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高校時代「小説」作品  作者: 迎 カズ紀
2年次作品
9/14

春は君を殺す

某高校生向けコンクールと年度末発行の学校誌に出した作品です。落選してるからいいよね

 いつだって、春は君を殺すんだ。だのに、懲りずに君はまた僕の前に現れる。

「ヨシタカ。学校にいくぞー」

 今年もユキは俺の目の前に現れた。


 物心ついたとき……ではなかった気がする。けれども、数年前から冬になると同い年くらいの少女が目の前に現れた。人懐っこくて、おしゃべりで、素直な女の子。名前を聞いたら「ユキ」と答えてくれた。

 そこまではよかった。だがこの少女、ユキは俺以外には見えないらしい。最初は幽霊ではないかと思っていたが、俺と同じように成長していくのだから意味が分からない。初めて現れた時は小学生の姿だったのに、今では高校生の姿。俺以外に見えないということ以外は本当に普通の女の子にしか思えなかった。

 しかし、彼女は春が来るとどこかへ消えてしまう。ふっといつの間にか消えてしまうのだ。そして次の冬にまた現れる。毎年毎年、それを繰り返していた。

「遅れちゃうぞーヨシタカ」

 そう言って目の前の少女は袖を引っ張ってくる。時計を見るともう出ないとやばい時間。急いで鞄を手に持ち靴を履く。行ってきますと言う俺とユキの声が重なった。また今年も冬を君と過ごすのだ。


 学校に着いたらすぐに予鈴が鳴り、ユキに文句を言われながらあわてて教室へ向かう。教室に入ると先生と勘違いしたのか全員がこちらを向く。気後れしながら席に着くと、

「佐野君、また遅刻ギリギリ」

 と、幼馴染の千葉朱莉が声をかけてきた。それを見てユキも乗っかってくる。

「そうだぞヨシタカ。アカリの言うとおりだぞ」

 いや、今朝はユキが寝坊したせいで遅くなったのだから俺のせいではない――なんて、千葉には言えない。

「間に合ったんだからいいんだよ」

 そう言いながら教科書とノートを取り出し机の上に置く。千葉はまだ何か言いたげだったが、呆れたように笑った。

「佐野君が冬に弱いのは今更だよね。布団が恋しいんでしょ」

「本当に弱いのは春なんだけどな」

 つい零してしまった言葉。しまった、と思いつつもごまかして笑う。

「春眠暁を覚えず――だよ。今からその小テストじゃないか」

 千葉はまた笑って自分の席に戻った。ユキだけが、俺がごまかしたことに気付いているようだった。


 授業は順調に進み、ユキもおとなしく教室の後ろで体育座りをして話を聞いていたようだった。それはいつものことだが、昼休みを告げるチャイムが鳴るとユキはふらりと教室を出て行ってしまった。たまにこういうことがあるが今日はなぜだか気になってしまい、鞄から出しかけていた弁当を無視して彼女の後を追った。

 さすがに多学年の階に行く勇気がない。だからよくユキがついて来る移動教室や職員室前、食堂や渡り廊下に行ってみたがいくら探してもユキはいない。もう十五分は経っただろう。腹も限界だと抗議してくる。仕方がない、教室に帰ろう。そう思いさっき通ったばかりの渡り廊下へ向かった。

 渡り廊下から見える景色は静か、の一言に尽きる。まだ雪なんて降っていないのに曇り空のせいか世界は真っ白に広がっているように思えた。

「佐野? どうしたんだ、こんなところで」

 突然声をかけられ思わず肩が震える。いったいどのくらいボーっとしていたのだろう。実際はたった数分だと思うが寒い中突っ立って景色を見ているのはおそらくこの学校で自分だけだろう。真っ白に感じた世界から目をそらし声の主の方を向く。声の主が誰なのかは分かっている。

「景色を見ていたんです、河本先生」

 そう言って少し微笑んでみせると彼は「そうか。風邪ひかないようにするんだぞ」とこちらも笑って去って行った。

 河本先生は俺たちのクラスの現代社会の先生でもあり、一年生の学年団の一人でもある。まだ若い男の先生で生徒からの人望が厚い先生だ。テストの問題は難しいが授業はとても面白い。俺は先生方の中で河本先生が一番好きだ。

 顔に手を当てるととても冷えていた。教室に戻ろうとすると、聞きなれた高い声が俺の名前を呼んだ。

「……どこに行ってたんだよ」

 いつの間にかユキが横に立っていた。

「散歩だよー。ちょっと歩きたい気分だったんだ」

 そう言って俺の手をつかむ。その動作はあまりにも自然で、気が付いた時にはそのまま教室に向かって走り出していた。いきなりどうしたんだよ、と言ったが歩みは止まらない。ちらりと見えた彼女の顔は怒っているように見えた。

「ヨシタカはあったかいところにいなきゃダメ」

 声も、どこかツンとしていた。


 ユキが現れてからもうだいぶ時間が流れた。いや、また別れる時間が近づいたという方がしっくりくる。そんなことを考えながら現代社会の授業を受けていた。今の範囲は中学の時必死で覚えたところだから聞き流している。正直、眠たい。眠気覚ましにシャーペンでユキの絵を描いてみようか、とノートの後ろのページを開けた。美術は得意な方だからついつい本格的にしたくなる。気付いた時には真剣なデッサンのようになっていた。

「佐野君」

 斜め後ろの席にいる千葉の声がして振り返ると、焦った顔をして教室の前の方を指さしていた。そちらを見てみると河本先生が教室を歩き回っていた。ノートをしっかり書いているか確認するためだろう。やばい、ノート全然追いついてない。

 運が良かったのか先生はこちらまでは来なかった。ちょうどチャイムもなり、昼休みになる。ほっと胸をなでおろし残りを板書することに集中する。

「佐野君、さっき何描いてたの」

 突然視界に千葉が入ってきた。それと同時に日直が黒板を消しだした。後たった三行だったのに。

「……後でノート見せてくれない」

「別にいいけど。それで、何描いてたの。あんなに集中しちゃって」

 別に見せられるようなものじゃない。そう言おうとしたら後ろからずしりとユキがのしかかってきた。思わず前のめりになってしまい、変に思われないように、何でもないようにゆっくりと背中で押しのける。幸いにも俺の動作を千葉は見ていなかったようだ。

 しかし不幸なことに、気付いたらノートは千葉の手にあった。

「へー、可愛い女の子じゃん。佐野君が絵がうまかったとか驚き。小学生のころは学年で一番下手だったのにね」

「返せよ。可愛くねえよ」

 ノートを取りかえそうと手を伸ばしたらユキがポカポカ背中をたたいてくる。

「可愛くないって、ひどいぞヨシタカ」

「俺の絵はまだ下手だから、写真みたいにそのまま描けないんだよ。本当はもっと――」

 しんと教室が一瞬静かになる。やばい、ユキが話しかけてくるからここが教室だって忘れてた。

「もしかして……好きな人?」

 キャー、と女子の高い声が上がる。まわりの奴らが勘違いしだした。違う、と言っても焼け石に水。いや、油。いくら違うと言っても照れ隠しなんでしょ、ごまかすなって、と聞いてくれない。

「――だから。違うって言ってるだろ」

 大きめの声で強く言いノートを雑に取り返す。逆効果だとわかっているが、つい逃げるように教室を出た。


 気が付いた時にはまたこの前と同じように渡り廊下に立っていた。あの時よりも春は近づいているはずなのに、空気はまだまだ冷たく誰も通る様子はなかった。もちろん、探しに来るクラスメートも。

 ユキも一緒に教室を出てきた。静かな空を見上げて伸びをしている。さっきのことは何も言ってこない。

「あれ?またこんなところで景色を見ているのか」

 振り返ると河本先生が立っていた。はいそうです、と言うと先生は少し呆れたように笑った。

「まだまだ寒いんだから、風邪ひかない程度にしろよ」

 それから、頭を軽くたたかれた。「さっきの授業、話聞いてなかっただろ」と言って。素直にごめんなさい――と謝るべきなんだろうけど、声が出てこなかった。

「熱心に絵を描いていたみたいだけど、そんな余裕があるなら次のテストは学年一位とれよ」

 軽い口調で圧をかけてくるもんだからつい笑ってしまう。頑張ります、と笑って答えると先生も笑ってそのまま校舎の方へ戻っていった。

 ふと横を見るとユキが頬をぷうっと膨らませていた。それから俺をちらっと見た。

「勉強しなきゃダメだよ。ヨシタカ」

「わかってるよ」

「なんで絵の練習しているの」

 首を傾げられたが俺は答えないことにした。ユキには言えないから。

「特に意味はないよ」

「うそつき」

 なんとでも言えよ、という代わりに俺はユキの頭をくしゃっと撫でた。ユキはまだ不満みたいだが珍しく頭を撫でてもらったからか満更でもなさそうににっと笑った。

「もー。早くご飯食べなきゃ時間なくなるよ。教室に帰るよー」

 そう言って手をつないでくる。幽霊ではない、ただ他の人には見えないだけの彼女の手は冷たいなんてこともなく、じんわりと温かかった。


 気が付いた時には三月だった。テストも終わり、通常授業もなくなりただただ修業式を待つだけの日々。普段よりも早い時間に帰れるが、今日は何となく教室に残って絵を描いていた。といっても美術の課題が終わっていない友人に頼まれて代わりに描いているだけなんだけど。ユキは野球部の練習を見に行くとかで、教室には正真正銘俺一人だった。

 窓から見える景色はまだまだ白く感じた。目を凝らすと雪が降っているのが見える。もう三月なのに。冬は終わるのに。けれども思わず微笑んでしまう。

 ああ、春なんて来なければいいのに。そうユキに聞こえないところで声に出した。


「あっ、佐野君」

 突然教室に入ってきた千葉があわてた様子で俺の名前を呼んだ。なんだよ、と言う前に泣きそうな顔で声を震わせた。

「さっきね、職員室で聞こえたんだけど……河本先生、先生辞めちゃうかもしれないって」

 先生辞めちゃうかもしれないって。

 一瞬、千葉が何を言ったのか理解できなかった。

「――河本先生が何か問題起こしたってわけじゃないんだろ?なんで辞めるってなるんだよ」

「よくわかんないけど、なんかご両親が病気になったとかで介護するために実家に戻るとかって……」

 確か河本先生の実家はかなり遠いところにあるって聞いたことがある。それに、一人っ子だとも言っていた。

「――本人の口から聞かない限り、人に言いふらさないほうがいいと思うんだけど」

「……そうだね。そうだよね」

 それっきり千葉は何も言わなかった。気まずそうに下を向いている。その横で俺は手が震えていることを隠すように画材を片付け始めた。

 俺は河本先生が好きだ。尊敬しているんだ。専門は現代社会ではなく地理だと先生が言った時は喜んだ。来年度から地理を取る予定だったから。卒業まで、ずっといるんだと思っていた。

 だのに、本当に先生は学校を辞めてしまうのか。

「……ねえ、佐野君。もし本当にそうだったらちゃんとお別れを言わなきゃね」

 とても小さな声で千葉は言った。でも、俺は聞こえていないふりをした。


 用事があるから、と言って教室を出て行った千葉と入れ違いにユキが教室に入ってきた。

「ヨシタカ。今年はちゃんと言うんだよ」

 どうやら話を聞いていたらしい。

「ヨシタカは毎年素直になれない子だもんね」

「……うるさい」

「もうすぐ春なんだよ。クラスも、先生も、みんなみんな新しくなるんだよ。ちゃんとけじめをつけなきゃいけないんだよ。ちゃんと言わなきゃダメなんだよ」

 幼い子供に諭すように彼女が言う。

「ねえ、ヨシタカ」

 そう言って彼女は微笑んだ。俺の気持ちも考えずに。

 ああそうか。ユキは何もわかってくれていないんだ。この数年間、ユキが俺の前に現れてからずっとずっと想っていたのに――。

「――春なんて。春なんて、来なければいいんだよ。春は君を殺すんだ。まるで春の暖かさが雪を解かすように。俺はそんなもの望んでないのに。なあ、消えないでくれよ。いかないでくれよ。春も夏も秋も、俺の傍にいてくれよ」

 はっきりと、懇願するように言った俺を見て目の前の少女は眉を吊り上げた。そして何か言おうと口を開きかけたが、口の代わりに目を見開いた。俺が鞄の中のノートにファイル、それから小さなスケッチブックをバサッと床に落としたからだ。

「なにこれ」

 床に広がった紙のすべてにユキが描かれていた。その中の一枚を拾い上げ彼女の目の前に突き出す。

「――ユキは写真に写らないだろ。俺はそれが怖いんだよ」

 君を忘れてしまうのではないか。いつか本当にユキが俺の前に現れなくなってしまったら。冬にも俺の前にも現れなくなったら。

「ユキがいない世界なんて……俺にはどうでもいいんだよ」

 そう言って俺はへらっと笑った。我ながら歪んでいると思うがどうしようもない。どうしようもないんだ。

 ユキは絵を見て最初こそ目を見開いたものの、その後はずっと無表情で俺を見据えていた。まるで割れ物を扱うかのように慎重に言葉を選んでいるようにも見えた。   

 そうして長い間――正確には数分だと思うが――難しい顔をしていたユキは急に駄々っ子のようにいつもの調子で「もー」と叫んだ。いきなりどうしたんだ、と思ったのが表情に出てしまったのだろう。ユキは怒った顔をして俺の鼻を強くつまんだ。

「ヨシタカのバカ。ユキはずっとヨシタカの中にいるのに何でわからないの?」

 それから葛藤しているのだろうか、数分間唇をかんでから、ようやく彼女は重たい口を開いた。『ユキ』のことを少しずつ話してくれた。


 ユキはね、ヨシタカの心の一部なの。ヨシタカの『言いたい』気持ちがヒトの形になったのがユキなの。素直になれないヨシタカを後押しするために生まれたの。毎年毎年、ヨシタカは先生や友達とのお別れを嫌がるよね。でも、お礼とかをいつも伝えられないよね。それを届けてほしいからユキは現れるの。でも、いつも言えないよね。伝える前に……お別れしちゃうとヨシタカはその気持ちを忘れてしまうの。これが冬にしか現れない理由。


  ユキは語り終えるとそのまま口を閉ざした。俺は情けないことに彼女の告げる言葉の全てがすぐに理解できなかった。いや、したくなかった。だって、そんなの……そんなの、俺が彼女を。

  そんな俺を見て、ユキは俺の目を見てフッと悲しげな笑みを浮かべた。

「春じゃない。ヨシタカがユキを殺しているんだよ」

 そう言って彼女は解けるように消えてしまった。

 春がもう来てしまった。



 気が付いた時には二年生になっていた。ユキが消えてしまってからもう一か月近くたっている。昨日入学したばかりの一年生が後ろの方にいる。俺も去年あそこにいたんだな。まだ二年生になった気がしないや。彼女にも言ったけど、本当に自分は毎日を適当にぼんやりと生きているんだなと今更ながら実感した。

 きいんとマイクの音が鳴る。その音に顔をしかめたと同時に何とも言えない気持ちになる。

 離任式が始まった。


 先生方には悪いが話してくれる言葉が頭からどんどん零れ落ちてゆく。眠気は冷めてくれないだろう。だから、河本先生の順番は前から数えた方が早くて助かった。

「河本先生お願いします」

 新しく来た教頭先生が名前を呼ぶ。久しぶりに聞く懐かしい声で先生は「はい」と返事をした。

 先生の話は他の先生と似ていて、けれども彼らしさが出ていた。堅苦しくなく、いつもの授業のような温かいスピーチだった。寝かけていたまわりの人たちも全員話に聞き入っている。後ろからぐずぐずと鼻をすする音も聞こえた。

 ああ、これが最後なんだな。喉の奥が詰まる。詰まるのに、なぜだかうずく。うずくんだ。


 離任式もほぼ終わり、花道を作るために列を崩した。佐野君、と少し鼻声で後ろから名前を呼ばれる。振り返ると千葉がハンカチを握って立っていた。鼻水はお前か、とからかうと足を踏まれた。

「うるさい。そんなことより、もっと前の方に行きなよ。挨拶しづらいでしょ」

「――別にいいよ」

「もう、ちゃんと言わなきゃといけないでしょ」

 まるで彼女みたいだな、と言いかけて急いで唇を噛む。そんな俺を不思議そうに見て千葉はさっさと花道の前の方へ行った。その間に拍手の音が体育館を響き渡る。

 これでいいんだと自分に言い聞かせる。別に伝えなくてもいいじゃないか。先生からすると俺は大勢の教え子のうちの一人なんだから。俺が言わなくても別に先生は気にしないだろう。それに、言わなかったらまた彼女と会える。

 そう思っていたのに。

「河本先生」

 花道を通っていく彼を囲む生徒を押しのけ彼の前に躍り出る。先に行ってしまった千葉が俺を前に通せるように道を開けてくれる。親指を上に立てているのが横目で見えた。

  言うんだ。言わなくては。彼女のためにではない。自分のために言うんだ。

「今まで本当に……ありがとうございました」

 こんな時に言葉が出てこない自分が憎らしい。必死で涙と鼻水をこらえているから頭をあげられない。目を見て言えない自分が情けない。

「佐野。佐野由貴くん」

 初めてフルネームで呼ばれた。バッと顔を上げると優しい微笑みを浮かべた河本先生が俺の目をじっと見据えてくれていた。

「頑張るんだぞ」

「……はい。俺、頑張ります」

 目を見て、微笑むことができた。


 余韻に浸る時間はなく、あわただしく離任式の会場の片付けが始まる。それもすぐ終わり、体育館にいつもの部活が始まるまでの静けさが訪れた。

 一気に気が抜けて抜け殻状態になっていたからだろうか。教室へ戻る途中で近くを歩いていた千葉が声を小さく上げる。

「佐野君、それ体育館シューズじゃない。上靴に履き替えずに来ちゃったの」

 足元を見ると確かにそうだった。このままでは厳しい先生に怒られる。急がないと。

「靴とってくるから、千葉は先生に聞かれたら説明しといて」

 いいよと笑う彼女を見て、そういやまた同じクラスだったな、と今になってようやく気付く。今年もお世話になりそうだ。

 急いで体育館に向かう。あたりまえだけど誰もいない。上靴を置いた場所まで走っていき、履き替える。また走って教室まで行かないと。


 桜の色がまぶしい。ほんの少し前までは真っ白の世界だったのに。世界はこんなにも色づいていたんだ。

「ヨシタカ」

 心臓が止まる。もうしばらくは聞けないと思っていた大好きな声。

 雪のような彼女が桜の中に立っていた。

「ちゃんと言えたね」

 初めて見た最高の笑顔。つられて俺も笑えたらよかったのに、涙が頬を伝っていた。

「また、会えるよな」

 ユキはヨシタカの中にいるのにまだそんなこというの、と彼女は呆れたように笑った。二本の筋が白い頬にきらりと光り落ちる。

「……会いたいけど、もう二度と現れたくないな」


珍しくタイトルから決まった話です。というか「『春は君を殺す』――ってフレーズ、どこかで聞いたような」と思いネットで検索した結果出てこなかったので「俺がこれ考えたのか! まじでか! センスいいな俺!」となり何か話を書こうと思いました。


 この話は本当にフレーズから決まったので、

『春』とは何か

『君』は誰なのか

『殺す』は本当に殺すのか、それとも隠喩なのか

――と、そればかり考え何度も練り直しました。

結果『春(季節)は君(雪)を殺す(解かす)』となりました。


何度も書き直し、一番苦労した作品ですが一番思い入れの強い作品でもあります。

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