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桃源郷の日は暮れて  作者: 椿 雅香
19/51

風車ガーランド(1)

長くなったので、分けます。

12 風車ガーランド


 遠くで、バリバリという音がした。

 

 機械の音だ。音を目指して歩くと、人の声が聞こえた。


 「もっと、上、上の方からぐるっと回すの」

女の声だ。

「横から口を出すな!手元が狂う!大体、杉の木が密集してて、クリスマスツリーのように一本だけ立ってるわけじゃねえんだ!」

男が吠えた。

「文句言ってる暇に、頑張って操縦してよ」

女が笑う。

 バリバリという音はドローンだ。木の周りを飛び回って、所々に何かを取り付けたロープ状のものを巻き付けている。まるでクリスマスツリーのベルガーランド(ベルが等間隔でついた飾りのチェーン)のようだ。

「何だ?あれ?」

 片山が目を丸くする。

 見ると、ドローンは、向こうの方でも2機ほど飛んでいる。どうやら、何かの作業のようだ。 作業といっても、何のために杉をクリスマスツリーのように飾るんだろう。

 

 呆然と立ち尽くしていると、こちらへやって来た女が片山に気が付いた。


「あなた……確か、片山くんじゃない?」

格闘家の山道夫人だった。

 山道夫人の声が聞こえたのだろう。ドローンを操縦していた男が、こちらを振り向いた。長い髪を首の後で括って、バンダナを鉢巻き代わりにしている。ジロリと睨まれると、視線で体が動けなくなった。見たことのない鋭さだ。

「誰だ?」

ドスの利いた声だ。

「……か、片山です。……お、小野寺さんの友達」

やっとのことで言う。

「正しくは一方的に熱を上げてる男ですって、言えば?」

山道夫人が意地悪く笑った。

「どうやって来た?」

「あ、歩いて」

「あの装置壊れたかな……」

独り言を言う。

「いえ、あの3Dの映像でしたら、ちゃんと機能してました。当たりをつけて、杉の裏側を調べてみたんです。そしたら、轍の跡があったから……」

「大したヤツだ。

 おい、師範。本部の小小野寺博士と小林先生に連絡しろ。

 どうするか、決まるまで、ここにいてもらう」

「分かったわ」

 山道夫人は、スマホを取り出して電話する。圏外のはずなのに、普通に通じるようで驚いた。衛星通信になってるんだろうか。


 「……ええ、舜くんの恋敵。凛ちゃんやマキちゃんのこと追っかけて来たんじゃないかしら。

 さあ、悪い子じゃないと思うんだけど、何せ、好奇心がありすぎるの。

 参ったわ……。

 ええ、そうね。今からじゃね。もう、4時過ぎてるし。

 それに、どっちにしろ、あの脇道を自分で乗り越えて来たんだから……ええ、私もそう思うわ……この際だからって?まあまあ、先生もおっしゃるのね。舜くんが、聞いたら激怒するんじゃない?

 じゃあ、ドローン、頼んで見るわ……分かりました。もし、彼にできるようなら、ウチの人にそっちへ行ってもらいます」

 そう言って電話を切った。


 山道夫人は、ニヤリと笑って片山に訊いた。

「片山くん。君、ドローン動かせる?」

「少しなら」

「じゃあ、やってみてくれない?ウチの亭主、ウサギや鴨を捕るのは上手なんだけど、どうもあんなちっちゃい機械動かすの得意じゃないみたい。もし上手なら、ウチの集落でバイトに雇っても良いって話よ」

 

 格闘家の山道夫人のご主人なんだろう。バンダナ男が憮然としている。

 

 片山はドローンの操縦をしてみた。

 やってみると、山道氏よりズッと上手なことが分かった。

「上手じゃない!」

 山道夫人が嬉しそうにはしゃぐ。

「当然だ。こいつが、こんなので遊んでいたのは、俺がこんなので遊んでいた頃よりずっと最近なんだ」


(俺は、こんな高価なもん買ってもらったことないって)


 片山の思いと裏腹に山道夫人は勝手に盛り上がる。


 山道氏が面白くなさそうに言った。

「じゃあ、師範。俺は、小小野寺博士と合流する。後15、6本ぐらいは、いけそうだな。持って来てやるよ」


 この日、片山は、20本ほどの杉に例のロープを巻き付けた。ロープの端は両方とも杉の木の下に垂らしておくように、杉が密集していて、隣の木との隙間がないようなら、その二本にまとめて巻き付けるように、との指示だ。

 そうやって、たくさんのロープを杉の木に巻き付けることが求められた。

 何度かやっていると、熟練してスピードアップした。山道夫人は大喜びだ。

 目的が分からないにしても、作業効率が目に見えるのだ。何となく嬉しくなった。

 途中で、追加のロープを運んで来た山道氏も片山の作業に満足して、

「若いヤツは上手だ。あっちも水野がマキちゃんに任せてた」と言う。


 ここの集落が頼みたかった作業って、これだったんだ。

 農作業と違って、この作業は女でも十分だ。なるほど、凛の友達になれそうな子と頼む道理だった。


「舜くんは、どう?」

「あいつは、小林家の秘蔵っ子だ。上手いもんだ。大体、この方法を凛ちゃんが考えついたのが、舜のおもちゃを思い出してのことだったんだ」

「なるほど、そういえば、小さい頃、二人して、よくドローン飛ばしてたもんね」

「そういうことだ」

山道氏は、ロープを置くと、「これが終わったら、本部に集合だ」と、笑った。



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