1ルート目 ①ことの始まり
「それで話というのは???」
唐突に切り出す。なぜだか知りたくなったのだ、彼女の疑問が。
「単刀直入……。嫌いじゃないわ。」
「いえい!嫌いじゃないだって!!うれピーーー」と心が叫ぶ。
「それで話というのは…………
貴方、異能力者なの?」
「はい???」
唐突とはこの事だろう。唐突の意味を教えるときに使えるので覚えておきましょう。
じゃねぇぇぇぇぇぇぇよぉぉぉぉぉ。
心がさらに叫ぶさっきとは違う意味で。
「えっと言ってる意味が本当に分からないんだが………。何、イノウリョクシャ???ナニソレオイシイノ???ごめんおじちゃん最近の流行り分からないの。」
言葉の羅列。疑問の羅列でもある。疑問の羅列でしかない。
「えっと……そんなにまくし立てられても私としては……」
困惑の表情が浮かぶ少女。困惑している顔も可愛い。
「そう……よね。急だものね困るのもわかるわ、落ち着いてからで構わないから。」
「お、おぅ、さっきの態度とのギャップが凄い……。狙ってる??」
「はぐらかさないで。お願いだから教えて。」
真面目な顔で言われると困る。
「真面目に答えるよ!?俺って結構真面目だから、男子の中でも真面目な方、真面目度でいったら、一、二を争うレヴェルだよ!」
「それってふざけてるんじゃ?」柔らかな口調でやんわりと指摘された。
「そうだね…ハハハ。」
「本題に入るわよ。あなた異能力者なの?」
思い当たる節が無い訳でもないがきっと違うと言い聞かせて。
「いや、俺の知る限りではそんな少年誌の主人公みたいな感じの力は今のところ目覚めてないかな、いや、でも確か中二の時に…、いや、あれは違うか。」と茶化す。しかし、
「中二の時から既に!?」
「あっ…真に受けるんだ!?」
「えっ…どうゆうこと??」
「いや、何でもない。」
「あ、そう……。それで結局は?」
「うん!!何も持ってないね!!異能力に関しては素寒貧だね!!」
妙にポジティブ、それが俺の取り柄。唯一ではないよ!!ホントだよ!?
「そうなの……。」
何か疑問の残る顔だ。人の表情から心情を理解するのは得意な方だ。
それを対人関係に使ってこなかった自分が恨めしい。
「どうしてそんな困った顔をするん?構って欲しいん?」
「違うの。ただ少し………」
真面目に答えられるとコチラとしても困りものだ。
「俺が異能力者じゃないといけない理由があるの?」
この少女の話を聞き始めてもしかしたらと考えていた。
それがこの状況なのではないか?と。
「ええ、あるわ。それはーーーー」
「それは???」期待がよぎる。よぎり過ぎる。
「この空間。つまりこの教室なんだけどね……」
心臓がバクバクしている。これで3日分の運動はできた気がする。
「異能力を持っている人間しか入れないはずなの…。」
驚き桃の木山椒の木。鳩が豆鉄砲の代わりに対空ミサイル受けるくらいの衝撃。確実に即死。1000回ループしても勝てる気しねぇな。
これは自分異能力あるのでは??という淡い期待が生まれた。
淡いがおよそ今世紀最大の期待だろう。しかし、昂る気持ちを抑え、
落ち着いて、いや落ち着いていられないけれども、男子にはわかるこの謎の高揚感と戦い、見事打ち勝った俺は、少女にまた聞く。
「それってつまりさぁ………
俺異能力者じゃね!?」
残念、男子の本質的な高揚感には打ち勝てなかった。
「ねぇ!そうゆうことかなぁ??そうゆうことだよね!きっとそうだよね!なんとなく思ってたんだ〜、もしかして選ばれた人間的なやつなんじゃないかなぁって、どうすか?なんすか?俺の異能力!!
冷凍系?焼却系?はたまた古から存在する禁断の黒魔術的なやつですかぁ?」
中二全開とはこのことである、そっち系の知識にはとても詳しい。そしてきっとこの言動は後世に語り継がれるほどの醜態かも知れない。あぁ、お婿に行けない。
しかし、幸運なことに、
「異能力に詳しいのね」と暖かく笑い返してくれた。
できればこの笑顔が本物でありますように。と神様にお祈りしつつ
「うん、まぁそれなりには詳しいかな?」と言ってみたりする。
「そんなに詳しいから、余計に怪しくなってきたわ。」
「そうだよね〜。たしかに俺ってば怪しい。怪しさMAXの不審者だよね」
「不審者ってより、不思議な人。って感じ」
いい意味でありますように、と願いつつ話し続ける。
「で、異能力者だと何かあるの?何かの秘密組織とか、陰ながらに世界の平和を守るとか。そういうのある系?」
それはあり得るのだ。大いにあり得る。てかあり得て欲しい欲しすぎる。
「そんな感じではあるのかな、一応は」
「そういうのあるんだ!?やばい嬉しい」
「うん。やっぱり変な人。」微笑みながら言われ少しドキッとする。
危ういな、美少女耐性はおろか女子耐性すら皆無に等しいのだ、笑顔を向けられれば、ドキッとすることもある。てか、しないはずがない。
「そ…そう?でもあるって知ってるってことは、君もその組織的ななやつに入ってるってこと?」
「あっ……。」
しまったという顔だ。ちょっとドジなとこもあるんだなぁ…。属性持ち過ぎだな。なんて思いながら。
「聞いちゃだめだった?聞いたら生きて返さないとかある?」
「う、ううん。ない。ないと思う………」
語尾に行くにしたがって声が小さくなっていく。不安でしかない。
しかしここは敢えて明るく
「そうなんだ!良かったぁ!まじでビビったわぁ、死にたくないもんね!」
「うん!そうよね?死にたくないよね!」
少女もつられて元気になったようで何よりだ。
「まぁこのことは、誰にも話さないからさ。大丈夫だよ?心配しなくても」
出来る限り声色を優しくして言う。安心感を与えられればいいななんて思いながら。
「優しいんだね。」と呟かれた事には気づかずに。
と、本当ならばここで終わるはずだった、この儘何事もなくこの教室を出て、どこにでも居るありふれた普通の高校生に戻れる筈だった。
また始まる高校生活、華やかな?生活に。
それを行動にうつそうとした時、ふと、また嫌な予感がした。
全身に電撃のようなものが走る。その次は悪寒。寒気がした。不吉な感情の全てが脳裏をよぎる。
少女はまだ何も感じ取っていないらしい、顔色の悪い自分の事を、本気で心配している。
「ここから逃げろっ…………!!!!」
言おうとしたがそんな時間はなく、耳を劈くような轟音が背後で鳴り響いた。
瞬間ーーー
高温の風が背後から吹き付けてくる、赤い炎と共に。
咄嗟に少女を庇おうと抱きついていた。一割の嬉しさと、一割のの驚きと、八割の痛みが自分を支配する。
「あぁ……名前聞いときゃよかったな……」と呟く。
そして意識は暗い暗い闇の中へと落ちていった。
「……………っ……。……ぇ………。きて………。お……がい……。」
誰かの悲痛な叫びが闇に落ちる意識の中に僅かに残っていた。