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精油の子

カオルは頭をぶつけないように注意しながら小さな入り口から中に入りました。



小屋の中は暗いけれど、開け放しの入り口から光が入っているので、何も見えないほどの暗さではありません。



黒髪の女の子が椅子を指さし座るよう促しました。



「 失礼します。 」



カオルは椅子がかしがっていないか後ろ手に確認しながらそっと腰を降ろしました。



椅子から手を離し、腿の上で組むと先程さわらせてもらった精油が乾いて細かい砂のようになっています。



カオルは手をこすり合わせ砂になった精油を落としていると、腿の上に濃い緑色のようなグレーのような色の砂がサラサラ溢れては固まっていきました。



まだ全部落とし終わらないうちに、その固まった砂が針ネズミのようなハムスターのようなモモンガのような姿になって動き出しました。



( かわいい! )



カオルが両手にすくい上げると、その動物は腕を這い上がって洋服の首から胸の方に入ってしまいました。



カオルはその不思議な動物がすっかり気に入って、まだ両手に精油の砂が付いているのも気にせず、胸の辺りに丸くなっている動物をそっと洋服の上から押さえながらたちあがりました。



すると「 それを連れて帰ってはならぬ。 それを連れて行くと痙攣を起こすのじゃ。 そなたがの。 」



と、おばあさんがカオルを見透かしているかのように言います。



「 私が痙攣を起こすのですか? 」



「 そうじゃ。 」



おばあさんはそれきり何もも言いません。



カオルは悲しくなって再び丸太で作られた椅子に座り、眠っている動物を起こさないよう胸から出しました。



暗くてよく見えませんが、精油と同じ濃い色。砂と言うよりサラサラした葛粉の手触り。



こんな動物を見るのも触るのも初めてです。



今、会ったばかりなのに別れるとなるといとおしくて悲しくて帰ることができず、手の中で眠っている精油から生まれた子を親指でなでていました。



しばらくすると女の子がカオルに近付いて耳元で「 大丈夫にしてあげる。 」と言うのです。



「 えっ! 」カオルは耳を疑いました。



女の子はもう一度「 大丈夫にしてあげる。 」



と言ってから「 でも、あなたは自動車に乗っては帰れなくなるの。ここから出ている電車で帰るの。それでもいいかしら?」と続けました。



「 ええ、いいわ。この子を連れて帰れるのなら電車で帰るのだって平気よ。 」



「 じゃあ、目を閉じて。私がこれからする事を見てはいけないの。その子が死んでしまうか、それともあなたが倒れるか、どちらかになるわ。見ないと約束できる? 」



「 できるわ。ハンカチで目を覆うのでいいかしら? 」



「 いいえ。何も使ってはいけないの。あなたの意志で目を閉じて見ないでいるのよ。 」



「 約束するわ。 」



「 どれくらい待てばいいのかしら? 」 カオルはしっかり目を閉じたまま女の子に聞きました。



「 成功するまでどれ位か分からないけど頑張ってみるから。すぐできるか、なかなかできないか。



じゃあ始めるわ。 」



物音はしない。



目を閉じると薄暗い小屋の中にいる感じが一層強くなったように思えます。



ただただ暗闇です。



カオルは好奇心に負けないように強く目を閉じました。



両手の中には精油の子がいます。



頭、柔らかくて冷たい耳、小さくてチクチクする爪が付いている前足、1分に60回位は呼吸しているらしくおなかが忙しく動いています。丸めた背中、丸い尻尾、後ろ足。



眠っている精油の子を指で確認しながら、カオルは考えました。



( 呼吸が1分に60回位だと脈も人間の3倍かしら。すると脈は180回~200回かな。 そうそう、何を食べるのか聞いて帰らないと。



そう言えば、電車なんか走っていないわよね。山の中ですもん。いつから? どこから?電車が走るようになったのかしら?



電車が走っているとしたら何時発のに乗ることができるかしら。松本行きあるわよね。



でも、この子と一緒に暮らせるなら歩いて帰ってもいいわ。 )



カオルはそんなことを考えたり計算したりして目をしっかり閉じていました。



「 でーきた。 目を開けていいよ。 」



女の子がちょっと嬉しそうにいいました。



カオルはあまりにも力強く目を閉じていたので、すぐに目があけられません。



( あら? 目の開け方を忘れてしまったかしら? 目を開けたらさっきの薄暗い小屋の中はどう変わっているのかしら? )



カオルはゆっくり頬の力を抜いて恐る恐る目を開けると



何も変わったことは起きていませんでした。



ほっとしているカオルに女の子が言います。



「 もう帰っていいわ。 電車は10分後に出発するから急いで。 」



「 どっちに行ったらいいのかしら? 松本行きなの?その電車 」



女の子がうなずきながら指指した方へカオルは走り出しました。



しばらく走ると苦しくなって咳がゴホッと出ました。



すると、咳と一緒に2㎝位の丸く白い泡が喉の奥から出て、薄茶色の土の上にふんわりと落ちました。



カオルはまだ手の中で眠っている精油の子をそっと洋服のポケットに入れてから、土の上に落ちてもまだ球形を保っている白い泡をつまんで手のひらに乗せて見ました。



キラキラ光る細かい泡。つまんでもすぐに元通りの球形に戻るのです。



その白い泡が少し動いたと思ったら小さな小さな手足が出てきました。



―――3話に続く―――























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