1ルート目 ④不運の極み俺。
状況を整理しよう。
まず一つ、ここは第五地区であること。
次に、今目の前にいる異形の者は、さっきのアナウンスの正体であること。
次に、俺は不運であること。
最後が一番大事で、不幸中の幸いと言うかなんというか、今日は美少女によく会う。
「いや、ちげぇぇだろぉ!」呑気なことを言っている自分に一喝。
急な大声に驚いたのか先程の少女は少し引いていた。
しかしそんな事は今はいい、取り敢えずーーーー
全力ダッシュ!!向かう先は勿論美少女の後ろ。あ!いい匂いがする!なんて変態チックなことを考えつつ、
「まーーじで助かった!!ほんとにサンキュ!!サンキュな!!」
とお礼を述べる。急に礼を言われて驚いたのか少女はただ黙っている。
そして、
「お礼を言われるようなことは何もしてないわ」キッパリと言い放つ。
「そんな事よりも、なんで一般人がここにいるの!早く逃げないとだめでしょ!」
「いや、俺もまさかここに出るとは思ってなかったんだよね…。昔から運が悪いことで俺に勝った奴数えるの片手で事足りるからね!」
無意味な紹介でしたね。こういうのが多いのは俺の癖。
「あぁ…そうなの。まぁ取り敢えず私から離れないで」何故か納得された。
そして、
「離れないで…か」ポツリと呟く。
できればこの女の子に言う側でありたかったなぁ…。女の子に守られるのって辛いね!なんて考えてる俺を他所に二人いや、一人と一匹?の戦いが始まろうとしていた。てか、始まっていた。
腰のレイピアを異形に向け、何かを小さく呟く。すると、少女の体の周りの空間が歪んで行く。
そして、銀髪の少女は異形に向かって踏み込む。その瞬間、少女が消える。
正確には目にも止まらぬ速さで前に進むだろう。
俺の無駄にある動体視力でも捉えるのがやっとだ、常人からすれば本当に消えているように見える筈だ。
少女の閃光にも似たレイピアの切っ先が、異形の人間で言えば心臓の辺りを穿つ。素人目から見れば勝ったように見えた。が、少女は悔しそうな顔をして、大きく後退した。
「やったの…んぐっ」危うく生きてるフラグ建てるとこだった。今いる世界はどうか知らないが、俺の居た世界ではこれを言うと、だいたい生きてる。
「っ………殺し損ねた…」
殺し損ねた!?滅茶怖いこと言うねこの子!しかも敵生きてるの!?さらば俺の人生、さらば異世界。
なんていう俺の心配は無用だった、目の前の異形の体はどんどん蒸発していく。
「はは…なんだ勝ったのかよ…驚かせないでくれよマジで!?寿命縮むかと思ったわ」
「そういうことじゃないの……。まぁいいわ、あなたには関係ないことだもの」
とはぐらかされ、改めて蚊帳の外感をしみじみと感じていると、
「ところであなた、何故ここに居るかきちんと説明して」
語気が強くなっている、しかしそれは怒りと言うより心配であった。
なので誤魔化す必要はないと勝手に判断し、
「いや、走ってたら着いちゃって、その……ね???俺自身ここに来る気はなかったけど…ね??」
と辿々しく言う。うまく説明できず戸惑っている俺を見て少女は安堵の息を漏らす。
「取り敢えず無事で良かっわ、本当に。次からは気を付けるのよ」
と注意され
「気をつけま〜す」とゆるく返事をして、帰ろうとする。
が、ふと気づく。ここは異世界だ。住むとこねぇ、お金もねぇ、バスは一日二回来る。バスがこの世界にあるかは知らないが、とりあえず今の俺の状況は……
「帰るところないじゃん!!!!」
とんでもなく大きな声を上げた気がした。実際大きかった。
「えっ??今帰る所がないって言ったの?」少女の声
「え、ええまぁ…」
その返答を聞くと彼女はやや困った顔をしたがすぐに、
「困った人を見捨ててはおけないもの」と呟き、
「いいわ。うちに来て。これも何かの縁だし」
と微笑みながら言われた、今日で何回目かの今世紀最大の喜びだ。