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淡い肌色の山

カオルは松本城ががある町に小さな家を借り、一つの部屋をお姫様がみえてもお喜びになると思う位きれいにステキに飾っています。



カオルはその部屋でアロマセラピーの仕事をしているのです。



その日もカオルは「 お盆に食べ過ぎたから、小顔にしてくださいな。 」と言う午前中のお客様を送り出して、満面の笑顔で手を振った後、丁寧におじぎをすると部屋に戻り、使ったタオルや枕カバーを洗濯機に放り込んでベッドを整えました。



そして、「 フーッ 」と息を吐きながら椅子にどっかりと座りました。



二つのアロマキャンドルが遮光した部屋の中でゆらゆらと灯ってカオルの影を神秘的に映しています。



( そうだわ ! お昼は家に帰って畑のトマトやきゅうり、もろこしも頂いて来ようかしら ♪ )



カオルは椅子から立ち上がると白い熊のキーホルダーを持って愛車の赤い117クーペに乗りこみました。



117クーペは46の若さで亡くなった母の形見です。



とても古い自動車ですが、カオルはそれをメンテナンスしてそれはそれは大切にしているのでした。



さて、カオルが向かったのは山を3つも越えた所にある実家です。



実家の畑はカオルのお父さんが耕して大きく育てた野菜が食べる人を待っているかのようにつやつやと光を浴びて輝いています。



カオルは実家に着くと車を庭に止めて、ミニトマトを目指して歩き始めました。



赤くなったミニトマトが鈴なりになってぶら下がっています。



もいでぱくっと口に放り込むと甘いミニトマトの香りがいっぱいに広がり、カオルはもう一つ、もう一つと続けて食べました。



10個以上食べた頃、「 キュウリも食べよう。 」



思い出したようにすぐ隣の畑へ移動してキュウリを1本もぎ取ってカリカリと食べました。



( やっぱり後でお味噌を付けて食べよう。 )



そして、きゅうりを6~7本採ってからもう一度ミニトマトの所に戻ってもいでは食べもいでは食べお腹一杯甘いミニトマトを食べました。



それでもまだまだミニトマトはたくさんあってどこを食べたのか分からない位です。



今度は 「 こんにちわー 」 と家に入って



「 とうもろこし頂いて行くね。 」 カオルが言うと 無口なお父さんが 「 おう 」 と返事をします。



するとカオルは引き出しからビニール袋を5枚ほど持って、また外に出ました。



トマトをもいで持ってきた袋に入れ、先程採っておいたキュウリを別の袋に入れ、モロッコいんげんをポキポキと折ってこれもまた別の袋に入れて車に戻りました。



そして、それぞれの口を結んで助手席に置くと、少し離れたとうもろこし畑に残りの2袋を持って歩きます。



大きくなっているとうもろこしを見定めながら6本もぎ取りました。



3本づつビニール袋に入れて車に戻り、ミニトマトたちをつぶさないようお隣にそっととうもろこしをねかせました。



家に入って 「 お野菜も頂いたよ。 じゃあまた来るね。 」 お父さんに言うと



カオルは上機嫌で歌いながら帰り道をのんびり運転しました。



と2つの山を越えた時、「 あら? 」 行きには気付かなかったけれど



いつもは草木が生い茂っている谷がきれいに山肌を見せています。



所々に赤松が緑の葉を付けて優雅に立っていて、それぞれの赤松の木の下には大きな鍋がかまどの上に乗っています。



( 何だろう? ) カオルはもっと近くに行って見たくなりました。



タイヤの脱着ができる程に道幅が広くなっている所に車を寄せて止めると窓越しにもう一度見ました。



黒い大きな鍋を囲んで黒っぽい服のおじいさんたちが二人向かい合っています。



カオルは好奇心に負けてついに車を降りました。



谷の方へ下って行くと大きな鍋の中に濃い緑色の液体が入っているのが見えます。



別のおじいさんが赤松の木から液を採って鍋に入れています。誰も何も話しません。



ずいぶん日焼けして洋服から出ている肌は着ている服と同じくらい黒くなっています。



鍋を囲んでいるおじいさんたちの一人に思い切って声を掛けてみました。



「 スミマセン これは何ですか? 」



「 これは精油じゃよ。 香りのない精油じゃ。 地球ではここしか採れんのじゃ。 」



おじいさんは重々しい声で答えました。



「 香りのない精油ですか? 」 カオルは一人言のようにつぶやきました。



赤松の液体が入っているはずなのに大きな鍋からは何の匂いも漂ってきません。



カオルはそのおじいさんにもう一度聞いてみました。



「 触らせて頂いてもよろしいですか? 」



おじいさんは黙ってうなずくと木のひしゃくで濃い緑色の液を大きな鍋からすくって差し出しました。



カオルは恐る恐るひしゃくの下に両手を広げました。



おじいさんはカオルのくるぶしから手の方にたっぷりと精油をかけました。



柔らかい液体で少しトロッとした感じです。



両手にしっとりと心地よい光沢を放ちながらまだ指先から滴が落ちています。



手をこすり合わせると10才は若返った肌になっています。



カオルは「 ありがとうございました。 」 と丁寧にお辞儀をしてもっと下の方に見えていた小屋に向かいました。



山肌の淡い肌色の土の上に直接柱を建てて壁を塗り、茅で作った屋根を乗せただけの小屋に見えます。



「 ごめんください 。 」



カオルは、開け放してある入り口から声を掛けてみました。



すると、中から 「 お入り 」 としわがれた声が返ってきました。



恐る恐る中をのぞくと



あのおじいさんたちが着ていた服と同じような黒っぽい色の生地で作られた足まで隠れる長い洋服を着たお婆さん (あのおじいさんたちよりかなり年上に見えます。)



と、子供なのか大人なのか分からない女の子が暗い小屋の奥にいるのが見えました。



さらさらの黒い髪を顎のラインでまっすぐ切り揃えてあり、大きな黒い瞳が印象的です。



「 し 失礼します。 」



カオルは、自分より低い入り口に頭をぶつけないように、足元にある太い丸太を削っただけの敷居につまずかないようにゆっくり中に入りました。



ー 2話に続く ー





























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