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お稲荷物

きつねきゅう

「コンちゃんありがとうね」


 新人さんを勝手に、コンちゃんとそのままの名前を付けて、お昼の〈トルティーヤお稲荷〉を分ける。――何でこれ、トルティーヤ風にしたんだろう……。そこそこ美味しい方だとは思うけど。


 コンちゃんには今朝から随分と助けてもらった。朝の電車でお尻を触られたら、その手に噛み付いてくれたし、上司の朝の小言タイムも、長引きそうになったら鳴いてくれた。上司には聞こえなかったみたいだけど、何だか気が抜けたらしく、あっという間に開放。他にも細かく色々と手助けしてくれたし、お稲荷を献上してしかるべきなお働きです。


「美味しい?」

「こぁー」


 私の手の平位の大きさの白い狐が、自分の身体並のサイズのお稲荷(トルティーヤ風)をガシガシと食べてるのは中々可愛い。時々ちぎって食べやすくしてるけど、サイズの割にはよく食べるなー。そして私以外には見えてないらしい。周りからは、私が〈ツートルティーヤもぐもぐ嬢〉に見えるらしい。――白い服だから、こういう食べ易いのがこぼさなくていいよね。普段結構こぼしてしまう私。




 午後のお仕事もトラブルをうまーく回避し退勤。夜はまだ肌寒いから、お気に入りの赤いショールを装着していざ帰宅へ。


「……のはずだったんだけど、ここどこ……」


 最寄り駅で降りて、いつもの道を歩いているはずなのに、全くどこにもたどり着かない。暗い道を通った時に、ゆらゆらと見えた明かりの方向に歩いたのがまずかったかも。さっきから見知らぬお店や道ばかり。肩を見るとこちらに首を傾げて見ているコンちゃん。――さてどうしよう。


「あ、いたいた。遅かったですねー」


 声をかけられ振り向くと、着物姿の狐さんが提灯を持ってやってきていた。さすがに人(狐?)違いだと思っていたら、【N区の神社のゆかりある方】という事で、言われてみれば確かにぐだり狐さんの神社はそこ。


眷属けんぞくも肩に乗せてらっしゃるし、巫女さん色じゃないですか。まぁまぁどうぞどうぞ」


 言われてみれば今日の服は白いワンピに赤いショール。関係あるのかなと思っている内に、案内されたのはお座敷のある居酒屋さん。いらっさいマセー、予約の者ですーと、スルスルと奥へ。その先には、洋装から和装から、とにかく狐祭。頭の上に耳が出ていて尻尾が生えている以外は見た目変わらない人(狐)から、顔が狐そのものの人(狐)までいる。そして座った私の横にはぐだり狐さん。


「〈こちら側〉への急なお呼び出し申し訳ありません……。九尾の方が、急に集めたもので……」


 と、おしぼりを二つ渡してくれる。一つはコンちゃん用にだ。――全身くるめそう……。と思ったら、早速布団みたいにくるまってる。


「飲み物は、何にします?」


 渡されたメニューは、私がよく知ってる居酒屋チェーンの瓜二つ。もしかして系列なのかな。店員狐さんに声をかけて、飲み物を頼んでいると、九尾の方が入って来る。


「おぉ~いきなりの呼びつけすまんのぉ。新人に伝えさせたのじゃが……」


 コンちゃんを見ると、「伝えたよ」という様な顔でこちらを見てくる。


――むー。言葉が喋れないしね。仕方ない。


 主賓が来たという事で料理もどんどん運ばれてきて宴が始まる。私の知ってる飲み会と何も変わらないという。途中で九尾の方が、コンちゃんをさわさわと撫でたりしていた。もふもふ尻尾揺らしながら、さわさわもふもふ。すごいどっちも撫でくりまわしたい。


「ほー、名付けたのか。更に懐くというか、多分帰らんぞ?」


 名前をつけるというのは、その位強い意味があるらしい。勝手に付けちゃったけど、大丈夫なのかな。


「まー、困ったらわらわの所で働いてもらうしのー」


 耳をパタパタ、尻尾をふわーり。そしてコンちゃんはおねむらしい。もうそんな時間かと、携帯電話を開くと、そこそこよいお時間。そして電波の表示が管狐三本になってる。本当にちょっと違う所なんだなぁ。


「もういい時間じゃからの、お開きにするのじゃ」


 お会計は終わっていたらしく、みなみな挨拶しながら帰っていく。私は払ってないと、財布を出しかけたら、ぐだり狐さんに止められる。


「今回は強引に招待してますし、気にしないで下さい」


 と、ウインクされた。そして提灯片手に見慣れた神社へと案内され、鳥居をくぐったら喧騒が返ってきた。帰りは随分早かったけど、あっちとは意外と近いらしい。


「怪しい灯りは、視界の端で見るといいですよ」


 こういうの、と目の前でボフンと出された妙にゆらゆらと揺れる炎。すぐ消してくれたけど、やけに目が惹きつけられるし、吸い寄せられる感じ。狐火らしい。眉毛に唾を塗っても回避出来ると言われたけど、化粧崩れちゃいそう。


「まぁ、もし何かあったら、電波三本でも、管狐三匹でも、電話つながりますから」


 と、スマホを見せ付けられる。最新モデルだった。油揚げのご利益はこんな所まで影響しているらしい。羨ましい事です。

お稲荷トルティーヤ。ファ◯リー◯ートさんの新作ですが、食べるとお稲荷なのかトルティーヤなのか、脳内が混乱しました。


コンちゃんは、きっと携帯の基地局みたいに、管狐アンテナにもなってそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分の生活の中にこれだけ自然に狐が溶け込んでいたらいいなぁなんて思っちゃいました! おキツネさまの力があれば管狐でも電話つながるのかw
[良い点] 『きつねはち』もそうですけれど、大手町とかの地下鉄の駅のような辺りに管狐が出没しているところが、すごいいいです。
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