出会い
この作品内でのゴーレムはだいたい50cm〜2m、大きくても4mくらいで、
彼の操るゴーレム達は1体のみ2.5m、他は2m前後の大きさです。
ゼェゼェいう音がうるさい。口はカラカラに渇き、喉は少しでも多くの空気を取り込もうと必死で、胸は今にも張り裂けそうだし、早鐘を打つ心臓は爆発しないのが不思議なくらいだ。
それでも手足の動きを止めることはできない。振り返らなくても、近づいてくる地響きがその存在を教えてくれる。サイクロプスという名の「明確な死」だ。
何故こんな事になったんだ。僕は魔術学院のエリート、世界有数のゴーレム使いなんだぞ!?オーガだろうがバジリスクだろうが、僕の操るゴーレム達にかかればゴブリンを相手取るのと変わらない。サイクロプスだって何度か倒したこともあるんだ。なのに何だ、あの"赤いサイクロプス"は!?クリスタルゴーレムの放つ魔術を跳ね返し、複数のストーンゴーレムを一撃で盾ごと粉砕し、主力のアイアンゴーレム達どころか、切り札のスチールゴーレムも両手で握り潰された!なんなんだこの悪夢は!
僕にできるのはただ走って逃げることだけ。いや、違うか。走ることでアイツに捻り潰されるまでの時間を少しでも伸ばすことだけだ。畜生、何か、何かまともなゴーレムの材料さえあれば"転移のスクロール"が発動するまでの時間稼ぎができるのに!!周りを見ても木と草と土しかない!!ウッドゴーレムやクレイゴーレムではそこまでの時間は稼げないし、ブリックゴーレムはもう少し強いが出来上がるまで時間がかかる。グラスゴーレムなんか創るだけ無駄だ!魔力は十分にあるのに!ここに鉄鉱石が、いやせめて岩さえあればどうにかなるのに!なんでここは森なんだ!
そうして走り続けていると、森の中にポッカリと穴が開くように半径10mほど土が剥き出しになっている場所に出た。真ん中には何故か一体の石像が置かれている。一瞬、剣を構えたまま石化した人間かと思ったがすぐにその考えを打ち消す。あれが纏っているのは(見た目はただの石だが)石化を防ぐ"鏡の鎧"のようだし、そもそもここら一帯には石化を行う魔物はでてこない……はずだ。あんな"赤いサイクロプス"なんて変異種を見たせいでどうも自信が持てない。
石像の顔は、悔しいような憤るような、それでいてどこか諦めているような凄まじい形相をしていた。ここに湖でもあれば、恐らくこれとそっくりな表情を水鏡の中に見つける事ができただろう。
そうして冷静に観察という名の現実逃避をしている自分に気が付いた。この広場にあいつも現れた。もう数秒もすればあのサイクロプスが追いつくだろう。だが幸いにして僕は「手頃な岩」を見つけた。それも最初から人型をしている分、ゴーレムにするのも一瞬で済むだろう。石像に手を触れ魔力を流し込む。ちょっと魔力の通りが悪かったがこれで完成だ。
「いけ、ストーンゴーレム!あいつを倒すんだ!!」
別に倒せるとは思っていない。だがこれで"転移のスクロール"を発動する時間はなんとか稼げそうだ。そして僕はスクロールを発動することが…………できなかった。目の前には"赤いサイクロプス"が……縦に真っ二つになったサイクロプスがいた。
剣を振り下ろした石像とともに。
「壊れたゴーレム達」を材料に新たなゴーレムを創らなかった理由ですが、
まずゴーレムは使用者の魔力を対象の材料に染み込ませることで形作られます。
「壊れた」あと魔力が抜け切るまでの約10分間はゴーレムの材料として理由できないんです。
手作業で魔力を吸い取ることもできますがそれでもゴーレム1体分の材料に対して5秒前後掛かってしまうので、戦闘中に行うには致命的なんです。
これらの設定も話に組み込みたかったのですが、前回が説明回だったのでテンポを考えたのと、逃走中の独白にしては説明口調になり過ぎてしまったので、私の実力じゃ削らざるを得ない。