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桃源郷の日は暮れて  作者: 椿 雅香
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笹岡真紀子のアルバイト(5)

突然、凛が話題を変えた。

「マキ、胸、大きいんだね。Bカップなの?」

「ううん。Dカップ」

「いいな。凛、まだ、Aカップなの。Bカップにならなかったら、どうしよう」

凛がポロリと涙をこぼす。

「凛、どうしたの?」




 小野寺家のリビングは、小林家が小野寺家と同じ家に住んでいることから、小林家のリビングでもある。

 そこで、男達が、明日の作業手順の確認をしていた。

 スエットスーツの笹岡がつかつかと来て、舜を手招きする。不思議そうに首を傾げて笹岡の下へ行くと、笹岡の爆弾が落ちた。


 「小林さん。凛に、Bカップになったら結婚しようなんて、馬鹿なこと言わないで下さい。

 あの子、いつまで経ってもBカップにならなかったら、どうしようって、真面目に悩んでるんですよ。

 大人が子供をからかわないの!大体、胸の大きさと結婚は、関係ないでしょ!」


 舜が、縮み上がった。


 冗談だったのだ。

 凛が、真面目に悩んでたなんて。


「何だ?お前、そんな馬鹿なこと言ったのか?」

 小林先生が、目を丸くする。

「冗談です。冗談だったんです。まさか、真に受けるなんて」

「いや、本気だったんじゃないか?男のロマンだ。どっちかって言うと、やっぱ、大きい方がいいかならな」

 山道氏が、ニヤリと笑う。

「おうおう、いい加減な許嫁だぜ。この分じゃ、凛ちゃん、一生結婚できないかもしれねえな。ウチの嫁さんの料理が合わないだろうか?」

 水野氏まで面白がる。

「すみません。謝って来ますから、勘弁して下さい」


 

這々の体で抜け出して八畳へ出向くと、凛が布団の上に座って俯いていた。

「凛ちゃん」と声をかける。

 凛の頬に涙の跡がある。涙で一杯の目を上げて、すがるように見た。

「ゴメン。冗談だったんだ。冗談。凛ちゃん、Bカップにならなくても良いんだ。君が、ちゃんと育ったら結婚する。僕のためにちゃんと育って、結婚してくれるよね?」

「凛、痩せっぽっちだから……頑張って食べてるけど、ズッとAカップのままかも知れない」

「今、笹岡さんに叱られた。胸と結婚は関係ないでしょって。その通りだ。胸の大きさは、結婚と関係ないんだ」凛を抱き寄せながら言う。「笹岡さん、良いお友達だね」

「うん。舜くん頼んでくれたんでしょ?」

「許してくれる?」

「凛、ズッとAカップでも良い?」

「いい。凛ちゃんなら、何でも良いんだ」

「良かった。舜くん、胸の大きな、きれいな、お姉さんが良いのかと思った」

「僕には、凛ちゃんが一番だから」

 そっと抱きしめて、涙を拭う。可哀想に。本気で悩んでたんだ。落ち着いた凛を寝かせて、部屋を出ると、笹岡が立っていた。



 「ありがとう。君は、予想以上に良い人だった」

 舜が真面目に頭を下げたので、笹岡は、切なくなった。






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