 片山も結構上手にパスしたので、凛が「片山くん、上手なんだ」と、意外そうに言う。

「体育でやるから」

 当然のように答えると、初めて気が付いたのだろう。

「舜くん、体育、困らなかった?」と、真面目に訊いた。

「僕も困った。でも、僕の場合は、ウチに帰ると凛ちゃんがいてくれたから」

「おーおー。ごちそうさま。付き合ってらんねえぜ」

 水野氏が言い、片山も、勝手にのろけてくれ!と、いう気分だ。

 凛は、上手くできると、嬉しそうに顔を紅潮させた。

「OK!凛、上手くなったよ」

 笹岡が褒める。

「よかったよ」と、舜。

 山道夫人や中原夫人も、上手になったじゃない、マキちゃんの教え方が上手なのね、と、笑う。

 決して上手とは言えない凛が必死でやっているのだ。片山も何となく必死になって、こんなことに夢中になったのは何年ぶりだろう、と思った。

 1時になって昼寝の時間があった。ここで、少し寝ておかないと、午後の作業能率が落ちるというのだ。

 あのバレーの後だ。興奮状態で眠れない。

 水野氏が、「別に寝なくていいんだ。午後の作業のために体を休めておくんだ」と、言った。

 凛は、名残惜しそうにボールを弄んでいたが、舜に促されて傍らに寝そべる。気が付くと、舜の側で寝入っていた。

 舜は、あの風車ガーランドを発明したのは凛だ、と言っていた。あの数学の満点もすごかった。

 それなのに、こんな場面で見せる幼い表情が可愛らしくて、舜が姉を振って凛を選んだ理由が分かるような気がした。


 体を揺すられて起こされる。作業の再開だ。午前中だけで、200本ほど設置したのだ。午後も頑張ろう。頑張って、ドローンの操縦の腕を集落の人達、とりわけ凛に認めてもらいたかった。少なくとも、舜に負けたくなかった。

 午後は、中原氏とチームを組んだ。山道夫人が、町の道場に稽古に行くので、ついでに家から宿題や着替えなんかを持って来てもらうよう頼む。

 舜は、小林先生とチームを組んでいる。向こうのチームでは、笹岡が大活躍だ。

 3時のお茶で、西瓜が出た。今時、貴重品だ。

 たくさんあるから召し上がれ。水野夫人が勧めて、片山はがっついた。

 お茶が終わると、気がついた。笹岡がドローンの操縦から外れて、代わりに水野氏が操縦していた。

 片山は、笹岡がどこへ消えたのか気になった。そういえば、午後から凛の姿を見ていない。仕事が変わったのだろうか。

 午後からチームを組んでいた中原氏が、面白そうに言った。

「気になるのか?片山くん。作業分担は、その都度変わるんだ。君は自分の仕事に集中してくれれば良いんだ」

 そうだった。

 片山に求められているのは、ドローンの操縦だ。他人の仕事に興味を持つのは、10年早いのだ。


 夕方7時で作業が終わった。片山は、今日一日で500本ほど設置した。じゃあ、自分が来るまでの五日間で、2,000本以上設置したんだろうか。

 密かに計算して、その数の膨大なことに気が遠くなった。

 後、二週間――14日ある。1日500本として、あと7,000本は設置できる。これまでの分と併せて9,000本だ。この集落の周りに杉が何本あるか知らない。でも、このまま行くと、ほとんどの杉に風車ガーランドが設置されることになるだろう。

 凛や山道氏は、設置を片山達に任せて、風車ガーランドを作っているようだ。そりゃそうだろう。大量の風車ガーランドが必要になるのだ。

 凛は、夜も、勉強もそこそこに寝る間も惜しんで風車ガーランドを作っている。学校で数学の時間に居眠りをしたのは、これを作っていたからだ。集落の人々は、凛の努力を知っているから一目置くのだ。

 そういえば……片山は、思い出した。期末テストの時、凛を待っていた舜が、車の中で何か作業をしていた。これを作っていたのだ。

 

 この集落に食べ物があるのは、単に運が良かっただけじゃない。こういう努力をしているから、最近の水不足食料不足でも豊かな水や食料に恵まれているのだ。

 風車モジュールが作る電気の量は膨大なものになるだろう。そうして、その電気によって作られる水も大量なものになるのだ。

 町では日照りに苦しんでいるというのに、ここの人々は、この豊かな水を使って西瓜やイチジクといった果物まで作っている。聞くと、果樹園にいろいろな果物を栽培していて、笹岡が消えたのは、それらの果物の手入れや収穫の手伝いに呼ばれたのだという。


 笹岡は引っ張りだこだ。

 仕事が速くて丁寧だというのだ。何より、明るく竹を割ったような性格が気に入られたようで、みんなが、マキちゃん、マキちゃん、と呼んで可愛がっていた。

 みんなに頼りにされて、笹岡も嬉しいのだろう。楽しそうに走り回っていた。


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