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高校時代「小説」作品  作者: 迎 カズ紀
1年次作品
2/14

鈴神様は届けてくれる

処女作です。

本日2本目の投稿。この前に作品紹介を設けております。

「ねえ、知ってる?鈴神様の話」

「知ってる知ってる。最近流行ってるよね。――あ、久野くんは知ってる?」

 クラスの女子の会話の中で、急に俺の名前が聞こえた。と言っても、すぐ横で話していたんだが。読んでいた本に栞を挟み、女子数人の方へ顔を向けた。

「何その、スズガミサマ、ってやつ」

 えっ、知らないの、と目を丸くされた。悪かったな、知らなくて。

「あのね、お祈りしたら忘れ物を持ち主に届けてくれるって噂の神社があるの」

「三回鈴の音が聞こえたら、届けてくれるんだって。だから鈴神様って呼ばれてるの」

 なにそれ怪談?うさんくさ。――って言ったら怒られそうだな。

「どこの神社?この辺に、そんなところあるの?」

「ちょっと待ってて、今地図を描くから」

「いや、そこまでしなくてもいいんだけど」

「はい、これだよ」

 まあ受け取りなさいよ、と言いたげな笑顔を浮かべて差し出されたら、受け取るしかできない。

「……ありがとう。――あ、俺そろそろ帰らないと」

 じゃあ、と軽く手をふって校門へ向かった。


 校門に着くと、すでに待ち合わせ相手はいた。

「おっせーぞ勇貴。待ちくたびれたわ」

 そう笑いながら言ったのは、親友の相馬和人。和人とは小学校からの付き合いだ。

「そっちこそ早いじゃん。数学の補習どうだった?」

「なんとかわかった……かな?――あ、そうそう。補習の時に隣のクラスの女子が言ってたんだけど、今流行ってる――えーと――」

「鈴神様……だろ?」

 即答したら、驚いた顔をされた。

「勇貴が知ってるとか、意外だわー」

「さっき女子達から聞いたんだよ。でもなんか、うさんくさくね?」

「あー確かに。いきなり鈴の音が聞こえたらホラーだよな」

 でもさ、と和人は少しにやって笑った。

「試してみたくね?」

「はあ?」

 何言ってるの、と目線で訴えたが、気付いてない。いや、これは気付いてるけど無視している顔だな。

 昔から和人とは仲が良かった。性格は全然違っていたけど、自然と友達になっていた。たぶん性格がはっきりしてくる、中学生のころに出会っていたら話すこともないような、それくらい違っていた。クラスの地味な奴と、人気者ってとこかな。

「――でさあ……なあ、話聞いてる?」

「あ、ごめん。で、何?」

「だからさ、その神社に今から行こうぜ」

「ほんとに何言ってるの」

 冷たい目線を送ったら「そんなに嫌なわけ?」って言われた。

「興味ないんだ。行くなら一人で行けよ。ほら、地図」

「んー……、じゃあ俺もやめとく。一人で行くのもあれだし。――お前さり気にガッツポーズしてんじゃねーよ」


 家に帰ると、母さんが台所にいた。

「おかえり勇貴。ご飯もうすぐだから、ちょっと待ってね」

「了解。着替えてくる」

 階段を上り自分の部屋に入った。ふう……。


「あああああ俺よく耐えたあああ」

 普段は隠してるけどそういう不思議な話好きなんだよ。クールぶってるけど本当はガキっぽいんだよ。興味あるんだよ。――うなっていたら下から「うるさいわよ」と怒鳴り声が聞こえたが知るか。ずっと我慢してたんだから。

 昔から口数が少なく、年下のいとこが大勢いたので自然と大人びた子に成長したと思われてる。でもそんなことはない。でも今更そういうのが好きとか言い出しづらくなり、和人にも言えてない。女々しいと思われたらなんか嫌だ。

 ふと地図を見たらその神社はうちの近くにあるみたいだ。時計を見たら奈々時前。距離的には自転車を飛ばせば十分で着く。

「え?ちょっと勇貴、どこに行くのよ」



 いたって普通。それが第一印象だった。別に鈴を連想させるものはない。神社の名前も普通だ。ただ、行くまでの道は雑草だらけで寂れた感じがする。

「とりあえず五円玉か……」

 賽銭箱に入れ二回手をたたいた。これであってるのかわからないけど。

「鈴神様、鈴神様。本当にいるのかわかりませんが、もしいるのなら俺の忘れ物とやらを届けてください」


 何も起こらない。聞こえない。……まあ実際そんなものか。

「さて……と、そろそろ帰らないと」

 神社に背を向け、草だらけの道を再び通った。この道を抜けるとぽつぽつと家や電灯がある。だから、少し遅い時間になっても灯りがあって助かるんだよな。でも、うちの近くには少ないから夜遅い時は不安になる。早く帰ろう。


 リン リン リン


 思わず自転車を止めた。

「え……?」

 いやいや、風鈴に決まっている。そう思って振り返った。

 もう辺りに家はなかった。



 次の日の昼休み、昨日の女子達が話しかけてきた。

「ねーねー久野くん、昨日神社行った?」

「……行ったけど」

「え、本当に?」

 そろって驚いた顔をされた。意外だろうな、今の俺のキャラなら。本心では興味ないのを取り繕うのに必死だ。

「実はさ、私を含めて女子の何人かが神社に行ったんだけど、鈴の音なんか聞こえなかったんだよね。だから男子じゃないとダメなのかなって思って久野くんとかに声かけたんだけど……。やっぱり無理か―」

 予想はしてたけど、実験台だったのか……。それにしてもあの音は本当に鈴神様と関係があるのか?他に聞いた人はいないみたいだから、これ以上は探れないし、鈴の音(それも勘違いかもしれない)が聞こえたと言って変に注目をあびたくない。

 その場を離れようとしたら、隣のクラスの須藤先生が教室に入ってきて俺を呼び出した。

「なんですか先生。俺ちゃんと数学のワーク出しましたよ」

「いや、その……相馬のことなんだけどさ、お前ら仲良いんだろ?」

「そうですけど……。あいつに何かあったんですか?このままじゃ赤点確定、とか?」

 先生は目をそらし、ためらうような素振りを見せたが、呼吸を整え周りに聞こえないように言った。

「相馬が行方不明なんだ」



「――本当なんですか?」

「本当だ」

 うそだろ。だってあいつとは昨日一緒に帰って、和人の家まで少しのとこで別れたんだ。そんなこと――。

「――何かわかったら先生にも連絡してほしい。警察には昨日、保護者の方が連絡したそうなんだが……」

 先生はそれっきり何も言わなかった。言えなかった、の方が正しいのかもしれなかったが。

 下校まで授業に集中できなかった。急いで校門を出て携帯を取り出したが新着メールなし。着信履歴もなし。和人の携帯にも自宅にも連絡を入れたが、誰も出なかった。

「あいつが行きそうなとことか言われても、わかんねーよ……」

 明るくて、真面目な性格な方だ。家に帰らないようなやつではないのに……。


 リン リン リン


 まただ。前よりもはっきりと聞こえた。――とにかく、探さないと。

 時計を見たら八時を回っていた。学校周辺から帰り道、家とは真逆の方の商店街まで行ってみたがどこにもいなかった。

「……一度家に帰って、懐中電灯でも取ってくるか」


 走って数分で家に着いた。遅かったじゃない、どこに行ってたの、と母さんに言われたが無視して階段を駆け上がった。自分の部屋に懐中電灯があった気がする。早くしないと、もしかしたら――――ダメだ。考えるな。今は探すことに集中するんだ。

「そういや、俺あんまりあいつのこと知らなかったりするのかな」

 本当は家出とか普通にするやつだったのか?わからない。小学校からの付き合いだけど。

「――俺も言えてないことあるもんな」

 見つかったらとにかく怒って、怒って、怒って、それから俺も隠してたことを言おう。高校生になって、ようやく腹を割るのはおかしいのかな。わかんねえや。


 リン リン リン


 また聞こえた。

 同時に、携帯が鳴った。和人からのメールだった。



 メールで指定された公園に行くと、怪我ひとつなくピンピンしている和人が待っていた。

「お前……どこにいたんだよ。心配させんな」 

「あー……悪かったな。ちょっと、な」

「『ちょっと』ってなんだよ。こっちは事故か事件に遭ったのかって、心配してたんだぞ」

 思わず声を荒らげたら、和人は申し訳なさそうに頭を掻いた。

「――ちょっとさ、進路関係の話で親とけんかして。それで思わず家飛び出してしまって、兄貴の家に逃げてた。制服は家だったから学校に行けなかったし、携帯の充電なくなったけど兄貴と機種違うから店に充電させてもらってて、連絡できなかった」

 そう言うと、俺の方に向き直り「ごめん」と大声で言って、頭を下げた。


「…ははっ」

 気が抜けて笑ってしまった。和人がポカンとした顔をして、それから眉をひそめて「今笑うとこなのかよ」と言ったが止まらない。

 和人が親に「○○大学に行け」って言われてるのは知ってたけど、本人が行きたいと思ってる大学なんか知らなかった。いや、専門学校か?就職って選択もあるな。とにかく俺は和人のことをよく知ってなかった。知ろうとしてなかった。

 そういや昔は、いろんなこと話したっけ。小さな悩みも、ちょっと大きな悩みも、それこそどうでもいい悩みも。

 ――――もしかして、これなのか?


 呼吸を整え、まっすぐ和人の目を見た。

「なあ和人。俺、実はさ――」


奈々時前→七時前

皆まで言うな。当時の恥ずかしさをここでも晒してこれから誤字しないように心がけているんだ。ある種の自虐行為なんだ。

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