風車ガーランド(1)
長くなったので、分けます。
12 風車ガーランド
遠くで、バリバリという音がした。
機械の音だ。音を目指して歩くと、人の声が聞こえた。
「もっと、上、上の方からぐるっと回すの」
女の声だ。
「横から口を出すな!手元が狂う!大体、杉の木が密集してて、クリスマスツリーのように一本だけ立ってるわけじゃねえんだ!」
男が吠えた。
「文句言ってる暇に、頑張って操縦してよ」
女が笑う。
バリバリという音はドローンだ。木の周りを飛び回って、所々に何かを取り付けたロープ状のものを巻き付けている。まるでクリスマスツリーのベルガーランド(ベルが等間隔でついた飾りのチェーン)のようだ。
「何だ?あれ?」
片山が目を丸くする。
見ると、ドローンは、向こうの方でも2機ほど飛んでいる。どうやら、何かの作業のようだ。 作業といっても、何のために杉をクリスマスツリーのように飾るんだろう。
呆然と立ち尽くしていると、こちらへやって来た女が片山に気が付いた。
「あなた……確か、片山くんじゃない?」
格闘家の山道夫人だった。
山道夫人の声が聞こえたのだろう。ドローンを操縦していた男が、こちらを振り向いた。長い髪を首の後で括って、バンダナを鉢巻き代わりにしている。ジロリと睨まれると、視線で体が動けなくなった。見たことのない鋭さだ。
「誰だ?」
ドスの利いた声だ。
「……か、片山です。……お、小野寺さんの友達」
やっとのことで言う。
「正しくは一方的に熱を上げてる男ですって、言えば?」
山道夫人が意地悪く笑った。
「どうやって来た?」
「あ、歩いて」
「あの装置壊れたかな……」
独り言を言う。
「いえ、あの3Dの映像でしたら、ちゃんと機能してました。当たりをつけて、杉の裏側を調べてみたんです。そしたら、轍の跡があったから……」
「大したヤツだ。
おい、師範。本部の小小野寺博士と小林先生に連絡しろ。
どうするか、決まるまで、ここにいてもらう」
「分かったわ」
山道夫人は、スマホを取り出して電話する。圏外のはずなのに、普通に通じるようで驚いた。衛星通信になってるんだろうか。
「……ええ、舜くんの恋敵。凛ちゃんやマキちゃんのこと追っかけて来たんじゃないかしら。
さあ、悪い子じゃないと思うんだけど、何せ、好奇心がありすぎるの。
参ったわ……。
ええ、そうね。今からじゃね。もう、4時過ぎてるし。
それに、どっちにしろ、あの脇道を自分で乗り越えて来たんだから……ええ、私もそう思うわ……この際だからって?まあまあ、先生もおっしゃるのね。舜くんが、聞いたら激怒するんじゃない?
じゃあ、ドローン、頼んで見るわ……分かりました。もし、彼にできるようなら、ウチの人にそっちへ行ってもらいます」
そう言って電話を切った。
山道夫人は、ニヤリと笑って片山に訊いた。
「片山くん。君、ドローン動かせる?」
「少しなら」
「じゃあ、やってみてくれない?ウチの亭主、ウサギや鴨を捕るのは上手なんだけど、どうもあんなちっちゃい機械動かすの得意じゃないみたい。もし上手なら、ウチの集落でバイトに雇っても良いって話よ」
格闘家の山道夫人のご主人なんだろう。バンダナ男が憮然としている。
片山はドローンの操縦をしてみた。
やってみると、山道氏よりズッと上手なことが分かった。
「上手じゃない!」
山道夫人が嬉しそうにはしゃぐ。
「当然だ。こいつが、こんなので遊んでいたのは、俺がこんなので遊んでいた頃よりずっと最近なんだ」
(俺は、こんな高価なもん買ってもらったことないって)
片山の思いと裏腹に山道夫人は勝手に盛り上がる。
山道氏が面白くなさそうに言った。
「じゃあ、師範。俺は、小小野寺博士と合流する。後15、6本ぐらいは、いけそうだな。持って来てやるよ」
この日、片山は、20本ほどの杉に例のロープを巻き付けた。ロープの端は両方とも杉の木の下に垂らしておくように、杉が密集していて、隣の木との隙間がないようなら、その二本にまとめて巻き付けるように、との指示だ。
そうやって、たくさんのロープを杉の木に巻き付けることが求められた。
何度かやっていると、熟練してスピードアップした。山道夫人は大喜びだ。
目的が分からないにしても、作業効率が目に見えるのだ。何となく嬉しくなった。
途中で、追加のロープを運んで来た山道氏も片山の作業に満足して、
「若いヤツは上手だ。あっちも水野がマキちゃんに任せてた」と言う。
ここの集落が頼みたかった作業って、これだったんだ。
農作業と違って、この作業は女でも十分だ。なるほど、凛の友達になれそうな子と頼む道理だった。
「舜くんは、どう?」
「あいつは、小林家の秘蔵っ子だ。上手いもんだ。大体、この方法を凛ちゃんが考えついたのが、舜のおもちゃを思い出してのことだったんだ」
「なるほど、そういえば、小さい頃、二人して、よくドローン飛ばしてたもんね」
「そういうことだ」
山道氏は、ロープを置くと、「これが終わったら、本部に集合だ」と、笑った。




