1 Album
また、あの夢をみた。
殺されかけた時の夢。
助けられた時の夢。
出会った時の夢。
まだ日は昇っていない。早く目覚めすぎたのだろうか。
ベッドの上で寝ぼけながら夢を思い出す。
男と女に殺されかけた私は、銀さんに救われ新たな居場所を貰った。
「――――葵」
よく透き通る声。
銀髪の髪に澄んだ蒼い眼。白いカッターシャツに黒いズボン。
彼はとても美しい。
依存してしまうほどに。
「おい、聴こえなかったか?葵、出かけるぞ」
ノックもせずに躊躇なく入ってくる。
ニ人にとってこれは当たり前のことになっていた。
「今日はどこに行くの?」
「白咲の所だ。また爺さんがやらかしたんだろうな」
白咲は銀が心を許している数少ない人間で、旅館を経営している。
「白咲さん苦手。奥さんいるのに女の人口説くんだもん」
「仕方ないだろ。あくまでも、営業なんだ。………ほら、着替えるぞ」
優しい人ほど注意しろ、と誰かから聞いたことがあるなと、葵は不意に思い出した。
銀は、優しい。
(でも、銀さんは危険じゃない)
根拠があるわけではないが、言い切れる。
「………鈍感すぎです」
* * *
「ん?何か言ったか?」
「別に何も言ってません!」
葵が何かをボソボソと言ったことには気がついた。
もっと言えば、葵の思いにも気づいている。
それに応えてやらないのは葵のためなんかではなく、自分のため。
結局自分は怖がりだ。逃げてばかりいる。
(――――もう、失いたくない。)
「あー、葵」
「何ですか?」
「今は無理だ。……いや、違うな。今は、と言ったが、俺には一生無理かもな。悪い」
ズボンを脱いでいる途中だった葵は、驚きで足がもつれ、転けた。
「な、な、な……っ!聞こえてたんですか!?それより、いつから知ってたんですか!?銀さんのバカ!」
ああ、可愛い。
このまま思いを受け入れてしまう事も一つの選択だ。
しかし、弱い自分は人と向き合うことができない。
人は脆い。簡単にに死んでしまう。
大切な人が二度も同じ人の手によって殺された。
殺された原因は俺だ。
だから、俺は――――。
* * *
「ねぇ、深雪。銀は不器用だね。あれで助けたつもりでいるんだから」
「貴方は残酷です。私はもう慣れましたが、銀や葵《あの子》をからかうのはいい加減、止めにしたらどうです」
「反応が可愛いんだよ。僕が飽きるまでの暫くの間は葵が一番の玩具だよ」
外とは反してその部屋はとても暗く、深雪と呼ばれた女性はとても艶やかだった。
男は――――白咲は楽しそうに深雪の頭を撫で
「今度の玩具はいつ、壊れるのかなぁ」
と嬉しそうに呟いた。
Album=白