快進撃
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僕はいま大いに頭を悩ませている。
僕にはある悪癖があった。「厳しくなって行き詰まるまではドンドンと進んでいく」というものだ。まぁ普段から『盾役のストーンゴーレム4体、近接戦闘用のアイアンゴーレム4体、魔術を扱うクリスタルゴーレム1体、そして切り札として、近接戦のみならずクリスタルを埋め込むことで魔術も少し扱えるスチールゴーレム1体』という、並の冒険者パーティ2つ分の戦力を保有しているんだ。慢心とも言い切れないだろう。
だがいま、僕の目の前には"魔王城"がそびえ立っている。
おかしいだろう。いくら先日、石像から創ったストーンゴーレムが強力だったからといって、これはどうなんだ?
強力な溶解液を持つヒュージウーズはあっさり核を貫かれてただの 汚 泥 になった。
牙と槍の穂先に麻痺毒を持ち集団で襲いかかるオークの集団は何があったか理解した頃には全員の首が落ちていた。
必ず番で現れる雄の沈黙雄梟と雌の睡眠雌梟は、いつの間にか放たれていた1発の石つぶてに貫かれていた。
馬鹿みたいな硬さの外皮と阿保みたいな耐久力を持ち、体には常に毒の瘴気を纏う陸鯨は流石に奮闘した。なんと倒されるまでに攻撃行動を行うことができ、こちらのストーンゴーレムさんの攻撃に5回も耐えたのだ。(普通は手練のパーティ4つが波状攻撃を仕掛け半日掛かりで倒す代物だ。ちなみに僕は倒したことはない。)
なお、僕が全ゴーレムに出していた命令は「索敵、要警戒、敵性反応を感知したらマスターへ信号を送り、対処できるなら無力化せよ」という敵勢力圏移動中用のものだ。
この3日間で僕が受けた報告信号は『敵発見、無力化可能、行動開始……無力化完了』のみである。
なんという理不尽さだ。強いに越したことはないもう少し常識的な強さであって欲しい。そんなことを考えながら、スチールゴーレムに料理をさせている。今日の夕食は昨日仕留めたう陸鯨のステーキだ。魔王城を目の前にしてどこか呑気に食事する僕もどこか毒されているような気がしないでもないが、あっこれスッゴイ旨い!ちょっとスジっぽいけれど噛むたびに滋養味溢れる肉汁が溢れ出てくる!独特の臭みはあるけれど、この旨さの前ではただのアクセントに過ぎない。いやむしろ、より引き立てているといっても過言ではない。
魔術学院の同期にいた、食い道楽野郎(それも魔物肉限定)の言っていた「強い魔物ほど旨い」は本当だった。「どの魔物が旨いか」は散々聞かされていたがどうせなら、美味しさを表す語彙について聞いてもおくべきだった。この感動をその半分も表せていないのが悔やまれる。
満腹になったことで、明日の戦いについて考えを巡らせる。歴代魔王の傾向からいって、魔王城の中にはより強力な魔物は溢れていることだろう。だが、罠に警戒しながら常に全力で退路を確保しつつ、前線はあのストーンゴーレムさんにお願いすればそうそう窮地に陥ることもないはずだ。玉座の間付近以外では通常の転移魔術やスクロールも妨害されないことが多いらしい。
というわけで、明日は魔王城の威力偵察に専念しよう。結果次第では、明後日を準備に充てて、その翌日に玉座の間に突入することも考えておく。
……魔王の肉は旨いんだろうか?
ストーンゴーレムさんはチートじゃありません。れっきとした実力差なんです。というかこの程度ないと魔王を瀕死になんて追い込めません。
明日も18時に投稿できるかは今日の残業次第……!