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桃源郷の日は暮れて  作者: 椿 雅香
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笹岡真紀子のアルバイト(4)

 「笹岡さん、お風呂案内するから、一緒に行こ」

凛が声をかけた。


 食事の後で、順番に入浴するのだ。お風呂は8時頃準備する。

 この集落には、男が舜を入れて8人。女が7人だ。二、三人がゆったり入れる浴室は、8時から9時までは男の時間、9時から10時までは女の時間とされている。10時以降は、誰かが入ったら、次の人、その人が出て来るまで入らない。中の人が出て来たら、次の人が入るのだ。いわば、家族風呂の時間で、男女別の時間に入りそびれた人や、家族で入りたい人は、この時間を利用する。

 9時頃、凛が笹岡を迎えに来たのだ。

 お風呂には女湯マークの札が掛かっていた。この時間は女の人の時間なのだ。ゆったりした湯船に浸かりながら、笹岡が言った。


「小野寺さん、これからは、私のこと、『マキ』って呼んで」

「?」

「普通、友達はそう呼ぶわ」

「じゃあ、凛のことは、『凛』って呼んでくれる?」

「みんな、『凛ちゃん』って呼んでるみたいじゃない?」

「そうなんだけど、笹岡さんが『マキ』なのに、凛が『凛ちゃん』じゃ、間が抜けてるから」

 そうだろうか。でも、本人が望んでいるのだ。笹岡は了解した。


 二人が風呂を上がる頃、山道夫人と水野夫人が笑いながら入って来て、二人を認めて微笑んだ。

「個人差……ね。凛ちゃん。ちゃんと食べないと、笹岡さんみたいに立派な体に育ちませんよ」

食事係の水野夫人が面白そうに笑った。

 食の細い凛に、「偏食しないでちゃんと食べないと、ちゃんと育ちませんよ」と、言うのが口癖なのだ。

 山道夫人も、「確かに」と、頷いた。

 笹岡は凛と同学年とは思えないほど豊満に(!)育っていた。凛は身長が155センチの痩せっぽっちだが、165センチで縦横ともにしっかり育った笹岡は豊かな胸や腰、くびれたウエストと立派な大人だ。

 凛が口をとがらせて、「ちゃんと食べてます!」と文句を言い、笹岡はその可愛らしさに驚いた。


 二人は、八畳間に布団を並べて敷いた。


「凛、お友達と寝るの、初めてなの」

嬉しそうに言う。

「こんなに大きなお部屋があるのに、使ったことないの?」

「凛のウチのお客は、おじいちゃんやお父さんの知り合いの先生が多いから。凛のお客は、マキちゃんが初めてなの」

「『マキちゃん』じゃなくて、『マキ』」

「じゃあ、マキが初めてなの」

「私が初めてって、光栄だわ。じゃあ、凛、家族以外の人と泊まったことないの?」

「舜くんと一緒に泊まることがある。舜くん達も同じお家の東側に住んでるんだけど、たまに一緒に寝ようかって、ここで寝るの」


笹岡は、絶句した。


(そうだ。こいつ等、許嫁だったんだ)


でも、真面目な高校生の笹岡には、刺激が強すぎる話だった。


(あどけない顔して、よく言ってくれるよ)


横を向いてつぶやく。凛が、何か言った、と訊く。


「何も」

脱力感と必死で戦う。


(こいつは、こういうヤツだった。今頃、気が付いた自分が馬鹿だった)




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