1ルート目 ⑥屋敷での暮らし その一
ーー衝撃の事実。
自分の事を助けてくれたのはこの少女、神崎千尋と言う子であるという事だ。
自分を助けたのはあの黒髪の少女だと勝手に思い込んでいた。
そして、あの黒髪の少女の事を聞いても誰も知らないと言うので、あの少女の安否が気になる。
それともう一つ、この神崎家というのはこの国に昔からある家系のようで、この国でもトップクラスの権力を持っているらしい。
厄介な家に来てしまった……。
と窓拭きをしながら考える。するとそこへ、
「おはよう奏多。また使用人の手伝いをしてるの?いいのよ居候でも」
と話しかけてくる、神崎家の一人娘、神崎千尋だ。朝は朝なりの可愛いさがある。
「いや、それこそ居候させてもらって飯だけ食って過ごすってのもなかなかに辛いものがあってね。どうせ暇だからさ」
最悪ニート一直線で行ってもいいのだが、それでは異世界に来た意味がなくなる。
「異世界に来たんだから、魔法の一つでも覚えておかなきゃ損だしさ」
「え?今なんて?」
「いいや、なんでもないよ」
とはぐらかす異世界に来てこっちの人間に
「俺異世界から来たんだよ!まじで!!ホントだって!!」
と言ったところで信じてもらえないし、心配性なこの子なら精神病院とかに連れて行かれそうでもある。
「そういえば朝食はもう済んだの?」
あぁ…そういえばと思った。この家の朝食というのは各自好きな時間帯で各自食べるというものなのだ。
つまり食べるも食べないも自分次第。もとの世界では朝食は食べない派だったのですっかり忘れていた。
「いや、まだだけど。どうして?」と聞いてみる。答えは
「そう…それなら………。うん決めた!」
何かを決意した顔だ。
「な、なにを??」
その決意に満ち満ちた顔に圧倒され、多少の緊張感と共に千尋に聞いてみる。その返答は
「私……料理することに決めたの!!」
「は、はぁ……」
自分の予想の斜め上を行く返答に戸惑った。
「い、いいんじゃない?いいと思うよ手作り料理!うん、いいと思う」
とりあえず賛同はしたので、あとは頑張ってと心の中でいいつつ、窓拭きに戻ろうとする。すると、
「それで、その奏多には……試食をしてほしくて」
「はい??」と当然の疑問。
また新しい波乱の幕開けだった。
この子、神崎千尋は、完璧に何でもこなすように見えて掃除、洗濯、料理など、女子の三大条件が見事にできないという少女だったのだ。
塩と砂糖を間違え、砂糖を片栗粉と間違えた挙句何を作るのか決めていないというレベルだ。先が思いやられる。
「取り敢えず、俺が作るから真似してみて」
そして朝食のテンプレであるベーコンエッグを作る。こう見えても家事できる系男子なのだ、えっへん。
「う、うん!!!」
「いい返事だね!でも卵潰れてるよ?」
と言った感じで朝食作りは困難を極め、最終的にできたのはスクランブルエッグという簡単の代名詞のような料理になった。
国有数の権力者の娘がこれでいいのだろうか?と疑問を浮かべつつも、彼女の作ったスクランブルエッグを口に運ぶ。
「うぐっっっっっ……!!!!」
未知の感覚が体中を駆け巡る。オブラートに包むなら個性的、悪く言えばまずい。そんな感じのスクランブルエッグを朝食にする屋敷での暮らし3日目の朝であった。
しかし、悲劇でもよくあるように幸せな日常とは何日も続かないものだ。
と、この時の俺に言ってやりたい。
迫りくる何者かの魔の手にいまだ気づかない俺に。